2.同じ組の奴がなんか凄いんですけど!!
(これはやっちまったな。)
緑豊かな森でアルマスはため息交じりにそう思った。
「転移阻害の機構を搭載しているのを忘れてましたね。後、さっきも言いましたが思うのではなくはっきりと言葉に出すようにしてください。分かっていると思いますが、あなたが思っただけで伝わるのは私達だけなんですから。」
イグテスもトランクから取り出した腕輪を見ながらそう呟いた。
「すまんすまん。以後気を付ける。あと、腕輪についてはしっかり覚えていたぜ。でもさ、「抵抗しないでください」って言われても効果を切るために取り出す時間もなく転移を実行するのは如何なものかと思う。抗議すべきだと思うか?」
「一応、急にされたために抵抗してしまったと言い訳すれば何とかなるんじゃないでしょうか。後、強がっても、気が付いて無かったことはとても伝わってきますので意味ないですよ。」
イグテスはいつも通りアルマスに呆れつつ、トランクに腕輪を収納して立ち上がる。
「そうだな。取り敢えず、教室を探し出すか。」
アルマスは受付で渡された学生証を見る。そこには、校名とアルマスの名前、学籍番号、学部名、学科名、学年組などが刻まれていた。
「えーっと、一年十三組か。イグテス、現在地は?」
「ちょっと時間をください。前にも言いましたがこの学校には魔法障壁が張られているため観測に時間がかかるんです。」
待つこと一分、二人は適当な方向に進みつつ結果を待つ。
「プロクスとの接続を確認。ノイズが凄いですね。現在地、情報取得不可、結果、観測不可、理由は空間の歪み、だそうです。以前はここまで歪みがひどかった記憶がないのですが、」
イグテスからの言われた結果にアルマスは大きくため息をついた。
「マジか~。取り敢えず、頑張って走り回ってみるか?」
「そうですね、いつかは校舎には着くでしょうし、運が良ければ上級生がいるかもしれません。探す物の手がかりがないのなら、クロも活躍できませんしね。暴れないでくださいよ。」
イグテスは鴉となり、イグテスはアルマスを掴んで一気に飛翔した。
「やっぱり、鳥のほうが楽ですね。」
どうやら、イグテスは鳥に化けるのが得意らしい。まあ、そのせいか出力も高く速いため、掴まれているアルマスはトランクが手から離れないようにすることに必死である。
(やばいやばい!!イグテス聞こえてんだろ!一旦降ろしてくれ!右手が死んじまう!!トランクがヤバい!!)
それを聞いてひょいっとイグテスはトランクを空いてる足でアルマスから受け取った。
「軟弱ですね。」
(知っとるわ!チクショウ!)
五分ぐらい飛んでいるとイグテスの眼に人影が見えた。
「制服ですね。学生と思われる男を発見しました。接触しますが、よろしいですよね?」
(どうでも良いから早く降ろしてくれ。せめて、外套ぐらい羽織らせろ!寒いし、空気抵抗凄いしで生身の俺には負荷がでかすぎるんだ!)
アルマスはイグテスに抗議するが、イグテスは前半部分しかまともに聞いておらず、後半の抗議は聞き流した。
また、男の方も既にアルマス達を認識しているようであった。
「彼、眼がいいですね。もしかしたら、飛んだ瞬間から見られていたとか?」
(いや、流石にねえだろ。)
アルマスは常識的に考えてイグテスに答えた。
「確かにそうですね。では落としますよ。」
(あいよ。)
イグテスはアルマスを掴むのをやめ、アルマスは空中でトランクから傘を取り出し、減速して地面にゆっくり着地する。
「すいませーん。新入生のアルマスの使い魔のイグテスなのですが、組み分けの儀で少し転移に抵抗してしまって道に迷ってしましました。お手数でしょうが、魔法科一年十三組の教室への行き方を教えてくださいませんか。」
イグテスはアルマスがゆっくり降下している間にその男の目の前に降り立ち少年の姿に戻って道を教えて欲しいと聞いた。
男は少し困った顔をして、こう言った。
「すまんが俺もお前達と同じ状況だ。俺の名はアデケイラ。魔法科の一年十三組と言ったな。これから同じ組で切磋琢磨していこう。よろしく。」
この男の名はアデケイラ。十五歳とは思えないほどデカく、二メートルはゆうに超えている。筋肉もがっしりしており、髪は黒く男にしては少し長めだ。肌は軽く赤みを帯びている。意識しているのかは知らないが、彼の紅い眼は見た者を威圧する。
「お、おう、アルマスだ。よろしく。」
タイミングよく降りてきたアルマスはアデケイラと握手を交わす。
(握力ヤバ!何喰ったらこんな体になるんだよ。っていうか、眼が怖い。精神安定系の奴作っといてよかった!)
