第9話 死んだフリと盗み聞き
今は平気ですが、もうすぐ忙しさが苛烈する時期がやってきてしまうのです。そうなれば、この小説は長らく更新されないまま終わってしまうかもしれないです。
なので、毎週金曜日投稿という激遅投稿にすることで、大量に書きためてその時期を乗り切ろうという魂胆です。
しかし、最初200話行かないくらいかなぁとかぼんやりと考えていましたが、無理です。んな200なんてちゃちな数で終わる規模じゃなかったです。
間に合うか、自分...!
ガウスは山田の体を揺すぶり、声をかける。しかし、応答はない。ふと、アルマドの方を見て、彼は一つの結論に至った。
「アルマド、薬の配分を間違えたな?」
彼は山田がこの時間に出歩けているのは、睡眠薬の入った夕食を取らなかったか、それか他人に食べさせたかのどちらかだと思っていた。しかし、結果から見るに真実は、アルマドのミスにより効き目が遅れていただけだったのだ。
「...申し訳ございませんじゃ。」
そんなはずは...彼女はそう思いたかったが、度重なる心労、そして記憶操作魔法の調合に手間がかかっていた分、気が抜けていたのかもしれないと、彼女は自分の腕にさえ不安を覚えていた。続いて、彼女は自分の不安を投げかけた。
「ところで、どうしてガウス殿がヤマダと共におりますのじゃ?」
「あ~そのことかの。睡眠薬と同じことだ。粘着性のある特殊な粉を、宴の料理に混ぜて置いた。もちろん彼が食べるものに隙を見てだがの。その粉は一週間は胃や喉について離れない。そして、その位置は私にも分かる。」
アルマドは驚愕する。もしや、初日の監禁のこともバレているのかと...しかし、その不安は杞憂に終わる。
「しかし、盛ったあとすぐにデロデロに酔っての、すぐに寝てしまったが...初日は様子を見るだろうと高を括って、羽目を外してしまっての。」
そう言って苦笑いをするガウスに、アルマドは心底安心した。
「話を変えるが、グレオンの部下はどこかね?」
「わ、分かれて探しておりましたので...城内にいることは確かですじゃ。」
「そうか。では、かなりズレはしたが、計画は続行しようかの。ここからなら、客室より君の研究室の方が近いだろう。そこで行おう。」
「私の研究室でですのじゃ...?」
「ああ、殺すのは私がやる。」
今、アルマドの部屋には記憶操作魔法の薬の残りが置いたままなのである。禁術とだけあって材料には珍しいものも少なくなく、捨てるのを惜しんだ結果であった。ガウスもグレオンと同様に中々洞察力が優れていることを、彼女は知っている。もしなんとか説得して客室にヤマダを運んでいったとしても、そこに雑に寝かせてあるナイルが見つかってしまう。再び、アルマドは窮地に立たされた。そして、彼女の焦燥を感じたガウスは、追い討ちの言葉をかける。
「もしや、何か見つかったらばつの悪いことでもあるのかの?」
魔力は魔法が発動された後、しばらくはその場に、もしくは魔法をかけられた者に残り続ける。その魔力だけで、どんな魔法か分かる魔術師もいるという。倒れているナイルが発見されたら、まず間違いなく大事になるだろう。そして、そのような状況下で禁術の使用がバレてしまう。それだけは避けなければならなかった。故に彼女のとった行動は、
「ガウス殿、実は...」
自白であった。アルマドは監禁の事、ナイルとの事、禁術の事、ありのままに彼に話した。実は監禁の話だけで乗りきれないこともなかったのだが、喋りだしたが最後、堰を切ったように止まらなくなっていたのである。それほど、彼女にかかっていた精神的な負担が大きく、これ以上秘密を抱えこんではいられなかったのだった。
「嘘である可能性がないわけではないが、彼の本当のスキルは炎を出すこと...かの。危うく殺してしまうところだった。」
ガウスはすやすやと眠っている山田を見つめ、やや落胆のため息をついたが、すぐにアルマドの方に向き直し、
「それもこれも、我々が君にプレッシャーを与え続けたことが原因だろう。君は一人で抱えこんで、結果として禁術を使わせるに至った。孤独な戦いが、最善の結果を生むことは有り得ない。本当に、すまなかった。」
そう言って、彼女に頭を下げた。
「いえいえいえ!滅相もございませぬじゃ!これは全て私のせいで───」
「で、アルマドよ。どうする?」
ガウスの声色が変わる。周りの空気が一気に張り詰める。ガウスは、頭を上げてこう続けた。
