断罪&婚約破棄のブースターパック
「キアラ・フォン・メロンディナ!」
名前を呼ばれ、私は面倒ながらも産みの母譲りのローズレッドの瞳を上げる。
因みに髪は紅葉のような赤毛。貴族令嬢にしては短めのセミロングだ。
「本日付で、次期ラディーシア王国第“1”王子であるヴィクトリオ・ゴルド・ラディーシアこと私との婚約は破棄させてもらう!」
私の目の前でそう高らかに告げたのは金髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ、この国の第“2”王子であらせられる私の婚約者、―――だったお方である。
昨今はやりの婚約破棄ではあるものの、唯一違うのは盛大なパーティーホールや王城での夜会会場ではないこと。
何故ならばあんまりみんなやり過ぎて遂に国王陛下がぶち切れたため、パーティーその他、大勢のひとが集まる場所での婚約破棄はたとえ王族であろうとも一切認めない。また、罰則を科すと言うおふれが出たためである。
そのため彼は今日、我がメロンディナ公爵家に来ている。そして彼の隣にはピンクブロンドのゆるふわロングにマリンブルーの瞳のかわいらしい美少女が座っている。
そして、彼・・・第2王子殿下は彼女の腰に手を回してこう告げた。
「本日付でこのマリーアンナ・フォン・メロンディナこそが私の婚約者となった。―――つまりは、だ」
そう。彼女の名前はマリーアンナ・フォン・メロンディナ。―――私の義妹。血は半分しかつながっていない。
「このメロンディナ公爵家に婿入りするのはこの私だ。そして公爵夫人の座に収まるのは私のマリーだ!未来の次期メロンディナ公爵が命じる!マリーを虐め、蔑んだ悪女キアラ・フォン・メロンディナ。お前を公爵家から追放する!!無論除籍!貴様は平民だ!今すぐでてけ!!」
―――まず、何から語ろうか。そうだな。マリーアンナを虐め、蔑んだ件だがそんなことは一切ない。父が私の母の存命中から関係を持っていた再婚相手の娘マリーアンナ。
母が他界した後、父はかねてより溺愛していたマリーアンナとその母を呼び寄せこの公爵家に招いた。その後父はマリーアンナだけを溺愛し、私は継母とマリーアンナに虐められるわ蔑まれるわ、ドレスや貴金属の類は全部このふたりにとられたし、母の遺品もほとんどがとられた。まぁ、一番大事なものは彼女らの手の届かない場所に丁重に保管しているので全く問題ないのだが。
食事は最低限だし、毎日の服装も質素なものばかり。第2王子殿下が送ってくる贈り物は私名義ではあるものの全てマリーアンナのもの。
ここ1年ほどはパーティーの同伴者にはほぼ呼ばれず、代わりにマリーアンナを連れて行くこと多数。
第2王子殿下は公爵家のことにも色々と口を出し、私が携わっていた事業からも領地政策からも追い出した。
全て冤罪、越権行為。
しかしながら私はこの公爵家に未練はない。しいて言えば事業に関わっていたひとたちや、領民たちだ。だが、彼ら彼女らも十二分に逞しいので私は私で生きていくすべを確保しなくては。
「わかりました。では、早速出て行かせていただきます」
「おぅおぅ、出てけ!出てけ!」
第2王子殿下がしっしとやるとマリーアンナは私に嘲笑を向けるが無視して立ち上がる。
「いきましょ、レナン」
私は自身の従者に声を掛けた。
彼は焦げ茶色の髪にローズレッドの瞳を持っており、肌は浅黒くどこか異国風の顔立ちをした、
ミステリアスな美少年で今年14歳だ。15歳の私よりも1歳年下。
「はい、キアラさま」
レナンが私に礼をして一緒に立ち去ろうとすれば、不意にマリーアンナが叫ぶ。
「ちょっと!レナンは置いていきなさいよ!」
マリーアンナを見やると焦った顔で立ち上がっていた。
「なぜ、でしょう」
「だってレナンはウチの使用人よ!?まぁ今着ているものは特別に差し上げるけれどそれ以外は全て公爵家のもの!だから置いていきなさい!」
「―――レナンは公爵家の使用人ではありませんが」
「え?」
「レナンは私が給料を払い雇っているので公爵家の使用人ではありませんよ」
「それだって公爵家のお金でしょう!?」
「違います。アルバイトで稼いだので」
「はぁ!?あ、アルバイトぉ!?」
「なのでレナンは連れて行きます。ではごきげんよう」
「ちょ、待ちなさいよ!」
「そうだ!王子命令だ!」
とマリーアンナと第2王子殿下が次々に叫んでくる。
「ちょっと何言ってるかわかんないです」
「何だと!?」
「王侯貴族の権力を出されたらそれに反して生きる生き物なので、私たち」
「そう言う事です。ごきげんよう、殿下」
と、私とレナンはそう言って軽く礼をすると颯爽とその場を後にする。
応接室の扉を閉めれば、慌てて第2王子殿下たちがガバッと扉を開いて私たちを捕まえようとしたが。―――もう、遅い。
すでに私たちは“転移”していたのだから。