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3.まさかの寮室

 アルマスは疲れた体を無理矢理動かして指定された寮室に向かっている。


「イグテス~。背負ってくれ~。頼む~。」


「そのぐらい頑張ってください。見っとも無いですよ。」


 イグテスは地図を見ながら、アルマスの先導をしている。また、寮が同じなためアデケイラもアルマス達と行動していた。


「動けなくなるのはよろしくないが、然るべき時に全力を出せるのは良いことだ。順位も上位のほうでもあり、それは誇れることだと思うぞ。」


 今の状態のアルマスを見ながらアデケイラはそう言う。


「おい、ダントツ一位の奴がそれを言うのは嫌味でしかないから気を付けろよ。」


 アデケイラの言葉にアルマスはそう反応した。


「そうか。嫌味になるのか。以後気を付けよう。」


(こいついろんな所で敵を量産しそうだな。)


 アデケイラの反応に対してアルマスはそう思った。


「少し寄り道になるんですが、売店があるらしいですよ。行ってみます?」


 イグテスがアルマスに問い掛けてきた。アデケイラはどちらでも良いようで判断はアルマスに委ねられた。


「疲れてるし、さっさと寮に行こうぜ。」


 アルマスは本当に疲れているようだ。しかし、そんな疲れもイグテスの次の言葉で吹っ飛んだ。


「入学セールがあるらしいんですが、その中に猛獣とか鉱石の素材もあるらしいですよ。」


「マジで!!行こう、今すぐ行こう!!」


 アルマスはさっきまでの疲れを感じさせたない動きでイグテスを急かす。こうなることを予想していたイグテスも若干苦笑いしている。イグテスは少し歩く速度を上げてその売店に向かった。


「白獣運輸カルワルナ支店、てっきりマイナーなところがやってるのかと思ってたが結構大手のところなんだな。」


 アルマスは店の看板を見てそう言った。


「ちなみにこの店は学校の敷地の境目であり、反対方向には一般客ようの入り口があるようです。」


 イグテスはこの店について補足した。


「へー、とりあえず入ろうぜ。」


 アルマスは店の扉を開けた。


「いらっしゃい。見ない顔だな。この時期だから新入生か?」


 店の中には二十歳ぐらいの立派な角を生やした男がいた。


「ようこそ、物好き達のたまり場、俺達の店へ!歓迎するぜ!」


 少し奥のほうでは鉄の兜を被ったがたいの良いおっちゃんがいた。


「お前の店じゃねぇよ!」


 隣に座っていた男がつっこむ。


「いいじゃねえか、俺と店長の仲だろ?なあ、店長!」


「ダメだな。罰として次はクルミル草を採取してきてくれ。近々品切れしそうなんだ。報酬はいつも通り払う。」


「えー、あそこら辺、面倒臭い奴らばっかで嫌なんですけど。」


「知らん、だから貴様に頼むのだ。」


「わかったよ。取ってくりゃいいんでしょ!」


「報酬は少し上乗せしてやろう。」


「よっしゃあ!やる気出てきた!」


 周りの客は二人のやり取りを笑いながら見ている。どうやら鬼人の男は店長で、このやり取りよくある光景らしい。また、飲食店としても営業しているようで、彼らはステーキを食べながら話していた。


「で、すまんな。この店の店長?店主か?まあ、責任者のカザマル=シカブキだ。まあ、適当に見ていきな。」


 カザマルは白い髪に白い角を生やしていて身長は百九十センチぐらいはありそうだ。年齢は公開されておらず、鬼ということで数百年生きている爺じゃないかという説もあったりする。

 アルマス達は店長に促されて店に入っていった。アルマスとイグテスは早速素材コーナーに行きアデケイラもそれについて行った。


「アルマス、この鉱石最近切らしてなかったですか?」


 イグテスは青い石を見ながら話す。


「あ~、最後に鉱石類を大量に買ったの三年前ぐらいだったもんな。その後は特に大きな物作ってなかったから、そんな必要じゃなかったからな。名前はブルーストーンだったか?初めて見た時は名前が安直過ぎて笑ったよ。」


 アルマスもその石を眺めて楽しそうに話す。


「まあ、変にややこしい名前になってるのと比べたら、マシじゃないですか?」


「確かに。あと、これは、、、」


 二人が話している間、アデケイラは木材や金属を中心に見て回っていた。


「何か探し物でもあるのか?」


 店長はアデケイラに話しかける。


「頑丈な材料を探している。金はあまりない。」


 店長は少しアデケイラを眺めた後、


「あー、なるほど。すまないが今あるのでは君に耐えられる素材はないな。値段に関係なく。そうだな、しばらくしたらもう一度来るといい。もし、それが手に入ったのならば、ある条件で譲ろう。」


