表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

不法投棄された聖女

作者: 桜井正宗

「――私と結婚してくれませんか」


 海のような(あお)い瞳を向けられている。こんな優しい目で求婚されたのは人生で初めてだった。わたしは、それを運命と感じ婚約を承諾した。



「アクィラ伯爵様。貴方はこのシレントの街周辺で最も権力をお持ちの方……そんな方が、どうして田舎娘であるわたしなんかを選んで下さったのですか」


「君が聖女だと聞いたからさ、アムール。ただの町娘だった君が大いなる力を覚醒させた。これは凄い奇跡だよ。でもそれ以上に、君の女神のような美貌や運動神経抜群な所に心を奪われたのだ」



 それが本心であると、付け加えて下さった。正直、悪い気はしなかった。伯爵の仰る通り、わたしはただの田舎の町娘で、走る回るしか能のない運動好きの名も無き聖女だった。けれども、伯爵様はどこかで噂を聞きつけ、わたしの前に現れてくれた。


 彼が運命の人なんだ。




 それからお屋敷に迎えられ、わたしは一週間を優雅に過ごしていた。



「さすが伯爵様。不便のない生活を送れるし、最高ね。このまま本当に結婚して安定した生活を送って――」



 部屋の掃除を進めていると、コンコンと扉をノックする音が響く。わたしは向かって、扉を開けた。そこには伯爵の姿が……あれ、どうして怖い顔を?



「あの……どうかなされましたか?」


「アムール、ちょっとこっちへ来い」



 強く腕を引っ張られ、外へ連れていかれる。


 ぎゅっと締め付けられ、本当に痛い。


 どうしたのだろう。




「あの……」




 それから、貧民の住むゴミ捨て場の前に立たされた。先が(がけ)になっていて、かなりの高所。下に落ちればゴミだらけで、登って戻るのは不可能な高さがある。



「すまないな、アムール」

「はい……? ど、どういう事です? なんで、わたしはこんな場所に連れて来られたんですか?」



 伯爵は申し訳ないとしながらも、悪魔のように不敵に笑い、そして……こう言った。



「アムール……お前はいらなく(・・・・)なった(・・・)。婚約破棄だ。つまり、物理的にも()てるって事さ」


「は……はぁ!? 意味分かんないですよ。いきなり連れて来られて、棄てるって……人をゴミみたいに!」



「そうだよ。アムール、お前はゴミ(・・)だ」



「……」



 もう意味が分からない。

 いきなりどうして、そんな酷い事を言われなくちゃいけないの。あんなに愛してくれたのに、あの狂おしい程の愛は何処(どこ)へいったの?



「教えてやろう。お前の妹さ」

「い、妹!? ミセルの事!?」



「そうだ、私は最初からミセルを愛していたのだよ」



 ミセルを……という事は、わたしは騙されていたの……。妹が先駆けて伯爵と婚約を交わし、わたしを騙すために。



「見事に騙されてくれたわ、アムール。ありがとう、アクィラ伯爵」



 木々の影から現れる妹のミセル。

 そんな所で待ち伏せしていたのね。



 という事は、本当に……そんなぁ……。



 あまりにショックが深すぎて、わたしは涙が止まらなかった。悔しくて悔しくて、泣き崩れるしかなかった。



「すまないねぇアムール。これはお前の妹がど~してもと言うのでね。邪魔者のお前を排除するにはこれしかなかった」



「そう。お姉様は私よりも先に聖女になられた。それが悔しくて、妬ましくて……許せなかった。でも、私も今日やっと聖女になるの。いえ、もうなれたわ(・・・・・・)……アムールお姉様、あなたを死亡扱い(・・・・)にしてね」



 そんな、そんなのってあんまりよ……。



「そう、これは全てミセルの為。アムールお前が消えれば、彼女が真の聖女となるのだ。ミセルがより輝けるというわけだよ」



 ひどい、ひどすぎる……!


 そこまでして、わたしを(おとし)めるとか……。


 こんなの……わたしの人生メチャクチャよ!



「じゃあ、そろそろゴミになってくれないかな、お姉様」


「ミセル……よくも!」


「往生際が悪いわ、アムール! あんたはもうオシマイ! オシマイなの! 貧民街の薄汚い連中にその全身を汚されてきなさいな!」



 ミセルの右足が飛んでくる。

 わたしを突き飛ばす気だ。



 もともと運動神経の良かったわたしは、それを回避する。すると、ミセルは足を踏み外して、勢いで崖へ向かって行く。



「わ、わわわわわ……ッ! アクィラ伯爵! アクィラ伯爵助けて!! このままじゃ、私が落ちちゃう!!」


「あ、あぁ任せろ!!」



 アクィラ伯爵がミセルの手を掴む。

 けれど、伯爵自身が咄嗟(とっさ)だった為、バランスを崩す。わたしは助けようとしたが、間に合わなかった。



 二人とも崖から落ちて、貧民街のゴミ溜めへ。



 かなりの高さがある為……。



「…………ぁ」



 良かった。ゴミがクッションになったようね。 

 でも、貧民街の住民が直ぐに気づき、二人を襲った。




「「や、やめろ、うあああああああッ!!!」」




 二人とも服を奪われ、縛られていった。

 残念だけれど、この高さでは二人を助ける方法はない。貧民街の民は狂暴で、オークやゴブリンの混血も多いという。人語を話せる者すらいるか怪しい。




「……せめて祈りを」




 軽い祈りを捧げ、わたしは崖を後にした。




 ――それから一週間後。




 二人は行方不明と処理されてしまった。


 生死は不明。




「……残念ね」




 わたしは新しい男性・ユベントス辺境伯と出会い、恋に落ちた。今は幸せに彼のお屋敷で暮らしている――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] コントかなw
[一言] うん。ざまぁ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