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1.入学

スローペースですがよろしくお願いします。

ピッ!ピッ!ピッ!ピッ!ピピピピッ!ピピピピッ!ピピピピッ!ピピピピッ!ピピピピピピピ、ドン!


 部屋に高い機械音が鳴り響き、それは布団から伸びてきた腕によって叩き止められた。腕はそのまま布団の中へと帰っていった。


「起きなさい!朝ですよ!」


 部屋の扉が開き、少年が入ってきた。肌は白く、背は百三十センチはあるだろうか。整えられた黒髪はサラサラしており、眼は青みを帯びた白色だ。ピシっと少し装飾の多い制服を着こなしており、顔は中性的で人形のように整っている。


(嫌、、だ、俺は、、寝た、、)


 ガンっと少年は布団を蹴りつけた。


「あがっ!」


 それにより一部布団がめくれ青年の背中が現れる。


「二度寝ダメ!絶対!」


(こいつ、蹴ってきやがった!お陰で意識ははっきりしたが、俺は眠い!寝る!)


 青年は必死に布団を引き寄せて丸まった。


「おーきーろー!!」


ガン!ガン!ガン!と少年は何度も青年を蹴りつける。


「痛い痛い!起きる!起きるから!!」


(その足で蹴るな!地味に硬化しているだろ!)


 青年は口と心から少年に訴える。


「その言葉は信用なりません。その言葉の後に私が退散して起きてきた試しがありましたか?」


 少年は蹴るのをやめて聞く。


(あー、なかった気がする。)


「あなたはいつも授業寸前まで寝ている馬鹿野郎なのでいつも遅刻しないか心配なのです。」


(それはすまん。)


「それに今日は初日ですよね。遅れたら印象最悪ですよ。」


(学校からの印象なんてどうでもいいから問題ないな。ってことで寝る。ワンチャンお前だけでも出席扱いになるんじゃね?)


「バカですか。私の立場はあくまでも使い魔です。それに初日に休んだ場合この必修の単位が取れなくなるの書いてましたよね?」


 どうやら、この少年は寝ている彼の使い魔のようで、日常的な世話をしているようだ。


(それは、、、ヤバくね?ヤバイよね!留年確定するよね?それは嫌だ。)


 青年は少年に説得され、布団から出てきた。髪は白色でボサボサ。背は百七十あるかないか。今年で年は十六である。体は少し運動しているのか、ある程度筋肉が付いている。顔はある程度整っており、澄んだ碧眼を持っている。


「あっ、起きた。」


 青年は身体に異常がないかを確認する。


(怪我はしてないな。加減されてるから当たり前か。)


「イグテス、飯は?」


 少年の名はイグテスと言うようだ。


「既に用意してあります。」


(いいね!服を。)


「既にここに。」


 イグテスは自身が着ている制服と同じものを持ってきた。


(分かっていたが、堅苦しそうな制服だな。まあ、取り敢えず、俺は颯爽と布団から出て服を着替える。)


「自分で思ってて悲しくならないですか?」


(言ってねえから問題ないだろ。俺の考えを読めているのはお前だけなんだから。)


 イグテスは器用にも、青年の考えと声の両方を聞き取り、対応していく。因みに、青年が心の声と口からの声のどちらを使うかは気分次第であるが、それは基本的に引きこもりであり、他人との関わりがほとんどないことが原因である。


「確かに。一階に朝ごはんは用意していますので、さっさと食べて行ってきてください。」


「あいよ。」


 青年は自分の部屋を出て一階のリビングに向かった。


(おっ、あったあった。やったぜ!今日は朝からフライドポテトがある!)


「いただきます!」


 青年は早速ポテトに手をつける。


(うましうまし!)


