最初のお仕事は、採集クエスト
「この薬草っ!質が悪すぎじゃないですか!」
私は驚愕していた。冒険者だもの。採集する薬草のことくらいはわかる。
レナンと一緒にそれを見比べながら私は驚愕していた。
「ふむ。さすがに薬草の知識まではなかったな」
第3王子殿下が呟く。
「どう言う事でしょうか」
「恐らく王妃の手の者の仕業だ」
と、ジークフリードさん。
まさかこんなことまでやってくるなんて。だけど・・・
「わかっている。私は、王位継承権には関係のない存在だ」
と、第3王子殿下が告げる。
「あ、私はそんなつもりじゃ」
「事実だ。こんな調子ではとても・・・。それにいずれは爵位と領地を賜り臣下に下る身だ。キアラは私が臣下に下ったら、私の側から離れていかないだろうか?」
「そんな、まさか!一緒に領地経営ができるなんて願ってもみないことです!以前は領地経営なども行っておりましたので、補佐は私にお任せください!」
「そうか・・・よかった・・・。もし君に断られたらこの束縛監禁調教全集に乗っている秘技を試さねばならぬところだった」
と、第3王子殿下が枕元に置いてあった書物をとった。
いや何つー本を枕元に!?てか束縛監禁調教って一体何をする気だったんだ、このひと。
「でも、それならどうして王妃さまは」
「多分、マティアス兄上への妨害」
マティアス殿下!第3王子殿下の実の兄君で、第1王子殿下であり王太子殿下だ。
「兄上に気に入られている私に手を出して、兄上を油断させようと・・・いや、完璧な兄上に手を出せないからこそ弟の私を狙ったのだろうな」
「そんなっ!」
だからって病人に必要不可欠なお薬に手を出すなんて。だけどそれが王室の避けられないどろどろした部分なのだろうか。
「しかし王宮の薬師までが王妃の言いなりか」
ジークフリードさんが肩を落とす。
「国王陛下は何もしてくださらないのでしょうか」
「そんなことはないと、信じている。恐らくこの件も後に兄上の耳に入るだろう。・・・であれば兄上が何とかする」
「それまで待たなきゃならないと言うことですか?」
「私は、兄上を信じているから」
「殿下」
「キアラ」
そんな時、不意に第3王子殿下がその美しいエメラルドグリーンの瞳で私をじっと見つめてきた。
「は、はい!」
「“殿下”ではなく“フィー”と呼んでくれないか」
・・・っ!第3王子殿下の愛称!
「わかりました。フィー。私も“キア”とお呼びください」
「わかった。キア。あと敬語もなし」
「ですけど」
「キアは私の妃となる。敬語はいらない」
「わかりまし・・・わかったわ」
「その方がキアらしい」
そう言ってフィーは微笑んでくれた。
「それにしても、薬草がこれではどうしようか」
ジークフリードさんが顎に手を当てる。
「なら、私が採ってきますよ。とれたてほやほや。しっかりと目利きもできます」
これでも冒険者。それくらいは朝飯前なのだ。
「キアが私のために、わざわざ・・・っ!」
フィーの顔が輝く。
「なんだか・・・嬉しいな」
「・・・!」
微笑みが、う・・・美しすぎるっ!!
何この儚げ美形王子殿下!!
「が、がんばってくるね!!」
俄然やる気が出てしまう。
「でも、気を付けて」
「うん。レナンも一緒だから大丈夫」
「キア姉のことはお任せください。殿下」
レナンも頷く。
「レナンも“フィー”でいいよ」
「ではフィーさま。行ってまいります」
そうレナンが答えるとフィーも優し気な微笑みを返した。
よし、頑張らねばっ!!
早速冒険者ギルドに転移した私たちは、いつもの仲良し受付嬢で“3人娘”と呼ばれる黒髪のかわいらしい美少女・アリー、深い藍色の髪でロングヘアーの儚げ美人のリア、キャルロット公爵令嬢なのに冒険者ギルドの受付嬢をしているスイートブラウンのツインテール美少女・ショコラに会いに行った。
「それじゃぁ薬草を取りに行くのね。ならその方に依頼を出してもらった方がいいわね。その件はこちらで叔父さま経由でやっておくから任せて!量はこのくらいで」
と、ギルマスの姪でもあるショコラが答えてくれる。さすがはキャルロット公爵令嬢。そこら辺も抜かりない。
元々受付嬢としての資質も完璧で仕事もできる。
まぁ、受付嬢のお仕事は彼女の大事なフィアンセを支えるお仕事でもあるからと積極的に行っているそうだ。キャルロット公爵・・・お父さまも特に反対していない。むしろショコラの受付嬢スタイルを大いに気に入っているらしい。
「了解。それじゃぁ、行ってきます」
「キア姉のことは、任せて」
私とレナンがそう言うと、3人娘から・・・
『いってらっしゃーい!』
と、かわいらしく見送ってもらった。
―――さて・・・
今回は薬草の採集クエスト。
手っ取り早く私とレナンが知っている群生地に転移。そこで特に上質なものを私とレナンで選んでいく。
「これくらいで十分ね。予備にこれくらいあれば大丈夫かしら」
「えぇ。それで十分かと。フィーさまも喜ばれますね」
「うん」
さて、こういうクエストと言えば魔物の一匹や二匹、出てきてもおかしくないので。
「レナン!右、行ったよ!」
「任せて!」
突如現れたおいしい鶏肉!いや、違った。鳥の魔物をふたりでちゃちゃっと片づけると。
「これなかなかおいしいのよね。フィーの口に合うかはわからないけど、持って帰りましょ」
「うん。キア姉の料理、楽しみ」
レナンも笑顔で頷いてくれて専用のマジックバッグに詰めていく。
「でも、リア姉が嫉妬しそう」
リアが?そう言えばリアも私の料理を気に入ってくれてたっけ。
「それじゃあ、余ったらおすそ分けに行きましょうか」
「うん、そうしよう」
ふたりで互いに微笑み合うと、達成報告のため再び冒険者ギルドへと転移したのであった。