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第十五話 自然魔法

興味を持って下さりありがとうございます!

 勇者を振り切った二人は、馬を放し、森の中を歩きながら、ルツカの村へ向かった。森の中を進んでいるのは、自分達へ捜索隊が向けられているのではないかと危惧したことに加え、もう一つ理由があった。


「どうだ、ルツカ?」

「リーモ村まではあと少しよ」


 森の中でも一際大きな樹に手をあてていたルツカはハンスの声にそう答えた。理由の二つ目はルツカの力にあるのだ。


「ルツカは木属性の自然魔法の使い手、ドルイドだったのか」


「まあ、まだまだってお姉ちゃんには言われるけど、方角とか森に起こっていることを教えて貰うことは出来るわ」


 そういう彼女の手の中に木の実が二つ落ちてくる。ルツカは一つをハンスに手渡すと、感謝を告げるように再び樹に触れた。


(自然魔法、森で暮らすなら打ってつけの魔法だな)


 自然魔法とは、樹や水、大地といった自然に含まれるのマナと同調し、自分の思いを伝えることで力を貸して貰う魔法である。木属性の自然魔法の使い手であれば、樹の知っていることを教えて貰ったり、蔦で人を拘束したりすることもできる。


「でも、この力を使えば、そもそも兵士達に捕まらなかったんじゃないか?」


「アイツら、卑怯にも言うことを聞かないと森に火を放つって言いだして。数も多かったし、言うことをきくしかなかったのよ」


「そっか。大変だったな」


 そういうと、ハンスはルツカの頭の上に手をポンと置いた。ルツカはくすぐったそうな表情をしたものの、すぐに“子ども扱いしないで”などと言いながら、慌ててその手を払いのけた。


「まあ、助かったし、もういいよ。流石、救世主ね!」

「俺は救世主なんかじゃないって」


 ハンスは苦笑いをしながら、そう言った。ちなみにハンスから事情を聞いたルツカは、話の大きさに驚きはしたものの、彼の言うことをある程度信じ、その境遇に同情してくれた。五色の光は何処でもよく見えたことに加え、帝国最強の騎士、勇者を撃退した彼の力を目の当たりにするとハンスの言葉を信じざるを得なくなるのだろう。


 また、魔王ユリウスが用いていた力、《死霊食い(ソウルイーター)》という力をハンスが持つことについても、驚きこそすれ、特別な忌避感はなく、“要は使い方でしょ”と述べるだけだった。この辺りは自然魔法の使い手が帝国内で長い間偏見と差別を受けてきたことと関係しているのかもしれなかった。


「そう言えば、今も馬に乗ったり、呪法を使ったりすることは出来るのよね?」


「それが、ほとんど出来なくなったんだ」


「え?」


 ルツカが木の実を食べる手を止める。ハンスは木の実の残りを頬張り、飲み込むと腕組みをした。


「勇者を振り切った後、何ていうか、体の中の霊魂達の未練がなくなって《死霊食い(ソウルイーター)》から解放されたんだ。そうしたら、死霊達が持っていた力もなくなっちゃってさ」


「あの時のハンスは凄かったのに」


「やっと自由になったのにまた縛り付けるなんて酷いだろ。それに、脱獄出来ただけで有難いよ」


 厳密には死霊達が持っていた技能スキルが全て消えたわけではない。死霊を取り込む前と比べれば、剣術や馬術、呪法についての技能スキルは上がっているが、恐らく死霊の持っていた力の十分の一程度に過ぎない。それは身体能力についても同じだった。


(無理して俺の中に押しとどめることも出来そうだったけどなあ)


 勇者の追跡を巻いて自由を手に入れた時、彼の中の死霊達が悪夢から覚めたような表情で消えていくのを見ると、それを止めようという気にはならなかったのだ。


(生前の未練を抱えたまま地上に留まるというのは、かなり辛いことなんだろうか。……だとしたら、姉さんは今、どんな思いなんだろう)


 勇者を撃破した後、リンダの霊魂はハンスの元に戻っていた。しかし、他の死霊達のように《死霊食い(ソウルイーター)》から解放されることはなく、未だにハンスの中にある。