「口にあって良かったです。まあ、毎日作っているので当たり前ですが。」


 いつの間にかキッチンにいたイグテスが少し自慢気に言う。


「やはり、お前は最高だ!」


「自明です。」


(いつもこのやり取りしている気がする。まあ、いいか。)


 青年は速攻で味噌汁やパンも食べる。


「ごちそうさん。良し、支度は?」


「ここに。」


 イグテスが少し大きい茶色いトランクを持ってくる。


「あざす。」


 青年はイグテスが持ってきたトランクを持つ。


「それじゃあ、行きますか。」


 青年はそう言って玄関の扉を開ける。


「「行ってきます!」」


 二人は扉を開け外に飛び出した。眼下に広がるは雲の海。空は青く、空気は澄んでいる。天上には燦々と太陽が輝いている。二人は自由落下で雲海へと落ちていく。


「今日でこの景色もしばらくの間見れなくなりますね。今思えば、地上に門を作れば、こんな若干危険を孕んだことをしなくても良かったのでは?」


 イグテスは青年に聞く。


(確かにそうだな。でも、どこかの雲より上という概念を持った場所だからな、明確につなげる門を作るのは少し危険じゃないか?)


「確かにそうですね。あと最近素材不足ですからね。」


(そうだな。狩りにも買い物にも行ってなかったからな。)


「確かに。まあ、それは実技が出来ないあなたを合格させるために筆記の勉強に全力を注ぎましたからね。そのリソースも私達有ってのものですけど。」


(別に良いだろ。名目上お前達は俺の拡張機構なんだから。)


「名目というより事実では?私達はあなたの補助のために生み出されたのですから。あと、地上では読心術に頼らないでください。私が独り言の多い悲しい人になってしまいます。」


(確かに。取り敢えず、雲を突っ切ったらいつも通りよろしく。)


「わかりました。」


 二人は雲海に突入する。

 イグテスは巨大な鳥へと変化し、青年はその足を掴んだ。二人の速度は少しずつ減速していく。


「我が身は見えず、我が声は聞こえず、我が気を察せる者はなし。」


 青年は簡易詠唱と共にトランクから黒い外套と帽子を取り出して羽織る。その瞬間彼らから発せられる音、反射する光は隠蔽された。


(自分で作っといてなんだが、いつも思うが、これ本当に気にならないのか?)


「異常な眼を持っているなら気がつくでしょう。まあ、ばれても注目の的になるだけですので、問題ないですよ。」


(それが問題なんだよ!初日から注目の的とかどんな拷問だよ。)


 二人は雲を抜け、そして、眼下に広がる光景に圧倒された。

 流れ上がる水、雲に達しそうな巨大な石塔、無線の電力転送、町の後ろにそびえ立つ断崖絶壁とそこに作られた巨大な校舎、空中の庭園、崖の上の豊かな森、青年は何に目をつければいいか分からない。


「凄いですね。」


(ああ、凄い。前来たときもこんなにすごかったか?)


「それはあなたが受験の緊張で周りが一切見えていなかっただけだと思いますが?」


 彼らはここに前に一度訪れたことがあるようだ。


(なるほど、そうだった気がしてきた。それにしても塔が雲より低くて助かった。)


 青年は巨大な塔を見ながら言う。


「本当ですね。最近は天と地の境が曖昧になってるんでしたっけ?」


(ああ、そうだ。予想だがそのうち引っ越しが必要になる気がする。境界がなくなる日はまだまだ遠いと思うが、そろそろ座標関係が連携し始めると思うんだ。となると、地上に定住する他ないか。)


 青年は残念そうに言う。


「あなたが地上で生活?無理だぁ~。まあ、今日からその地上の寮に入らなければいけないんですが。」


 イグテスは愉快そうに言った。


(悲しいこと言うなよ!そのためにお前達がいる。)


「あなたじゃなくて僕の友達が増えそうですね。」

 

(何!?従者に劣るだと?俺が?)


「自身を助けるために作った存在が劣っているというのは、それはそれで悲しいのでは?」


(確かに。言い負かされた。おっ、そろそろ地上か?そこの暗がりとかどうだ。人の目は無さそうだぞ?)


