【Side:マリーアンナ/キャルロット公爵邸】数か月後のそれぞれ
―――数か月後:メロンディナ公爵邸
「ちょっと、お金がないってどう言う事よ!」
「金庫もからじゃない!」
メロンディナ公爵邸ではメロンディナ公爵を前に後妻と娘のマリーアンナが詰め寄っていた。
「そ・・・それが・・・その、お金が入ってこなくてだな・・・」
今までは普通に豪遊していても自然と入ってきたお金が全く入って来ず、更には減る一方だった。
更にはマリーアンナが癇癪を起こし使用人をクビにしまくる上、給金未払いのために次々と使用人たちが去っていき、現在広い公爵邸の中にいるのはこの3人だけ。
「だったら!領民からお金をむしりとればいいじゃない!」
「その人手もない!冒険者ギルドに依頼したが門前払いを喰らった!」
と、メロンディナ公爵。
「だったら、ヴィックさまから言ってもらいなさいよ!」
後妻が娘のマリーアンナに詰め寄る。
「会いに行こうと思って王城に行っても門前払いなのよ!手紙を出すお金もなくなっちゃった。あぁ、どうしてヴィックに会えないの!?」
「こうしちゃいられない!こうなったら領民から直接金をむしりとりましょう!」
「そ・・・それは・・・」
後妻の言葉にさすがに公爵が戸惑う。
「だって私たちのためのお金がないのよ!?領民なら私たちのためにお金を差し出すべきよ!誰のおかげで食っていると思ってるの!?」
「だが・・・どうやって領地まで・・・?馬は栄養失調でもう動かなくなってしまったし・・・馬車をひけない・・・」
「そんなの乗合馬車を貸しきればいいじゃない!私たちのために!」
「だが、お金が・・・」
「後からツケ払いにすればいいでしょ!?どうせ、領民からもらえるんだから!」
「そ、そうだな!」
「そうと決まったら行くわよ!」
「待ってなさい!私のカシュミア!」
「お・・・おぉ・・・っ!」
後妻とマリーアンナのあまりの剣幕に、公爵はただただ従うだけだった。
―――キャルロット公爵邸
「やぁ、息子よ!今戻ったところかな?」
キャルロット公爵邸ではキャルロット公爵そのひとが、新事業の利益にうんうんと満足気に頷いていた。キャルロット公爵シーザー・フォン・キャルロットはひとことで言うならば麗人。ある意味変人。アッシュブラウンのさらさらの髪に吊り目がちなヘーゼルブラウンの瞳は切れ長。白く美しい肌と端正な顔立ちは、誰もが魅了されるがいつでもどこでも吸血鬼のような黒マントを欠かさず身に着ける、ちょっと変わった趣味の御仁であった。
「全く、一時はどうなることかと思いましたが。でも、本当にあのキアラちゃんがウチの妹になっていたとは」
キャルロット公爵の長子・コンラート・フォン・キャルロットはキャルロット公爵宛てに贈られた義妹からのプレゼントを見てそれをしみじみと実感する。
どうやらあちらでも相変わらず薬草を煎じてポーションを作ったり、素材を利用して便利グッズをこしらえているらしい。
義妹の作品を見てコンラートも満足げに頷く。
「おかげでショコラも毎日楽しそうだよ。手紙のやり取りは結構してるんだって。この間はカシュミアのいい布地が届いたようで、キアラ自らフィアンセのために仕立てるそうだ」
「さすがはキアラちゃん。英雄とも名高いアーロン・パンプディンの弟子ですね」
コンラートは父親のキャルロット公爵とは髪の色も吊り目がちな目の色もそっくりだったが、派手でキラキライケメン顔の父とは対照的に素朴な好青年の部類に入る。
実の妹・ショコラの親友でもある、新しくできた妹の話に素直に感心した様子で聞き入っていた。
「あぁ!キアラのおかげでウチの新事業も軌道に乗った!」
「メロンディナ公爵領の領民も全て新事業を起こす移住地に引っ越しましたからね」
「あぁ。あの土地は元々冒険者と農民が多く暮らしていた。キアラとアーロン・パンプディンがいたからこそあそこに多くの冒険者も滞在したし、魔物が多い土地であったが農民も安心して作物を育てていたんだ」
「そんなキアラちゃんをメロンディナ公爵家から除籍なんてことすれば・・・」
「アーロン・パンプディンを始め彼女のファンの冒険者は大激怒。彼女についてきていた領民も冒険者たちと移住を快諾してくれた」
「今後はダンジョン都市、それからメロンディナ公爵領で培った農業の知識を生かし、我がキャルロット公爵領の収穫量を増やすために色々な作物を育ててもらうべく既に活動を始めてもらっています」
「あぁ。家などはアーロン・パンプディンと我が甥であり義息子のルークに任せればあっという間だった」
シーザー・フォン・キャルロットの義息子・ルーク・フォン・キャルロットはまだまだ若い青年だが、それでも各地に名を轟かせる敏腕冒険者。
彼の愛娘・ショコラがお帰りと行ってらっしゃいを言うために、冒険者ギルドの受付嬢を務めるそもそもの発端になった青年である。
そしてまた彼は冒険者ギルドのギルマスであるシーザー・フォン・キャルロットの異母弟・エリオットの息子でもある。
「さすがはアーロン・パンプディンとルークです。義兄としても鼻が高いですね」
「あぁ!しかも誰も行かなくなったあのメロンディナ公爵領にひとつの貸し切り馬車が向かったらしい」
「えぇ。良く貸すところがありましたね」
「まぁ御者は例の、我が甥が手配したものだから」
キャルロット公爵の言う、その“甥”とは。ルークとはまた別の甥っ子のことである。
「あぁ、なるほど。それもあの方の策略でしたか。さて領民ひとりいないからっぽの、しかも魔物だらけの土地に向かった彼らはどうなるでしょうねぇ?」
「さてなぁ?報告が楽しみだよ!」
キャルロット公爵とコンラートは楽しそうに笑い合った。