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第7話 友と不運

本当を多用してるのは仕様です。ご安心ください...安心は、別にする必要なかったですね。

日中はアルマドとまた地獄の特訓があると思っていたが、彼女は足早に研究室に駆けこんでいったので、今日は一日中城を見て回ることができた。そして、夕暮れ時になり、食堂に向かおうとしたとき、武器庫の中から一人の男が出てきた。


「あっ、こんにちは。」


とりあえず挨拶をしたが、見ない顔だ。奥を除くと、もう一人いる。そう言えば扉の開く直前、やけに低い声が聞こえた気がするが、目の前にいる彼がその声を出したとは思えない。とすれば、やはり奥の人間だ。


「奥にいるのは、グレオン軍団長...ですか?」


「...ああ、君か。不死の勇者の、確か...」


「山田です。」


「そうそう。ヤマダだったね。ここは城の随分端だが、散歩帰りといったところかね?」


「そうですそうです。あっちの裏口から入って───」


軽く世間話を済ませ、再び食堂へと足を進める。グレオンさんの部下のナイルくんとは、案外年が近そうだし、仲良くなれたかもしれない。しかし、逃げるということは、この二人も敵に回すということだ。グレオンさんは言うまでもなく、ナイルくんも彼の部下だから、きっと俺とは比べ物にならないほどに強いだろう。本当に、若いのに尊敬の意さえ覚える。



食堂に入ると、すでに沢山の衛兵たちが夕食にありついていた。


「おい、タロー!こっちだ!」


奥の方の席で、衛兵の一人であるラッケルが俺を呼ぶ。宴のときは、物珍しさに大勢が詰め寄ってきていたが、いかんせん話のレパートリーが少なすぎて、すぐに飽きられてしまった。例えば、スマートフォンの話をしたら、みんな興味津々でどうやって出来ているのかを聞くもんだから、どちらかというと(スマホに)利用される側だった俺が知るわけがない。そんな中、ラッケルはどんなにたどたどしい話し方でも、目を輝かせて聞いてくれた。彼は22歳らしく、ナイルくん同様年が近い(あくまでナイルくんは推測だが)。俺の分も持ってきてくれるし、本当に良い子だ。そして、唯一下の名前まで聞いてくれた人でもある。だが僕は、そんな優しさにつけこむように、


「悪いんだけど、水持ってきてくれない?」


「あっ!カレーなのに水忘れてた!ごめん!」


ラッケルはそう言って水を取りに行ってくれた。本当に...悪い。そう思いながら、僕と彼の皿を入れ替える。今朝のアルマドの行動はかなり怪しかった。もしかすると、このカレーライスにも睡眠薬が混入しているかもしれない。同じ手は食わない。ラッケルにババを引かせるようで罪悪感が凄いが、ただただ心の中で謝るしかない。


「水持ってきたよ~。ん?なんか顔色悪くない?大丈夫?」


ラッケルが戻ってきた。即座に俺の異変に気付き、そして気遣う。本当に...本当に...


「...いや、そんなことないない。それより、実は辛いときに水飲むのって逆効果なんだって!辛さが長く続くだけらしい。」


「あ~!それなら知ってる!僕のお婆ちゃんが言ってたよ!」


...本当に、僕は話のレパートリーが少ない。



暗殺計画開始が間近に迫った頃、


「マズいことになったの...」


宰相が呟いた。ここは宰相の部屋である。中にいるのはグレオンとナイル、アルマド、そして部屋の主である宰相の4人だけだ。グレオンは頭を深々と下げ、


「申し訳ございません...私の落ち度です...!」


誠心誠意、謝罪をした。これまで、数多くの戦場に立ち、仲間たちからは畏敬の眼差しで見られてきた彼にとって、失敗―――それも、なるべくしてなったものでもなく、単なる偶然の産物―――とは、到底許されざるものであった。