 青年は住宅街の方を指さす。


「そうですね。そこに降りて隠蔽を解除しましょう。」


 二人は家と家の間の細い通路に降りた。イグテスは蝙蝠から少年になり、青年は外套と帽子をトランクにしまった。


「公道での魔法は基本的に禁止というのは面倒くさいですね。禁止じゃなければ、ひとっ飛びなのに。」


「当たり前だろ。万引きが横行するのは避けたいからな。」


「そうですね。では、行きましょうか。」


 二人は暗い通路から出て目的の学校へと向かう。学校は崖を背にして立っており、ここからは二十分程であろう。

 しばらく校舎までの坂を上っているとちらちらと二人と同じ制服の人が増えてきた。


「こんにちは!初めましてですよね?」


(うぉっ!?ビックリした。この女子は誰だ?赤色の髪、青い目、学校の制服、俺達と同じ新入生か?)


 青年は突然の女子に慌てふためく。


「その制服ってことはあなたも新入生?よろしくね!」


(おっ、おう。よろしく。)


「こちらこそよろしくお願いします。私の名前はイグテスです。アルマス、声に出さないと伝わりませんよ。」


 青年の名はアルマスと言うようだ。


(あー、すまん。緊張して声が出なかった。そういや、お前達以外と喋るの久しぶりだな。)


「えーと、アルマスだ。よろしく。」


(あー、他人と喋るのって疲れるな。)


 アルマスはとても緊張している。


「私の名前はアリス。よろしくね。それにしてもイグテス君、年齢足りてるの?この学校はその年で十六歳になる人からで飛び級とかはなかったと思うけど。」


 この天真爛漫な彼女は今年で十六歳で二人と同じ新入生のようだ。背はアルマスより少し低い。眼は吸い寄せられそうになるくらい綺麗な蒼で、深紅の髪は長くサラサラだ。少し天然な雰囲気のある可憐な少女だ。


(確かにイグテスはどう見ても十歳以下だしな。しかし、イグテスについての説明か。同一存在ではあり、拡張機構であり、、簡単に言うと使い魔か?)


 アルマスの結論をイグテスが代わりに伝える。


「いろいろと事情があるのですが、取り敢えずアルマスの使い魔みたいな感じと思ってもらえれば大丈夫です。」


「そう、こいつは俺の使い魔だ!」


 アルマスがイグテスに続いてそう言うとイグテスが瞬間的に出現させたハリセンでアルマスを叩いた。


「なんかイラっとしました。」


「なんでさ!自分で使い魔って認めただろ?」


 二人は軽く睨み合う。普段からこういうことは良く起こっているらしい。


「賑やかで面白いね。」


 アリスはにこにこ笑いながらこちらを見る。その目は子供の喧嘩を温かい目でみる母のような目であった。それを見て二人は顔を見合わせて不毛な喧嘩をやめた。


(すいません、熱くなってました。)


 イグテスがアルマスに念話をしてきた。


(そうだな。あの目は勘弁してほしい。なんか悲しくなる。)


 二人は少しクールダウンをした。


「得意な魔法って何?実技では何使ったの?」


 二人が落ち着いたのを見計らってアリスは二人に問いかけてきた。


(結構ぐいぐい聞いて来るな。自分の魔法って秘匿にするものではなかったけ?)


(それは戦場の話ではないですか?学友になれそうなのでこちらの手の内を明かすのも問題ないかと。)


(確かにそうだな。っていうか実技試験って何したっけ?まあ、説明は頼んだ。)


 アルマスはイグテスに説明を任せた。


「アルマスとしては使役や付与あたりと答えるのが正解でしょうか。私は常時顕現していますし、一応使い魔的ポジションですので、基本的なところはしっかりと押さえてはあります。得意なのは変身でしょうか。アルマスができるのは魔力譲渡による瞬間的強化とか簡単な付与くらいでしょうか。つまり、アルマスとしてはどんな子供でもできるようなことしか出来ません。」


「そうそう、俺には才能がないんだ。イグテスらがいねえとなんもできない。」


 アルマスは自虐をして悲しい思いになる。


「ってことは、イグテス君なしでアルマス君として魔法を使いたいなら出来て詠唱術くらいってことね。あれは才能とか関係ないから。でもそれって大変ね。」


(哀れみを向けられた。悲しい。)


