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第一話 ハンスとリンダ

全百六話で完結済みです。序章は一日数話ペースで、以後は基本一日一話ペースにしたいと思っています。


よろしくお願いしますm(_ _)m

 この世界、アルディナには百年前に救世主が現れたという伝説があった。


 かつて、世界を滅亡の憂き目にまで追いやったという伝説の魔王、ユリウス。彼は只の人間であったが、《死霊食い(ソウルイーター)》という彼にしか使えない魔法でもって、人の限界を超え、人はおろか、竜や神さえその手にかけたと言われている。


 その魔王を倒したのが、アルディナの救世主である勇者オルヴァリエ


 《死霊食い(ソウルイーター)》、それは死した生物を自らの力としたり、自らの奴隷──これを皆は魔物と呼んだ──を作ったりする力。それを破ったのがオルヴァリエだけの力、《聖光ホーリーライト》。


 しかし、魔王ユリウスと救世主オルヴァリエは相打ちになり、千年前に誕生した魔物は今も人々の生活を脅かしている。

 が、今、問題になっているのはそういうことではなかった。


 今の問題、それは救世主が再び現れたということだった。


 カイザル帝国の首都、ネブカドネザル。そして、この国の首都を見下ろすように立つ城の更に奧。帝国の政治を牛耳る大貴族が密談をする奥殿に一組の男女がいた。


「あの光は本物なのか?」

「紛れもなくホンモノよ」


 男が問うと、女はそう答えた。二人共、マスクを着けて顔を隠した上に、服装も身分にそぐわぬ質素なもの。普段の彼らを知るものでさえ、いや、知っていればいるほど、正体を看破できなかったに違いない。


「何故今なのだ。皇帝の求心力がここまで低下していなければ、むしろ積極的に利用してやったものを」


「同盟国であるドライセン公国への出兵、及び敗北。賠償金や戦費を補うための増税に飢饉。トドメに皇帝の色狂いと来てはね」


 女に同意するように男はまた溜息をついた。


「飢饉から美女を救うために後宮を増築するだと。呆れてものも言えん」


「おまけに貴族が自分の親族を陛下のお目に止めようと必死になるせいで、くだらないいさかいの増えること、増えること。今や、毎年の恒例行事を行う決定でも簡単には通らないわよ。まあ、民には救世主が必要なのでしょうけど」


「我ら貴族にとっては迷惑千万。名を上げた救世主を掲げて革命を起こそうとする輩が目に浮かぶわ」


 国内だけではない。それこそ、帝国のライバルである神聖エージェス教国を始めとした外国が工作を仕掛けてくる可能性も高い。とにかく、現在の帝国は死に体なのだ。


「で、どうするの?」


 女は男にそう問うた。彼女も結論は分かっているが、目の前の男はこうして口に出させてやらないと動けないことを知っていたからだ。


「どうといっても、一つしかあるまい」


 男は目の前の杯に口をつけ、立ち上がった。


「居なかったことにするのだ。何もかもなくなってしまえば、言い訳さえ必要ないのだからな」


 女の続きを促すような眼差しをうけ、男は重々しい口調で一言付け加えた。


「我がカイゼル帝国の切り札、勇者を遣わす。百年前の焼き直しだが、問題なかろう」



※※



 時は少しさかのぼる。


 数時間後、救世主として選ばれる少年、ハンスはシイ村伝統の儀式に挑もうとしていた。


 かつて、救世主が生まれたという伝説がある、シイ村。ここには、成人として認められるために必要な儀式があった。


 それが試しの儀。


 試しの儀とは、村の誇り、救世主が成人した日にあった出来事を模した儀式だ。


 とはいっても大したことはない。夕暮れ時に、普段、封鎖されているちょっと険しい道を上って、大きな大樹にお参りしてくるだけのことだ。その後は、村中で宴会をするという流れになっている。


 ハンス自身も、周りの大人も何も心配していなかった──ただ、一人、彼の姉を除いて。


 数年前、彼らの両親は村を襲ってきた魔物と相打ちになって死亡。以来、彼の面倒を見てくれたのは五つ上の姉と村人達だった。が、特に姉の過保護っぷりは凄かった。


“早くハンスが結婚しないと、リンダが行き遅れてしまう”


