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第8話 隠し扉と本心

矛盾点とか、不可解な点がそろそろ出てくると思います。大まかな設定とか世界情勢は考えていますが、要所要所は意外と甘かったりするので...多めに見ていただけたらと思います。

日中、グレオンとナイルは意図せずアルマドが山田を監視することを妨害していた。ゆえに、山田は城壁のところに隠し扉があることをを発見し、明日行うはずだった脱走を今日に繰り上げることが出来たのである。


城の裏口まで行くのに2時間もかかってしまった。今夜は見回りの兵士達の把握に留めておこうと思っていたが、もし今日の夕食に睡眠薬が入っていたとするなら、アルマドはそろそろ僕が抜け出そうとしていることに気付くはずだ。彼女が部屋に入ってきた時、狸寝入りをしていてもアウト、かといって居なくてもアウト、ならば逃げる他ない。ここから見晴らしの良い裏庭を少しだけ突っ切って、隠し扉から通路へ、そのまま城外(おそらく城下町)に出る。深呼吸をして、息を整える。そして、裏口の扉を開く。キーキーと軋む音は、対した音じゃないはずなのに、酷く大きく聞こえた。もう一度深呼吸をして、扉を開き切る。後戻りは出来ない。走り出そうとしたその瞬間、

「待ちたまえ。」

心臓の鼓動が早まる。息が詰まる。声の方へ目をやると、廊下の奥の暗闇から、ぼんやりと人の影が見えてくる。その声を、僕は知っている。だが、どうして彼がここにいるのだろうか。


「ヤマダよ、私だ。ガウスだよ。安心してくれたまえ。」


その正体は、宰相だった。アルマドなら分かるが、なぜ彼なのだろうか。しかし、その疑問は、すぐに解決することになる。


「賊が侵入したと聞いての。恐らく、オズローからの刺客だろう。君の安否が気になってアルマドを向かわせたが、案の定、居なくての。だが、良かった。無事でいてくれて何よりだ。」


ああ、なんて偶然であろうか。心底、神を呪いたいと思ったが、生憎、僕にとって神はもう見えない存在ではなかった...縋ることもできない。アルマドにもバレる。危うかった均衡が崩れる。考えうる限りの最悪だった。放心しかけている僕を見て、わざとらしく彼は言った。


「して、賊はどこにおる?拐われようとしていたのではないのか?」


答えは、沈黙だ。もう、僕に言えることは何もなかった。今日、もしもアルマドの薬を飲み、ただ眠っていただけなら...それはそれで賊に拐われるか、アルマドに監禁されるかの2択だろう。どう足掻こうが、既に詰んでいたのだ。そんな僕に、宰相は疑念の目を向け、


「もしや、逃げようとしていたのか...?」


と、当然の疑問をぶつけた。これに対する答えも、また沈黙である。長い静寂の末に、彼は思わぬことを言い出した。


「外、出るか。」


外といっても、あくまで城壁内(今まさに出ようとしていた所)であるが、僕は今、宰相と一緒に星を見ている。


「えっと、あの、賊とかは大丈夫なんでしょうか...?」


「今は私がいる。これでも昔はヤンチャしててね。賊の方は衛兵に任せておけばいいだろう。それよりも問題は、君の事だ。」


「...すいません。僕は、とても期待に応えられるとは...」


「突然呼び出されて、戦争に行けって方が無茶な話だからの。逃げようとした君の判断を、私は責めることができない。」


宰相は大きく息を吐くと、


「少し、この国の話でもしようか。」


と言った。



かつて、世界はアルバトロ・オズロー・エンディアの三国が中心となって動いていた。この三国は軍事同盟を組んでおり、その他の小さな国々では到底太刀打ち出来なかった。一国ならまだしも、世界を束ねる三国が相手になる、それは言うなれば、世界を相手にすることと等しかった。


そんな時に現れたのが、このモルガラである。この国は、同盟二ヵ国の支援を受けたオズローを打ち破り、世界に大きな影響を及ぼした。そして、報復に出たアルバトロとの戦争も和平に持ちこみ、モルガラは後に台頭するユークトンとともに先進五ヵ国と呼ばれるに至る。


そう足らしめたのが、モルガラの領地で新たに発見された天然資源である。元々、オズローとの戦争もこれが原因となっており、それを終わらせたのも、この資源なのである。


しかし、その栄光は、もはや200年も前の話...二度の戦争を乗り越え、この国の貿易を支えてきた資源が、ついに尽きようとしているのである。そこに来て、十年前の第二次、そして今起こっている第三次東西戦争により、この国は窮地に立たされていた。


一通り話し終えると、宰相は立ち上がり、空を見上げたまま、


「この国は、弱者の希望なのだ。世界を支配していた大国に打ち勝ち、成り上がった。世界の小国たちに勇気を与えたのだ。だから、折れるわけにはいかない!」


そう言って、僕の方を向いた。彼は続ける。


「最初に会った時、君の事を勇者だと言ったの。勇者とは、勇ましい者。勇敢な者。そして、勇気を与える者のことだ。何度も死ぬことの恐ろしさは、一度しか死ねない私には、いや我々には分からない。だが、君が戦場で何度屠られようと立ち上がり、敵に向かっていくその勇姿は、兵士たちに勇気を与えるだろう。」


彼は、座っている僕に手を差し出し、


「あの時は、了承もなしに言って悪かったの...


勇者になってくれるか?


と言った。彼の言葉は、響かなかったと言えば嘘になる。しかし、やはり荷が重い、というのが僕の答えである。だが、そんなことをバカ正直に言えるはずもないので、


「答えは...もう少し待ってくれませんか?」


僕が出した回答は保留であった。しかし、彼は快く、

「ああ、構わない。いつまでもというのは流石に困るが、数日なら待つ。」


僕がお礼を言って、会話は終わった。二人で城内に戻り、そのまま自分の部屋に帰る。それで、この長い夜は終わるはずだった。


「ガウス殿!...とヤマダぁぁぁあ!?」


アルマドが現れてしまった。もう休めると思っていた僕の脳ミソは、二日目の朝のようにフル稼働し出した。本気で、ショートしてしまわないか不安に思う。そうして、僕の取った行動は───


「おい、ヤマダ?」


宰相が驚くのも無理はない。突如、山田が倒れたのである。

つくづく後悔したのが、最初のところで主人公召喚されたのにめっちゃ冷静なところです。主人公の過去とかいらないところすっ飛ばしたし、いいかと思ってやってしまいましたが、山田のやつ意外と焦るし、だったら最初も焦れよと...

申し訳ないです。頭の中で焦らせていただけたら幸いです。

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