アルマスはそんなことを思うと、アデケイラはアルマスの表情を見て少し考えてから、ハッとして
「すまんな。威圧してしまっていたようだ。そこのイグテスがある獣に雰囲気が似ていてな、つい警戒してしまっていた。」
アデケイラから発せられていた威圧はふっと無散した。どうやら、何かしらの能力によるものだったらしい。それでも、そんなものが関係ないほど彼の纏う覇気は凄まじいものであった。
「取り敢えず、端っこまで行ってみる?」
アルマスは少し恐れながらアデケイラに提案した。アデケイラも何もしないよりはマシだろうと、それを了承した。
「では、腹を失礼するぞ。」
「「ん??」」
アルマスとイグテスが疑問符を浮かべる中とアデケイラは二人を両脇に抱きかかえた。
「では、行くぞ。」
アデケイラは足に力を込めた。瞬間、周りの空気が一変する。風は止み、音が無くなる。途轍もない重圧が付近の万物に降り注ぎ、動いてはいけないような錯覚を起こさせる。猛獣では物足りない。神話の怪物いや、神が恐れおののく鬼神がここに現れた。怪物の紅い眼は遥か彼方へと向けられている。
二人の意識はここで途絶えた。
◇ ◇ ◇
一方その頃、一年十三組の教室では
「はぁー---、、、」
教壇に立っている男がボサボサの薄緑色の頭を掻きながら、大きなため息を吐いていた。
「早速、問題児が二人か。いや、どちらも田舎者だったな。もうとっくに定番と化しているこの行事の存在を知らなかったのなら仕方ないか?」
彼は生徒のいない教室を再び見渡した。取り敢えず、二人が揃っていない以上、話を進める訳にもいかず、さっき新入生には休憩時間も兼ねて班で校内を散策して貰っているところであるようだ。
(まさか、一時間も行方不明だとは。学生達に自己紹介でもしてもたらったりしていたら、ひょこっと来ると思っていたんだがな。取り敢えず、教務の方に捜索して貰っているが、転移の失敗はどこに飛ばされているかは未知数だからな。しかし、校内のどこかではあるはずだから、すぐ見つかるはずなんだがな。やはりこの際、組み分けの儀の廃止を求めた方がいいか?)
彼はそんなことを考えつつ、行方不明者達の情報を配布されている端末で確認した。
(学籍番号MF9342アルマス=クロック。白い髪か、珍しいな。出身地、山の頂上みたいな所、よくこれで資料通ったな。ボーダーギリギリで合格。座学は平均以上、賢いとも言える範囲であるが、実技がかなり悪い。本来なら不合格ラインではあるが、それは使い魔によりカバーしていると。使い魔の名はイグテス=クロック。そして、MF9343アデケイラ。紅眼か。出身地、山林の中。こいつも同類か。こいつは、、、)
彼がアデケイラの情報を閲覧しようとしたとき、それは起きた。
「ん?!!」
彼の研究室に侵入者が現れたようだ。彼は急いで自身の研究室に意識を向ける。
(研究室に侵入者?数は三、外から入った形跡はなし。内側より突然でてきたのか?)