 村人は冗談半分で、そう話したものだった。


 冗談半分なのは、ハンスの姉、リンダの美貌にあった。遠くの村から求婚者がくるような彼女が多少年をとったところで、相手に困るはずもない。


 ただ、唯一心配なのは、ハンスが結婚しても状態が変わらないのではないかということだけだった。


「姉さん、大丈夫だって」


 ハンスは村の出口で、もう何十回言ったか分からない言葉を姉のリンダに言った。


「みんないつも無事に帰ってくるんだ。危険なことはないよ」


 尚、それに対する姉の返答も、何十回と繰り返されたものだった。


「でも、魔物はいつも突然現れるのよ。それが今日でない保証はないわ」


 ハンスはそっとため息をついた。“そっと”なのは姉の心情を慮ったからだ。


 ハンスの姉は不世出の精霊使いだ。


 天性の才能を両親からの英才教育で開花させた姉、リンダ。彼女の力には、二つ名を持つ有名な冒険者だった両親さえ舌を巻いていた。


 しかし、魔物が村を襲い、応戦した両親が命を落とした時、姉はたまたま村に居なかった。姉は秘かにそれを自分の落ち度と思い、自分がハンスから両親を奪ったのではないかと悩んでいる。


 それは考え違いなのだ。両親の死は誰のせいでも無い。そして、姉はハンスにとっての自慢の種であり、かけがえのない存在。むしろ、姉だけでも自分を置いていかなかったことに感謝しているくらいだ。


 しかし、いつも、それは姉に伝わらない。


 これが、ハンスの最大の悩みだった。


「姉さんと同じように、俺だって父さんと母さんから鍛えられてきたんだ」


「それはそうだけど」


「今だって修業は怠っていない。だって」


 いつか、姉さんの力になりたいから


 それがハンスの夢。

 だか、その言葉は言えなかった。少なくとも今は。


 ハンスは凡才。姉のサポートが出来ればと考え、前衛で戦える訓練を積んでいるが、今のままでは助けるどころか、邪魔をしないのが精一杯だ。


「私だって、ハンスが弱いと思ってるわけじゃないんだけど」


 リンダはため息をついた。彼女も分かっているのだ。自分が聞き分けないことを言っているということを。ただただ不安がっても仕方が無い。


「分かったわ。私の精霊を一体つけるから」


「冗談だろ。俺が帰るまで精霊を使役し続けるの? 最短でも二時間はかかるんだよ!」


「無茶ってほどじゃないでしょ。疲れて明日は何も出来ないと思うけど」


 精霊とはエネルギーの塊のようなもので実体がない。それに魔力で仮初めの肉体(といっても幽霊のようなものだ)を与えて使役するのが、精霊使いだ。尚、仮初めの肉体はもろく、維持することが難しい。それ故に、熟練の精霊使いでも数分間維持できれるかどうかだ。


「そこまでするほどのことじゃ無いってこと。大体、皆にバレたからいくら何でも恥ずかしすぎるよ!」


「大丈夫よ。ホラ!」


 リンダは明るい声で周りを示した。ハンスが出発前に姉と話し始めた時には見送りの人達が大勢いたのに、今は誰も居ない。皆、ハンスとリンダの話が長すぎて先に帰ってしまったのだ。


「大丈夫じゃないだろ、これは」


 リンダは、そんなハンスには何も答えず、精霊を創り出した。

読んで頂きありがとうございました。次話は昼頃投稿予定です


も、もしよろしければブクマ、ポイント等ポチッとして頂ければ大変大変励みになりますm(_ _)m


【設定資料(読まなくても支障はありません)】


精霊魔法


 周囲にあるマナが集まり、群体として動くような“真名まな”を与えることで精霊をつくり、使役する魔法。術者だけではなく、周囲のマナに干渉するために、自由度が高い上に、周囲への影響力が高い(範囲が広かったり、威力が高かったり)一方で、術者の力が高くないと発動さえ困難。


 適正に加え、それを導く環境も必要なこともあって、使い手は少ないが、伝説的な活躍をした使い手が多く、魔法の中でも別格扱いをされることが多い。


 最古の魔法の一つなので、この弱点を補うために、適正がある者のために、成功しやすい“名”である真名が伝わっていたりもするが、凡人にはどうしようもないレベルには変わりない。


 また、精霊の借りそめの肉体を作る材料が必要となるほか、才あるものでも長い詠唱を必要とするが、下位精霊であっても村単位を影響下に置くことは容易である。


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