「何やっとるんじゃ、お主らは全く...」


アルマドが小声で悪態をつく。それを聞いてか聞かずか、宰相は言った。


「頭を上げよ。過去を悔やんだとてどうにもならん、グレオン。お前はそういうとき、唇を噛む癖があったな。」


グレオンの下唇は、彼の強靭な歯と顎に挟まれ、赤く染まっていた。一緒に頭を下げていたナイルは、宰相に先にそんなことを言われてしまい、謝罪の言葉を出せなかった。


「ガウス殿、どうなさりますか?」


ガウスこと宰相は、アルマドの問いかけに対し、


「だが、やるしかない。今から城の衛兵を一人連れてきて計画を説明しても、そんなすぐに腹は決められないだろうからの。アルマド、昼間のお主のようにな。」


そう言われ、アルマドは口を紡いだ。ガウスは顎に手を当て少し考えた後、


「やはり、昼間話した通りにやってもらおう。そもそも、マスクが外れるなんてことは万に一つしかありえん。それに、どうせ顔が割れているのなら、グレオン。お前がやったらどうじゃ?」


「いえ、流石に私とアルマドでは、体格差がありすぎます。シルエットでバレてしまうかも...私は190cmを越えていますし、彼女は140───」


「5じゃ!145!」


アルマドが口を挟む。ナイルは、尾行していた時とは多少性格が荒くなっている彼女に違和感を覚えたが、それは腹を括ったからだろうとそんなに深くは考えなかった。その一端を自分が担っているとは、思いもしなかった。


「では、やはり昼間の決定通りに動くということでいいかの?」


「異論はありません。」


「右に同じく。」


「お、私もです。」


ガウスは一度咳払いをして、真剣な眼差しで三人を見つめた。


「...諸君!国の命運がかかっている!心して臨むように!」


「ハッ!」



突然だが、アルマドが初日、そして今日と夕食に仕込んだ睡眠薬(今日食べたのはラッケルだが)は、吸うと眠気を誘う魔法と、それを閉じこめるカプセルのような役割を果たす魔法の二つによって構成されている。そのカプセルのような魔法が解けるのがおよそ4時間ほど。すると、中に閉じこめられていた魔法が体を内側から蝕み、眠らせるのである。夕食の時間は6時と決まっている。つまり、寝る時間になった10時頃に服用した相手は昏睡状態になるという寸法だ。こうして、比較的何の不自然さもなく(山田はベッドから出て物思いに耽っていたため、違和感に気づいてしまったが)相手を好き勝手できるようになるのである。


「一応薬が効くには誤差があるからの。12時、これなら確実じゃ。」


「そうですか。」


客室の前で小声で話しているのは、ご存知、アルマドとナイルである。


「お主と会ったのはさっきのガウス殿の部屋が初めてじゃの。事が事だけに、初めましてとはいかんかったが...どうじゃ?今さらじゃが、握手でもせんか?」


そう言って手を差し出す彼女に、ナイルも渋々右手を出した。彼女はそれを両手で掴んで、上下に揺らす。初対面同士、至って普通の会釈だが、この状況下においては、それこそがまさに異様だった。彼は、明らかな違和感に手を離そうとしたが、もう遅かった。


「ズープ」


老婆の口からぼそっと漏れでたその言葉は、つい10時間程前に、男に止めを刺した魔法と同じ名前だった。しかし、彼はそのことを知るよしもなかった。再び目が覚めた頃には、また在りもしない現実を辿った後だろう。


「頭なら一瞬じゃが、そこ以外からでも、3秒も触れれば事足りるわい。」


とりあえず、これで全ては済んだ。後は彼の記憶の処理さえすれば、山田は死なず、王様達も目的を果たせて、自分は名誉を守れる。彼女にとっては最高の結果であった。国際法には違反したが、背に腹は代えられない。何かを捨てなければ、得られるものもないのだ。彼女は、自分にそう言い聞かせる。扉を開け、念のためではあるが、ヤマダの様子を確認しようとする。しかし、


「なっ!?どこじゃ!?ヤマダ!!!」


シーツをめくると、そこには人が寝ているように見せかけるための物が置いてあるばかりで、彼の姿はどこにもなかった。

ナイルとアルマドを絡ませると、なぜか僕の方が中二病になるので、もうこの二人を会わせたくないです。



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