彼は魔法を発動させる。
「まさか、、」
彼は自身の研究室の中に転移した。そこは青年と少年を抱えた巨大な男がいた。
「ははは、、マジかよ、、、」
彼は自身の机においてあったはずの水晶が割れているのを見て全てを察し天井を仰いだ。。
(実験が1からやり直しかぁぁ~、、、まあ、でも、この結果はお釣りがくるか。)
彼は様々な感情を押し殺して自身のやるべき挨拶をする。
「君たちがアルマスとアデケイラだね。改めまして、ようこそ、我らがメヤタルナ魔法学校へ。取り敢えず、教室に向かおうか。みんなは、、そういえば待たせてなかったな。」
(待つのもだるいし、集めるか。)
彼は若干格好つけて指を鳴らした。その瞬間、アデケイラ達は教室におり、また、この組全員もここに急に現れた。
彼は教壇に立つ。
「全員集まったな。それでは自己紹介をしよう。二回目だから簡単にだが、俺の名はテトラ=カルーマン。空間魔法学を研究している。この十三組の担任だ。」
男の名はテトラ=カルーマン。30歳と若くして空間系の分野にて多大なる功績を現在進行形で残し続けている天才で、迷宮探索にて邪竜討伐を成し遂げた英雄達の一人である。耳が少しではあるが尖っておりエルフの血が混じっていることが窺える。
「好きな物は金銀財宝、嫌いな物は飢えだ。よろしく。」
テトラはそう言い放つとすぐさま転移で生徒をグランドに移動させた。
「早速で悪いが、身体測定だ。時間が押しているのでさっさと済ませるぞ!!!」
テトラによる急な場面転換により、生徒たちは勿論混乱したが、一応予定には元々あったものなので、生徒たちの大部分は魔法を使って着替えた。
「うわ、エリートだ。」
圧倒的少数派であるアルマスはそんな光景を見て、かなり焦った。
「そういうのは声に出さなくていいと思います。」
アルマスにイグテスが言う。
「しかし、アルマスの言っていることは確かだ。瞬間的な着替えにはボックスからの取り出し、着ている服をボックスに転移、取り出した服を転移させるという動作を瞬間的に行わなければいけないからな。」
隣にいたアデケイラの説明にアルマスとイグテスは頷く。因みにアルマスはイグテスにやってもらい、アデケイラはそもそも着替えていない。
彼曰く、「制服や体操着程度の差異で記録が変わるなら、それは自身が未熟なだけなこと。」だそうだ。
「では、手元にプリントを配ったから、それに従って終わらせろ。では、準備ができた者から始めろ。」
テトラが合図を出すと生徒達は一斉に動き出した。
種目は全部で八種類である。内容は50m走、ボール投げ、反復横飛び、長座対前屈、握力測定、立ち幅跳び、垂直跳び、1500m走だ。
また、計測は魔法により、自動で行われるため、パートナーなどを組む必要はなかった。アルマスとアデケイラもさっさと終わらせるために参加していった。
◇ ◇ ◇
テトラは自身の研究室で生徒の結果を見た。まず真っ先に目に入ってきたのはアデケイラである。アデケイラは凄まじかった。次元が違った。ほぼすべての種目において、常識の外側の記録をたたき出し、大抵の種目においては測定器具が耐えられなかった。魔法を使って強化してもあの領域に踏み込むことは、大英雄など以外ではまず可能であろう。
(なるほど、あれだけの理不尽な力があれば、常人に不可能なことでもできるよな。確かに彼ほどの身体能力があれば、本来は魔法が必要であってもごり押しが可能であるな。メヤタルナ魔法学校の入試は良い意味でも悪い意味でも結果しか見ない。なので出来てしまえば、魔法の才は関係ない。)
テトラはアデケイラが試験に合格できた理由に納得した。
(はて、例外は置いといて他の奴を見るか。)
テトラはアデケイラから離れて二位以降を見ていく。
(二位はケテル=カルス。あのカルス家の人間か。貴族様は面倒くさくて苦手だがこいつは果たして。三位はスターク。四位カナ、女子がこの順位とは珍しい。混血か?まあ、ここら辺からは才能とか関係なく鍛えてるかどうかって感じだからわかんねえか。)
そんなことを考えながら彼は生徒の成績を一時間程度見続けた。