(事実ですので受け入れましょう。あなたの取り柄は道具作成ぐらいです。)


 イグテスとアルマスにそんなやり取りをしながら、アリスと話していると、


「入学おめでとうございます!!式場はあちらです!!」


 大きな声で案内をする教師らしき人が現れた。いつの間にか三人は校門についたようだ。


「あっ、じゃあまたね!」


 座席が異なるため俺達はアリスと別れて式場に向かった。


「人が多いな。」


 アルマスは人の多さに軽く眩暈を起こす。引きこもりに人混みはつらいものがあるようだ。


「ですね。この学校はこの地方では最もレベルが高いらしいですし、この街もこの学校のために作られたのが始まりらしいですから。」


「そういやそんなこと書いてあったな。不味いな最近物忘れが多くなってきた。えー、と俺達の着席場所は何処だ?」


 イグテスは書類を取り出して確認する。


「10の24です。横列は20、縦列は25まであるようです。」


「そうか、、ってそんなに人いるのか?!500人か、人って多いな。」


 アルマスは驚いて少し大きな声を出す。


「受験の時、本当にまわりが見えてなかったんですね。まあ、よかったじゃないですか後ろの方ですよ。」


 二人は自身の入学届を提出して式場に入り、指定された席へと移動する。席は一つしかなかったのでイグテスは腕時計に化けてアルマスの左腕に付いた。どうやら、式場に使い魔を堂々と持ち込むのは失礼らしい。

 隣近所には既に人は着席しており、ここら辺では二人が最後だったようだ。


(書類の受け渡しでぐだりましたからね。)


 アルマスは書類の一切をイグテスに任せていたため、既に腕時計に変身していたイグテスが少年に戻ったりと時間が結構かかってしまったのだ。


「これよりメヤタルナ魔法学校入学式を始めます。起立、礼、着席。」


 そうこうしていると、入学式が始まった。面倒臭い校長の話から、学生会長、偉いさんの話が続く。周りの奴らは一応しっかり聞いている風ではあるが、内心ではとてもだるく思っている者は少なくない。


「次に首席合格者による挨拶です。第二中等学園卒ファル=デサイヤ。壇上へ。」


「はい!」


(首席で合格できたのに挨拶しなきゃいけないのは最早罰ゲームだろ。)


 アルマスはイグテスと雑談している。


(一応、アピールは出来ますから、偉いさんに顔を覚えて貰えるというメリットはありますよ。まあ、デサイヤ家といえば名門貴族なので関係ない気がしますが。)


(なるほど確かに。因みに俺は上位何パーセントだったんだ?)


(えーっとですね。上位九十五パーセント。最下位でないだけマシですがまあ、十分底辺ですね。)


(だよな。少なくとも主席合格者のやつとかは俺には関係ない世界だな。)


(そうですね。それにしても、入試が使い魔ありで助かりました。彼らも想定してなかったでしょうね。その使い魔がほぼ全てを代行するなんて。)


(筆記に関してもほとんど俺がお前の知識を閲覧して解いたから実質お前がやったようなもんだしな。)


 アルマスは入試の際、ほぼ全ての科目においてイグテスを使っていたようだ。因みにイグテス達は知らないが使い魔によってなされた課題は本人が解いたときよりも少し減点されるため、本来は使い魔に全てを代行して貰うやり方はかなり悪手なのであった。


「最後に組分けの儀です。リース先生お願いします。」


 いつの間にか式はもうすぐ終わるようであり、壇上には黒いとんがり帽子に黒いローブを身につけたザ·魔女みたいな女性が突然現れた。妖艶な雰囲気を放つ彼女は一言、


「抵抗しないでくだいね。」


とだけ言い、その瞬間、アルマス含め全新入生の姿が式場から消えた。


「式はこれにて終了します。退場は、、、」


 式はこれで終わりのようだ。


気が向いたらいいね!などよろしくお願いします。

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