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母親の人
あの人が私にしていた借金は
あの人が死んだと知らされた瞬間、この世から消え去ったことになったらしい
あの人が生きていたのだとしたら
私に借金を返さずに済むように死んだふりをしたのだとしたら
あれは、手切れ金だったことになる
あの人に作ってもらった料理はスクランブルエッグと
卵かけご飯
数回食べた記憶があるカレーはどれも辛くて
子供向けの味ではなかった
私は母親を
母親の人を
あの人の死を
喜んだだろうか
悲しんだだろうか
私の中にいた子供のような私はまだあの団地にいて
誰かを待っている