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第七話「仕事探し」

「新しくできた冒険者ギルド『ホワイトワークス』です!

 お仕事募集してます!」

「募集してまーす!」


 昼下がりの通行人が増えだした東区の街。

 僕とハンナは街中でホワイトワークスの看板を掲げ、通行人に声を掛けながら練り歩いていた。

 目的は言葉通り『仕事募集』である。


 国や冒険者ギルド協会に許可をもらってギルドを作ったからといって、仕事が自動的にやってくるわけではない。

 冒険者ギルドの仕事というのは、基本的に誰かに仕事を依頼されることで始まる。

 逆を言えば、誰からも仕事を依頼されなければ仕事はできないのである。


 現状、ホワイトワークスは誰からも仕事を依頼されていない。

 理由は単純で、実績と知名度が全く無いからだ。


 例えば僕が働いていたブラックポイズンであれば、ビーク王国で一番有名な冒険者ギルドであるため国内のみならず国外からも様々な依頼が来る。

 一方、僕が作ったホワイトワークスは作ったばかりであるため全く実績や知名度がなく、国外どころか国内からも全く依頼が来ない。


 どんなに良いギルドだとしても実績も知名度も無ければ依頼は来ないし、冒険者も集まらない。

 まずは人々にホワイトワークスの存在を知ってもらうために、こうして声を掛けながら東区の街を練り歩いているのだ。


「私達、見向きもされないね……」


 少し疲れた様子のハンナ。

 まあ、ハンナが愚痴を吐くのも仕方がない。


 既に東区の街を一周する程度には歩いている。

 それなのに誰も僕たちに見向きもしないとなると、愚痴くらい吐きたくなるだろう。


「仕方ないよ、ハンナ。

 僕らのギルドは新参ギルドなんだから。

 誰だって聞いたこともない無名のギルドよりは、有名なブラックポイズンとかに依頼したいでしょ」


 ハンナは頬をぷくりと膨らます。


「でもブラックポイズンってブラックギルドなんでしょ!

 コットをいじめたギルドなんかに負けたくないわ!」


 グーの手を振りながら怒りを露わにするハンナ。

 僕はそんなハンナを見て、少し懐かしい気持ちになった。


 そういえば、孤児院時代のハンナも負けず嫌いだったな。

 カードゲームなんかで負けると勝つまで離してくれなかった昔のハンナ。

 負けるたびに怒って小さなグーの手を悔しそうに振っていたのを思い出す。

 ハンナの見た目は変わっていても、中身はあまり変わっていないのかもしれない。


「……何笑ってるのコット?」


 おっと。

 どうやら表情にでていたようだ。

 怒っているハンナを見て懐かしんでいたなんて言ったら、僕まで怒られてしまう。

 ここは適当に誤魔化すか。


「コホン。

 きっとハンナも歩き疲れてるんだよ。

 あそこの噴水のところで一旦休憩にしようか」


 僕は近くにある噴水を指す。

 僕の態度を見てムスッとした表情のハンナだが、やっぱり疲れていたようで「分かったわ」とだけ言って噴水の方へと歩きだした。


 ハンナに対しては申し訳ないと思っている。

 ハンナはベアルージュ教のシスターであり、言ってしまえばエリートだ。

 本来であればもっと大きなギルドで働ける逸材であるにも関わらず、仕事にありつけず給料を出せるかも分からない作りたての僕のギルドで仕事探しを手伝ってもらっている。

 いくら幼馴染とはいえ、こうも疲れた様子のハンナを見ると罪悪感を感じてしまう。

 ハンナのためにも早く仕事を見つけなくては。


 そんなことを考えながら歩いていると、噴水の方から声が聞こえてきた。


「うぇーん……痛いよぅ……うぇーん……」


 聞こえてきたのは子供が泣きじゃくる声。

 声の方に視線を向けると、一組の親子がいた。

 泣いているのは小さな男の子で、お母さんに泣きついている。


「もう泣かないで。

 男の子なんだからそれくらいの怪我、我慢しなさい?」


 よく見れば男の子の膝に擦りむいたような傷があり、少し血が流れているのが見える。

 おそらく転んで怪我をしてしまい、お母さんに泣きついているところなのだろう。


 まあ、あれくらいの傷なら水で洗えば悪化することもないしすぐ治るだろう。

 なんて思いながら男の子を見ていたら、急に隣にいたハンナが駆け出した。


「その子、大丈夫ですか!」


 ハンナが大声をあげて叫ぶものだから、噴水付近にいる人達の視線が一斉にハンナに集まる。


「だ、大丈夫よ。

 ちょっと転んじゃっただけだから……」


 男の子のお母さんは苦笑いをしながら事情を説明する。

 急にハンナが走り寄ってきて周囲の注目が集まり、お母さんも困惑しているようだ。


 ハンナはそんなお母さんの言葉を無視して、男の子の膝に中腰の姿勢で両手を向けた。


「崇高なる慈愛の神、ベアルージュ様。

 どうか、かの者に癒しと安らぎをお与えください。

 《治癒(ヒール)》」


 ハンナが男の子の膝に両手を向けながら言葉を唱えた途端。

 男の子が怪我をした膝部分が光に包まれる。

 その様子を見て、男の子もお母さんもポカンとした表情を浮かべていた。

 そして段々と男の子の膝を包んでいた光も消え始める。


「よし、これで大丈夫よ!」


 ハンナは両手を降ろし、ニコリと男の子に笑顔を向ける。

 ハンナに言われて、男の子は自分の膝を確認する。

 そして男の子は目を大きく見開いて、驚きと歓喜の入り混じった表情へと変わった。


「ママ!!

 すごい、怪我が治った!!!!」


 街中に男の子の歓喜の声が響き渡った。


そういえば、私の好きなテナーサックス奏者にスコット・ハミルトンという方がおりまして・・・。

別に関係ないんですけどね。

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