「禁術の使用は一国家の問題には収まらない。経緯などは徹底的に調べあげられ、国そのものの評判を落とすことにもなる。周りの国々からも援助してもらっている身分で、それはマズくはないかの?」
「はい...で、ですから、私はどうすればいいのでしょうか...!」
アルマドの体は小刻みに震えている。だが、それは刑罰に対する恐怖からではなく、ガウスの発言の意図に対しての恐怖である。自分にも被害が及ぶなら、隠蔽のために結託、もしくは黙認してくれるはずであると、少なくとも彼女はそう思っているが、彼はそのことをあえて強調して言った。それ即ち、彼はそれをネタに彼女に脅しをかけようとしている、ということである。次の一言が、彼女の運命を分けるのだ。
「同情はするが、このままではどう足掻いても君は詰んでしまう。それほどまでに、君の犯した罪の数は多すぎる。これらを一挙に解決する方法は、一つしかないだろう。」
彼は、彼女の耳元で囁いた。
「ヤマダに洗脳魔法をかけるのだ。」
「!」
洗脳魔法とは、その名の通り人間を意のままに操ることのできる魔法である。これも記憶操作魔法と同じく、禁術に指定されている。この魔法の原理は他者の精神を消失させ、その体に自分の精神を連動させるというものである。実際には精神が完全に消えることはないのだが、禁術に指定されるには十分な力であった。彼はそのまま静かに続けた。
「もう後戻りはできない。洗脳魔法を使えば、彼のスキルの真偽も確かめられるからの。結果はどうあれ、この戦争に勝ち、この国はさらなる発言力を得て、異論を唱える国を力でねじ伏せる。それしかないだろう?」
そんなに上手く行くはずがない、そんなことは、ガウスも分かっていた。元より、利用するだけ利用して見捨てるつもりでいたのだ。それは彼女も当然分かっている。しかし、自分の弱味を全てこの男に晒け出してしまった彼女に、すでに選択肢など残されていなかったのである。
「分かりました、ガウス殿。」
アルマドは、山田をサイコキネシスで持ち、研究室へ行こうとした。すると、
「あ、一応言っておくが、彼の中ではこの城にオズローの賊が入ったことになっているからの。万が一また目覚めたりしたら、そこら辺を使って上手く誤魔化せ。」
この会話を最後に、二人は別れた。ガウスは客室へ、ナイルの回収へと向かっていった。
「(え、ええ~...)」
現在、僕は宙に浮かされているのだろう。見てはいないが、なんとなく浮遊感のようなものを感じている。夕食の睡眠薬入りカレーとやらは、ラッケル君がちゃんと残さずに食べてくれた。睡眠薬の配分ミスだとかの結論に至ってくれることを願って、寝たフリを決めこんだが、いやはや、思った以上に深刻な方向に話は進んでいっている。まさか、初日の宴で宰相も一服盛っていたとは...しかも、さっき僕と話していた時とはまるで態度が違う。勝敗を分かつはNo.2というが、やはり腹黒さというのは必要なものなのだろうか。しかし、今は彼の事は置いておいて、悩むべきはアルマドのことだろう。彼女は、ぶっちゃけた話もうヤケクソだ。僕も大学受験の英語で、最後の1、2問を投げやりに解いてしまったが、それと似たタイプの喪失感だろう。最も、ショックの大きさは桁違いだと思うが...僕の持ち物は、城内を探索して見つけたマッチ1箱(本当はアルマドに火を出している風に見せるのが目的だった)のみである。彼女はナイル君を倒したらしいし、そんな相手をマッチと小細工でどうにか倒せるとは到底思えない。ともすれば、前回同様言いくるめる他ないわけだが、彼女はすでに僕より圧倒的に恐ろしい人間に屈している。僕に彼以上の圧を出すのは無理だ。というかそういう威圧感とかって生まれてこの方出したこともないので、コツとかがあるなら知りたいくらいだ。詰んでいる人間に詰まされてしまう僕って一体...
扉の開く音がする。始まりの地であり、因縁の地でもあり、そして今回の決戦の地であるこの研究室で、一体これから事がどう転ぶか、それは当事者である僕でさえ、全く検討もつかない。
記憶操作魔法の薬と聞いて、ハリー・ポッターみたいな魔法なのかドロヘドロ(の一部分)みたいに粉を使って効果を得るかんじなのかとか、あんま具体的なイメージは沸かないと思います。詳しくは、魔力うんぬんの話ですので、今後ストーリーが進んで世界の仕組みが分かってきた辺りで説明します、多分。