第3話 能力と計画
拙い文章ですが、それがさらに変化しているような気がします。僕、馬鹿なので分かりませんが。
夢の世界は真っ白が遥か彼方まで広がっている、そんな世界だった。そこに、僕の他に、もう一人の男がいる。近づいてみると、その男の顔は、僕そっくりだった。
「誰だ?」
「まぁ、有り体に言えば神だね。」
「!」
「ただ実際は、神と呼ばれている何かであって、その正体はこの世の理が意思をもった存在というか───」
「待て待て待て!」
慌てて制す。こういった状況、神だとかそういう存在が実際にいてもおかしくないのは分かっているが、僕は元々そういうのはあまり信じないタイプだし、そんな人間にこうもいきなり非科学的な話をしてくる神とやらは、少々配慮に欠けていると思う。
「アンタが神ってのは信じるよ。でも、何の用だ?異世界に来たときになら分かるけど、なんで2日目の夜なんだよ。」
「それは夢の中でしか会えないからだね。最も、初日は薬かなんかで昏睡に近い状況だったけど。」
「なんで夢の中だけ?」
「魂とかも関わってくる話だけど、する?」
「...やめときます。他にもある。スキルのことだ。これを与えたのもお前だろ。」
「うん、それは違うね。」
違うのかい。絶対頷く雰囲気、というか頷いて否定しやがった。しかし、事態はそう悪くはないようで、
「でも、与えた人は知ってるよ。」
彼、というか俺の姿をした神は意外にも有能だった。
「彼女の名はフーシャ。この大陸の意思で、いや、簡単に言うと、この大陸を司っている神だよ。」
風車?...フーシャか。そして、難しくなりそうな話を簡潔に言い直したところを見るに、意外にも気のきく神なのかもしれない。それとも、まさか心が読まれているとか?
「いや、読んでるよ。」
「...マジですか。」
別にやましいことは何も考えていないが、心を読まれるというのは、それだけで十分恥ずかしい行為だ。僕の心を読んでいて、それでいて真顔なところを見るに、やはり神なのだろう。
「というか、神にも性別ってあるんですね。」
「正確に言うと、フーシャというのは元は大陸に伝わる伝説に出てきた女性で、みんなの彼女に対する信仰が形を為したというか、彼女の姿をなぞっているというか───」
「もう大丈夫です...」
これ以上聞いていたら、多分僕の頭がトンでいた。
「あー、話が戻そう。要は彼女は、異世界から来た魔法の使えない一般人達を哀れんでスキルを授けることにしたわけ。まぁ結果は戦争に利用されるだの散々だけどね。」
「そうすか。それで、肝心のスキルの方は...」
「うん、知ってるよ。」
...え?明らかに知らない雰囲気だったというか、今まで言っていたのは知らない理由じゃないのか?
「...僕はね、スキルが意思をもった存在なんだ。言わば、君の不死のスキルは僕とも言える。知らないわけがないだろう?」
「...」
僕は思考するのをやめた。ただ、能力だけ聞いて起きようと思った。神だとか、そういう存在のノリは僕には合わないらしい。
「君のスキルは、体が死に至る損傷を受けたとき、超再生が発動する能力だよ。」
「!」
少し希望が沸いてきた。バラバラになった状態で生命だけ維持されるとか、エグい結末を迎えそうな能力ではなくて、ひとまず安心だ。
「良かったです。それじゃ。」
「...君は冷淡というか、あれだね。物怖じしないね。」
そういって彼はタメ息をついた。つきたいのはこっちだって同じだ。いきなり召喚されて、親や周りのことか、奨学金の返済とか、これら全てを(強制的に)放棄して今ここに居るわけで...いや、召喚したのはアルマドで、彼ら神はそんな俺にスキルを与えてくれたわけで、でもそのせいで戦争に駆り出されそうなわけで...ダメだな。混乱してきた。第一、休息をとるための睡眠であって、そこで見る夢の中で頭を使っていたら意味がない。やめよう。
「あ、最後に一ついいですか?」
「ああ。なんで君の姿をしているかって?」
心を読まないでください。彼は続けた。
「特に意味はないよ。君に恋人でもできたら、その姿にでもなろうかな?」
目が覚めた。酷い夢だった。時計の針は5時を指している。窓を開けると、外はまだ暗い。安全のために柵がついていて、身を乗り出すことは出来ないが、新鮮な空気を吸うには十分だ。さて、
「どうやって逃げるか...」
ポツリと呟いた。前も言っていた気がする。昨日は、拘束を解かれた後、一日中付きまとわれていた。それが美少女で、かつ向けられているのが好意なら心底良かったが、残念ながらその実態は、僕に疑いと不安の眼差しを向ける、しわしわの婆さんである。最初は大丈夫でも、二日、三日と、スキルに何の進捗もないと、疑いの目はさらに強くなる。これは推測でしかないが、今の彼女は、俺の嘘を信じているというよりは、都合良く思いこむようにしている、という方が正しいだろう。つまり普通の嘘とは違い、彼女の心がダメになった時点で終わってしまうということだ。僕のスキルが不死ではなく火炎だということは、王様や宰相には言っていない。不死身の兵士だと思っていた者が、実は火を出すだけだったと知れば、恐らく落胆の方が大きいからだ。火を出すことはぶっちゃけ魔術師でもできるので、そういう点でも言いづらい。あの時は焦っていて、何も考えず火炎と言ってしまったが、もう少し誤魔化しの効くものにするんだったと後悔した。一応、僕ら二人(正確にはアルマド一人のだが)の計画は、戦地に送られる前にこっそりとスキルを使いこなせるようにして、戦場で不死だと思っていたが実は炎を出す力だったと判明する(というシナリオの)、事後報告作戦である。要は、勝てばいいのである。勝てば王様も何も文句はない。しかし、この作戦はよく考えてみればすぐにおかしな点に気づく。まず、スキルが使いこなせるようになるかは運だし(実際は不可能)、不死身を活かした戦闘スタイルで、一体いつ火炎の能力だったと気付くのかは疑問だ。他にも色々あるが、結局何が言いたいのかというと、この状況は脆すぎる。最悪の場合、明日が限界という可能性も有り得なくはない以上、一刻も早い脱走が求められる。今日早く起きたのも(早く起きたのは夢のせいでもあるが)、視察のためである。日中はアルマドが1日中僕にマークしており、下手に動き回るのは彼女の不安を煽ることになる。夜は兵士が徘徊しており、僕はプロの暗殺者だとか怪盗のように隠れる術を持ち合わせていないので厳しいだろう。となれば、朝しかない。朝早く起きたから城内を散歩するというのが、シチュエーションとして最も自然だ。そして、城の地理を把握し、夜に望む。何も分からず暗闇を進むのと、ある程度把握している場所を進むのでは、その難易度は非にならない。そして、次に必要なものを用意する。今パッと思いつくのは、食料や顔を隠すためのローブなど、通貨も少し必要かもしれない。後は、今と夜の城内探索で必要なものを随時リストアップしていく。そして、明日の夜に脱走、という流れだ。最初に酷い作戦を立てている分、こちらは割と実現性があるように思える。思えたんだが...
部屋を出てしばらく城内を見回っていると、背後からただならぬ視線を感じた。悪い予感がする。なぜ人というのは、悪い予感ばかり当たるのだろうか。現状、こんなことをする心当たりのある人物はただ一人。そう、アルマドだった。
ちなみに前の日(拘束された日)から、お掃除のメイドさんに世間話を装って城内のことを色々聞いたり、アルマドの監視の目をくぐって、ちょびっと情報収集していました。