第1話 お目覚めとババア
あらすじでざっと書いておけば、召喚前は書かなくてもいいと思っている自分がいます。ごめんなさい。元々、作文がメチャクチャ苦手で、原稿用紙は親の仇でしたね。親、生きてますが。その練習を目的に書いてます!
「...や...まだ...やまだ...目覚めなさい...」
優しく包みこまれるような声でそう呼ばれ、それに吸いつけられるかのように起き上がると、そこにはババ...年もそこそこの女性がいらっしゃった。
「あの...どちらさまで...?」
恐る恐る尋ねると、そこそこの女性は息を荒くして、
「貴方様は、我々が待ち望んでいた勇者様にございますじゃ!」
ピンとこなかったが、辺りを見回す内に少しずつ状況が飲みこめてきた。石作りの広い部屋、沢山の棚に置かれた大量の瓶(中に入っているのは何かの薬品だろうか)、足元には魔方陣、目の前には白いローブを来た女性、これはまさか、
異世界転生
そう思った。果たして、自分は死んでしまったのか、それとも召喚されただけで、死んではいないのか、何はともあれ、大変な状況には変わりないが。すると、そこそこの女性は、
「私めは、アルマドと申しますじゃ。この国の国家魔術師を務めておりまして、この度、貴方様を召喚させて頂きましたのじゃ。」
アルマドと名乗るその女性の声は、初めに聞いた優しい声の主とは違う。他には誰もいないし、誰だったのだろうか。考えていてもキリがないし、何よりも、ずっと黙ったままでいるのは不味いので、とりあえず立ち上がり、
「あの...何の用ですかね?」
手で頭をかく動作、やや困り気味の表情、腰を少しかがめ、いかにも状況を飲みこめていない風を演じる。
「実は我が国は今、隣国と戦争をしておりますじゃ。そこで、貴方様のお力をお借りしたい次第でして...」
アルマドはそう言った。戦争の助力を乞うのに一般人の力を借りるかと、そんな疑問も沸くが、今は抑えて、
「いや、戦争なんて...僕、剣とか振れないですし、銃だって持ったことありませんよ!」
演技じゃなくても、いきなり戦争の手伝いをしろと言われれば、誰だって慌てる。そんな自分をなだめるように、アルマドは言った。
「その点に関しては、心配要りませぬじゃ。召喚された者には特別な力が与えられるらしく、力によっては一人で百もの兵を鎮圧したとか...」
なるほど、よく異世界転生して神からチート能力を授かり、それで無双する小説があるが、そういう能力を持つ人間が戦力に加われば、大変心強いだろう。アルマドは、懐から水晶を取り出し、
「これに手をかざして、強く念じてくだされ。能力のビジョンが見えるそうですじゃ。」
言われた通りにすると、何やら水晶が曇り始める。手をどけ、覗きこんで見てみるとそこにははっきりと、
「不死」
と書いてあった、漢字で。
「何が映っておりますのじゃ、これは...」
アルマドが困惑しているのを見て僕は、
「不死...って、書いてありますね。」
「ふし?...あ、不死!もしやそれは不死身ということでございますのじゃ!?」
こっちに聞かれてもよく分からないが、
「多分、そういうことなんじゃないですかね?」
と、返答した。アルマドは不死と聞いた後、少しタメがあった。文字が読めなかったのかもしれない。その場合、なぜ話が通じるのか疑問が生じるが、それか、水晶の中はかざした本人しか見えないのかもしれない。すると明らかに高揚しているアルマドは、
「それは素晴らしいですじゃ!すぐ王様のもとへ連れていきますじゃ!」
と言って僕の手を引き、この部屋を出た。