 アデケイラに契約を持ちかけた。


「条件は?」


「なーに、ただの怪物退治に同行してほしいというだけさ。」


「わかった。その契約を受けよう。」


 アデケイラの即決に店長は少し驚いて、忠告した。


「あまり、こういう契約は即決しない方が良いぞ。詐欺の場合だってあるからな。」


「大丈夫だ。しっかり相手は見ている。これで騙されていたなら、自身の眼が悪かったということだ。」


 アデケイラは少しその紅い眼を店長に向けてそう言う。その後、日の傾きを見て、アルマス達のもとに向かった。


「アルマス、これ以上長居すると説明会とやらに遅れる可能性が出てくるが良いのか?」


 アデケイラがアルマスに聞くと、アルマスとイグテスは顔を見合わせて、


「やば!!」


「ヤバいですね!明日また来ましょう。」


「わかった。では、失礼しました!!」


「失礼した。」


 ドタバタと三人は急いで荷物を持って店を出た。


「あっ、やべ、体力尽きてるの忘れてた。」


 アルマスが転びそうになるとそれをイグテスが抱えた。


「仕方ない。」


 イグテスはトランクを地面に置いた。


「黒晶を使います。二人共こちらによってください。」


「えっ、マジで」


 何とも言えないような表情になったアルマスを尻目にイグテスはトランクから真っ黒な水晶玉を取り出した。


(プロクスとの接続は良好、座標の取得、、、成功、空間の乱れは許容範囲内、、その他問題は見られず、雲は、、ありますね。)


 イグテスは水晶玉に魔力を込めていく。そして、アルマスが詠唱を始める。


「黒く、黒く、黒く。境界は黒く曖昧に。時空は歪む。天上の眼の導きに従い、我らはいざ彼方へと参らん。」


「行きます!」


イグテスの言葉と共に水晶玉から一瞬黒が広がり、空間が歪んだ。すると次の瞬間、そこは寮の中庭であった。


◇ ◇ ◇


「セーフだったな。」


「なんとか間に合いましたね。」


 説明会を終えてアルマスとイグテスは自身らの寮室に向かいながら話す。


「それにしても、一つの部屋に2~3人か。必ず誰かと同じ部屋になっちまうんだよな。」


「まあ、それは仕方のないことです。空間拡張で外から見たよりは大きく作られてるらしいですよ。あと、電気も通ってるらしいですし。」


「そこは嬉しいところだよな。寄るでも明るいし、電熱だっけ、それで物を暖められるとか。名門校だけあってそこら辺の設備には舌を巻く。」


 階段を上がっていくと目的の場所が見えてきた。


「えーっと部屋番号は6418、この六号館の四階の十八番目の部屋ですね。扉でかいですね。」


 イグテスはこの階の部屋の扉が平均的にでかいことに気がついた。


「でかいな。まあ、いいか。じゃあ、ここだな。明かりが着いてるってことは鍵は開いてるだろう。はてさて、同室とのトラブルは避けたいね。では、こんばんわ。」


 アルマスは扉を開けて、自身の部屋に入った。

 まず、アルマスの目に写ったのは凄い勢いで放出された水流であった。


「へ?」


 アルマスは凄い勢いで扉からぶっ飛んだ。


「女子の部屋に入って来るとかモラルってものがないのかしら?しかも着替え中に。」


 部屋のなかには軽く上着を羽織った茶髪ロングの女子がいた。肌や髪は軽く湿っており、入浴後であることが窺える。咄嗟に水流を発生させたことから水魔法が得意なことが考えられる。また、魔法を使ったせいか彼女の眼は緑に輝いていた。


「ちょっと待てよ!まず、この部屋の番号は?」


 アルマスはすぐに起き上がってその女子に確認する。


「は?6418に決まってるじゃない。」


「は?」


 彼女の言葉にアルマスとイグテスはポカーンとする。


「え、俺達も6418なんだが?」


「えっ?」


 アルマスの言葉とその証明としては出された紙に彼女もポカーンとする。


「カノンちゃん、いきなり水ぶっぱして何かあったの?」


 部屋の中からアリスが出てきた。


「アリス聞いて!この人たち私達と同じ部屋番号なんだけど!!」


「えっと、あっ!朝ぶりだね。こんばんわ、アルマス君とイグテス君。同室だったんだね。これからよろしく。」


 アリスの飲み込みの速さと順応力にアルマス、カノン、イグテスの三人はポカーンとする。


(アリスって大丈夫か?常識が俺達以上に欠けてないか?)


