第0話 プロローグ
「会いたい…。」
ろうそくのうす灯りの中、その人物はほおづえをつき、もう何度めかわからないため息の後、机の上の小さな肖像画を手にとった。
肖像画の中の人物は、優しく微笑んでいた。ほおづえを崩して机につっ伏しながら、ため息の人物は堂々巡りの思考を続けた。
「会いたい…。でも…会えない…。」
机のそばには巨大な黒板が置いてあり、一面に地図や紙片、肖像画が貼られており無数のメモがピンで刺さっていた。
肖像画は全て、机の上の肖像画と同じ人物がさまざまなアングルから描かれていた。
「今の自分じゃ、会っても嫌われるだけ…。」
(あの人がいちばん嫌うような人間に、自分はなってしまったんだ。)
そう自らに言い聞かせようとしたが、徐々に欲望がためらいを圧倒しはじめた。
(今の自分があるのはあの人のおかげ…。惨めに路上で物乞いをし、腐った残飯を野良犬と奪い合う日々。誰からも蔑まれ、誰も助けてくれなかったけど、あの人だけは優しい微笑みと共に自分を温かく包んでくれた…。)
あの微笑みを思い出しただけで、不思議な温かさが体の中にわきあがってきた。
「やっぱり会いたい。…会えばなんとかなるかも。」
(あの人は優しすぎるから、今でも苦労しているはず。誠意を見せて迎えにいけばきっと…。)
「でもどうやって?」
ふと傍の黒板に目をやり、1枚のチラシをはがして読むうちに、その人物の暗い表情はみるみる明るい笑みに変わった。
「これだ! これこれ!」
小躍りしながら、チラシを持ったその人物は扉を突き破るような勢いで廊下に飛び出した。
その人物が走り去ったあとに、ヒラヒラとチラシが廊下に舞い降りた。それにはこう書かれていた。
『自警団第33支部にてお手伝いさん急募! 年齢・経験問わず 興味がある方は自警団第33支部長 マリーン・イアーハートまで連絡乞う』
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