王様のいる所へ行くまでに、僕は少し頭を整理した。最初の声の主のことや、元いた世界のこと、両親のこと、そして、アルマドの発言の節々に感じた違和感のこと。それは主に2つ。1つは、能力のこと。アルマドの能力についての説明は、全て人づてに聞いたのかと思える口調だった。もしかしたら、初めての召喚なのかもしれない。もう1つは、部屋を出る前の発言―――それは素晴らしいですじゃ!すぐ王様のもとへ連れていきますじゃ!―――この発言は、素晴らしい能力だから王様の所へ連れていく、という意味にもとれる。考えすぎかもしれないが、素晴らしくない能力だったら、一体どうなっていたのだろうか。
王の間へと入り、玉座の前で跪く。歩いてきた赤いカーペットの横には、騎士が一列に並んでいる。正面には、小太りの王様と、横にいるのは宰相だろうか。彼が口を開いた。
「そのものが勇者か?」
「左様にございますじゃ。」
横で同じように跪くアルマドが、続けて答えた。
「不死のスキルを持つ勇者にございますじゃ。」
「ふし?不死とな?」
王様が体を前に出し、聞き返す。首の二重顎が消えた。続けて宰相(と思われる男)が僕らの前に立ち、片膝をつき、
「よくやった、アルマドよ。そして、よくぞ来てくれた、勇者よ。名を、聞かせてくれるか?」
「山田です。山田───」
「そうか、ヤマダと言うんだな!国の命運はそなたにかかっているぞ!」
肩を掴まれ、そう言われた。下の名前を言おうとしたが、遮られてしまった。この国には、名字という概念がなく、山田の時点で言い終わったと思われたのか。それとも、単にせっかちなだけなのか。すると、王様が立ち上がり、こう言った。
「勇者ヤマダよ!今宵は宴だ!存分に楽しもうぞ!」
宴が終わり、僕は客人用の部屋を一室使わせてもらうことになった。そのベッドの上で、聞いたことを整理する。この国の名はモルガラ。戦争の相手はオズローという国で、形勢はこちらがやや不利。その理由こそが異世界から召喚された者達で、こちらも対抗して召喚しようとするが、何度も失敗。財政も苦しくなってきて、諦めかけたところに召喚されたのが僕というわけだ。つまり、僕は近々戦地の最前線に立たされて、不死の能力で戦うことになる。待て...
「つまり、近々戦地の最前線に立たされて、不死のスキルで戦うことになるってことか。」
信じられず、口に出して再度確認する。僕の名前は山田太郎、23歳。一人暮らしを始めて五年になる。大学を出てまだ半年も経っていない、ただのフリーターだったはずだ。そんな男が、間もなく戦地に放り込まれるわけだ。こうなると、不死というのが逆に辛い。そういう類いの能力者は、強いとはいえ攻撃を食らえばちゃんと痛い。漫画やアニメでは、痛みをものともしないイカれたやつが持っている能力だからこそ恐ろしいのであって、こんな凡人に持たせるには少々荷の重すぎる能力だ。窓辺に立ち、ポツリと呟く。
「...逃げるか?」
自然と口から出てしまった。召喚魔法は、一回一回準備するにも莫大な費用がかかるらしい。ここで俺が逃げてしまえば、彼らの努力は水の泡となってしまう。また召喚するとしたら、さらに費用がかさむ。成功する保証はないし、仮に召喚できたとしても、良い能力になるかは分からない。とんでもない心労で、胃がキリキリしながらも、突如襲われた睡魔には敵わなかった。ベッドに戻ろうとし時、足が少しふらついてベッドの木製の部分にぶつけてしまった。
「痛ッ!!」
ベッドに飛び込みながら、負傷した足を手で押さえる。最悪だ、爪が少し割れている。しかし、それでも睡魔はとめどなく僕に覆い被さり、痛みが退くのを待たずして眠ってしまった。
目が覚めると、ベッドの感触が違った。というより、そもそもベッドじゃなかった。服は脱がされ(一応パンツは履いている)、手足は拘束されている。
「え?」
天井は、見覚えのある石作りだ。なんとなく察し、思考を巡らせる。扉が開き、見覚えのある女性が現れた。
「あ、起きたんですじゃ。」
アルマドのババアだった。
アルマドの語尾
基本 ~じゃ
疑問 ~のじゃ
例外 ~でして...など、途中で切れる喋り方の時は語尾をつけない。