(そのようですね。)


 アルマス達は脳内会議を開いて取り敢えず落ち着くが、カノンはまだ混乱したままだ。


「6418号室はここか?事情があって急遽この部屋になったアデケイラだ。よろしく。ん、アルマスとイグテスか。まさか同室になるとはな。」


 まさかの四人目にアルマス達はポカーンとなる。取り敢えず、収集が着かなくなる気がしたので、全員部屋の中に入って話すことになった。


「えーっと取り敢えず自己紹介か。魔法科13組のアルマス=クロックだ。こいつは使い魔のイグテス=クロックだ。よろしく。」


「よろしくお願いします。」


 アルマスは取り敢えず自己紹介をした。


「同じく魔法科13組のアデケイラだ。」


「えーっと、魔法科6組のアリスです。」


「魔法科6組のカノンよ。」


 沈黙が訪れる。アルマスとしてはもとから、あまり喋りたくない。カノンとしては気まずい。アリスとアデケイラについてはこの状態の何が問題かが分かっていないが空気を読んで黙っている。


(イグテス頼む。この空気何とかしてくれ。)


(えー、分かりました。取り敢えず私がこの場を仕切りましょう。)


 イグテスは立ち上がり、トランクを開いて大きなホワイトボードを取り出した。


「取り敢えず、話が一向に始まらないのでこの場を仕切らせてもらいます。」


 イグテスはホワイトボードに話すべき事柄を書き出した。内容は

・現状の確認

・部屋の使い方について

である。


「じゃあ、まず、現状の確認、つまり、カノンさんとアルマスが問題視していることについてですね。で、ですが、アリスさんはまず、私達が何を問題視しているか分かりますか?」


 イグテスは確認のためにアリスに話をふった。


「えっ、何か問題があるの?」


 その発言にカノンがため息を吐いた。


「アリス、考えてみなさいよ。同じ部屋に同学年の男子が居るのよ。」


「えっ、何か困るの?」


「ほら、着替えとか、お風呂とか、あともしかしたら襲われるかも知れないかもよ。」


「えっ、何で襲われるの?」


 カノンは頭を抱えた。


「いい!取り敢えず、普通は寮室は男女で違うものなの!で、この学校はそこら辺も自由にということで完全ランダムによる決定をしているから今こんな雰囲気になってるの!わかった?」


「う、うん。わかった。」


 カノンの勢いにアリスは頷いた。

 そのあと、イグテスによる寮のしおりなどを用いた現状の説明が行われた。


「えーと、取り敢えず、しおりや説明会などから考えるに男女同室また6号館では部屋が比較的大きいため、急な人数の増加が実際に起こることは分かりました。ということで、今から部屋の使い方について話したいと思います。」


 話は部屋の使い方について、になった。と言っても主に話し合っているのはイグテスとカノンで時々アリスが口出しをする感じだ。男二人は寝れればいいやの精神であり、適当に話を聞き流している。


「こことここは女子の占有地でしょ。」


「それだと通路が無くなります。トラブルを避けるためにも余裕は大きくとったほうがいいかと。」


「契約術使えばいいでしょ。」


「僕とアルマスはもう既に契約術は使えませんし、あなたにアデケイラを術的に縛れるほどの対価を払えると思いますが。」


「あなた達、契約術のキャパが無くなるってどうゆう状況?っていうか煽ってる?」


「煽ってないですよ。事実を述べてるだけですので。」


 カノンとイグテスは相性がいいのかとても仲が良さそうだ。二人があまりにも長く話していたため、アルマスもアデケイラも風呂を入り終え、アリスと三人でトランプをしている。


「イグテス君って意外とまめだね。」


「まあ、イグテスには世話焼きとかそういう所を集約させてるからな。なんか、あの女と話してるといつもの調子がどっか行くようだが。あいつらの中じゃ一番まともだぜ。」


「あいつらって?」


 アリスがアルマスの発言について質問する。


「イグテス以外にも使い魔がいてな。基本的に常時顕現しているのはイグテス含めて二人だけだが、どいつらもいざってときには役に立つ。」


 アルマスは誇らしそうにアリスに話した。


「お前と一緒にいると何か見られていたような気がしたが、それが原因か?」


 アデケイラの発言にアルマスは在り得ないような顔をする。


「め、迷惑だったか?嫌ならやめさせるが。」


 若干どころかかなり動揺している声でアルマスはアデケイラに聞く。


「いや、問題ない。主人であるお前を守るためであろう。」


「そうか、ありがとう。」


 三人はその後、適当なところでトランプをやめて、明日に備えて就寝した。




 結局、イグテスとカノンの話し合いは日付が変わっても終わらず、結論としては取り敢えず様子見ということになった。

良かったらいいねとかお願いします。モチベになります。

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