【Side:キアラ/マリーアンナ】パーティーの知らせと準備
※前半はキアラ視点の回想、後半は第3者視点でお送りします※
―――晩餐会から数週間後。
相変わらず私は離宮から出させてもらえないが、それでも外から食材や素材を仕入れ、手料理をフィーにご馳走している。たまには装備を作ったりフィーのお仕事を手伝ったりと離宮のみんなと楽しく過ごしていた。
そんな折、侍女のお姉さま方が持ってきてくれたパーティー用衣装を見て、ついにこの日がきたかと早速フィーの元へ衣装を運び入れてもらった。
「遂に、私たちの婚姻が発表されるのだな」
「う。フィー」
私たちに先んじて、まずはマティアス兄さまとクレア姉さまの婚姻が発表された。
そのお披露目パーティーと一緒に私たちの婚姻も発表されることになっている。
「・・・キアは、本当に悔いはないか・・・?私と一緒に、臣下に下ること」
「もちろん」
婚姻が発表された後はフィーは爵位を賜って、臣下に下ることになっている。
フィーは魔力は豊富なのだが、いかんせん病弱だ。だからこそ少しでもフィーの負担を減らすため、これを機に静かな自然豊かな土地でゆっくりと静養しながら仲良く領地経営をする予定を組んでいる。
「・・・よかった・・・キアが・・・もし、心変わりをしていたらと思うと何だか寝付けなくて・・・もし、心変わりをしていたら、キアが思い直してくれるよう、夢の中まで俺で埋め尽くそうと思っていた」
え?それに、一体何の意味が?
てか、夢の中にまで潜り込めるの?フィーったら。
「楽しみだな」
「うん、楽しみ!」
新しくいただく領地にはレナンとジークさん、ここに来てくれている侍女、護衛騎士たちも一緒に来てくれる。
そして領地に新設された冒険者ギルド支部にはなんと、レナンの姉であるリアことジュリアも移住することになっている。アリーやショコラと離れ離れになるのはちょっと寂しいが、リアやレナン、ジークさんも一緒に来てくれることは嬉しい。
―――そんな、離宮でおめでたい話題で盛り上がっている頃
「はぁはぁ、どう言うことなのよ!」
「はぁ!?わしに聞くな!わしだって、どうなっていることやら!」
「でもこれで助かったのね!」
王城へと向かう“囚人用”の馬車には、かつてのメロンディナ公爵家の3人が乗せられていた。
彼ら彼女らはやっとまともな馬車に乗れるのだと喜んでいたものの、かけられた“手錠”は外されることもなく、窓もない暗い馬車の中に押し込められて何時間もかけて馬車に揺られながらようやっと馬車が止まり、馬車の扉が開く。
顔を輝かせた彼ら彼女らの前にいたのは見慣れない“敵兵”ではなく、自国の王国の騎士団の制服を着た男たち。
「助かったわ!」
「王国の騎士団よ!」
「早く!早くこの手錠を外してくれ!」
しかし彼らは乱暴にかつてのメロンディナ公爵家の3人を馬車の中から引きずり下ろし、剣を突きたてながら歩けと命じる。
きゃんきゃん騒いでも結局は騎士たちに尻を蹴られ、とっとと立って歩けと急かされる。
泣く泣く手錠をはめられたまま騎士団についていき、3人はそれぞれ別々の牢屋へと投げ込まれた。
「ちょっと!どう言う事よ!」
「ここから出しなさいよ!」
「わしは公爵だぞ!メロンディナ公爵だ!」
「私だってメロンディナ公爵家の夫人よ!あなたたち、私たちにこんなことをして、ただで済むとっ!」
しかし彼ら彼女らの訴え虚しく騎士たちは颯爽と牢屋を後にしてしまう。
そして数日が経った頃。
牢屋にやってきた騎士たちがメロンディナ公爵令嬢・マリーアンナの牢の扉を開ける。
「出られるの!?私、ここから出られるのね!!」
ぱああぁぁっと顔を輝かせマリーアンナは叫んだ。その声を聞き、他の牢に入っていた彼女の両親が騒ぎ立てる。
「ちょっと!私たちは!?」
「わしもここから出せ!おい!聞いているのか!」
「あっかんべ~っだ!」
ひとりだけ、手錠をつけられたままではあるものの両親の牢の前を通り、外に連れ出されたマリーアンナは自身の両親を嘲笑う。
その態度に再び火をつけられた両親は怒り狂うが、やがて静寂が訪れると夫人のしくしくと泣く声とかつてのメロンディナ公爵の嗚咽だけが虚しく響きわたるのだった・・・
―――
「ねぇ。早くこの手錠、外してよぉ~」
一方、ひとりだけ牢から出されたマリーアンナは騎士たちに悪態をついていた。
「外してくれたらぁ~、私、いいことしてあ・げ・る♡」
そうやって媚びを売るものの、騎士たちは一切無視し彼女をとある部屋へと押し込んだ。
そこには恐い顔をした女性たちがマリーアンナを待っていた。そして騎士が手錠を外せば、マリーアンナは女性たちに抵抗もできない強い力で引っ張られていく。
「やだ―――っ!!放して!放してよぉ―――っっ!!!何で、何でこんなことするのぉ―――っっ!!?」
すると年かさの騎士が告げる。
「貴殿らは“帝国の領土”に不法入国した挙句、その土地を自分たちのものだと主張し帝国兵に捕まり、捕虜となった」
「そ、そうよ!あそこは私たちメロンディナ公爵家の土地よ!」
マリーアンナは大声で主張するが騎士はその言葉を無視し、再び言葉を続ける。
「だが、貴殿が、我が王国の第2王子であるヴィクトリオ殿下の伴侶であることが明らかになった」
「ヴィックと伴侶!いつの間に!?あぁ、だから私だけ助かったのね!!」
騎士はマリーアンナの言葉に肯定も否定もせず、ただ淡々と告げる。
「さらに此度は王子殿下の御婚姻発表と、また栄転の発表がなされるパーティーに特別にそなたら夫妻が国王陛下に招待された。これからそなたにはヴィクトリオ殿下と共にそのパーティーに参加してもらう」
「え、婚姻発表!?やだぁっ!てことは、遂に私は王太子妃!未来の王妃よ!やったぁ!王太子妃になったらまずは何をしようかしら?まずはうじうじうるさい父さまと母さまは追放しなきゃ。父さまはお金がないってお洋服や宝飾品を買ってくださらないし、母さまは母さまでいい宝石を私よりも先に全部とっちゃうんだもの!だからあのふたりはいらない!ヴィックは王太子になるんだからぁ!まずは邪魔な妾の王子を左遷してもらおう!うっふふ~~~っ♪」
そうマリーアンナは上機嫌で侍女たちに体を洗われ、そして化粧を施され、髪を結い上げキレイなドレスを着せられて、宝石がはめられたステキなネックレスと腕輪と足輪を付けられた。
「ふふんっ♡宝石はかわいくてきれいだけど、土台の部分は黒くて無骨ね」
マリーアンナは宝石がはめられた黒い首輪、腕輪、足輪をみやり、呟く。
だがそれがいま王国内で最新のはやりでヴィクトリオの隣に立つにふさわしい宝飾品なのだと教えられれば喜んで受け入れた。
そして自身を守るように囲う騎士たちに案内され、上機嫌でヴィクトリオの待つ控室へと向かったのだった。