(姉さん、俺は一体どうしたら……)


 そんなことを考えていると再びルツカが彼に話しかけた。


「欲がないね、ハンスは」

「そうかな?」

 

 ハンスは何だか照れくさくなって鼻をかいた。ルツカは不意に立ち上がり、彼の隣に座った。


「ハンスはこれからどうするの?」


「君を姉さんのところへ送ってからのことは考えてない。勇者と何らかの決着はつけなくちゃ行けないけど、今のままじゃ駄目だし…」


「私には倒しちゃったように見えたけど?」


「多分、倒せていない。アイツは倒しても光になるだけで、暫くすると何食わぬ顔をして現れるんだ。前に姉さんの力で倒したときもそうだったんだ」


「じゃあ、確実に倒すための方法を探すってことかな?」


「それもそうなんだけど……」


 ハンスはここで言葉を切って、上を見上げた。青々とした葉を茂らせる樹は、シイ村の大樹ほどの大きさはないが、それでも長い年月を生きる命の大きさを感じさせてくれる。


「この力を得た意味を考えて欲しいって言うのが姉さんの最後の願いだったんだ。だから、俺に何が出来るのかを考えてみたい」


 それはハンスがリンダを失ってから始めて芽生えた前向きな想いだった。ただ、それにはリンダの霊魂の解放という目的もあるのだが。


(俺は姉さんの笑顔がもう一度みたい。姉さんの魂を《死霊食い(ソウルイーター)》から解放すれば、地下牢から解放された死霊達みたいに笑ってくれるはずた)


 少し変わったように見えても、結局のところ、彼の行動の目的がリンダのためだという点は変わっていない。


「ホント、ハンスのシスコンは重傷ね」


 ただ、ルツカはそんな憎まれ口を叩きつつも、内心では感心していた。大切な人を失い、一時は自暴自棄になっていたにも関わらず、今では前を向いてあるこうとしている。


(そんな目にあったら、私なら二度と立ち上がれない。なのにハンスは……)


 ルツカには姉の死を曲がりなりにも受け止め、前に進もうとしているハンスが眩しく思えた。だが──


(だけど、そんなこと恥ずかしすぎて言えない!)


 ルツカが天の邪鬼と化したのはそんな理由だった。


「シスコンって?」


「ハンスはお姉ちゃんが好きすぎるってことよ」


「ルツカも姉さんが好きなんだろ?」


「だーかーら~」


 重傷過ぎて改善の余地がないハンスにルツカは内心でイライラするものを感じるが、それは彼女にとって不可解なものだった。ハンスが何を考えようと関係ないはずなのに、やけに食いつく理由が自分でも分からないのだ。


(何で? 別にハンスがシスコンだろうとなかろうと、ハンスの自由なのに)


 いくら考えても答えは出ない。したがって、ルツカは考えるをやめ、立ち上がった。


「さあ、もう少しだから急ごう。そうしたら、日没までにリーモ村につけるかも」


「ああ、そうだな」


 ハンスがそう言うと、ルツカは“競争だ”と言わんばかりに駆けだした。ハンスはやれやれと言わんばかりの表情を浮かべ、ルツカを追いかけた。

読んで頂きありがとうございました。次話は明日の七時に投稿します!


※以下は自然魔法の設定ですが、読まなくても物語に支障はありません。


自然魔法とは、樹や水、大地といった自然に含まれるのマナと同調し、自分の思いを伝えることで力を貸して貰う魔法である。木属性の自然魔法の使い手であれば、樹の知っていることを教えて貰ったり、蔦で人を拘束したりすることもできる。


また、常時触れられる存在に作用する分、適正さえあればやり方が直感的に習得しやいのも特徴。故に突然、強大な使い手が現れたりする。


 他の魔法と比べ、攻撃のバリエーションは少ないが、自然の中でで暮らすにはこれ以上便利な魔法はない。ただ、属性魔法や呪法と違って体系化されていない上、精霊魔法のように有名でもないため、自然魔法の使い手はつい最近まで帝国内では偏見と差別の対象であった。

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