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無面─ノーフェイセズ─  作者: 上野祐太
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Face3 形の無い首領

 結論から言おう。リニアモーターカーは止まった。だが、それは決して、あの単細胞の力で起こした奇跡じゃない。俺達の武器には電気を奪う力がある。これで人間の電気信号を奪い、相手を殺さず気絶させられる。その力がほんの少し応用されただけだ。電磁で動く車両から、電磁を奪い去った──それが、デュラハンから武器の説明を受けていた、俺の出した結論である。

「バカは死んでも治らない、と言うが…お前からは死ぬビジョンが思い浮かばないな」

〈そりゃどうも〉

 疲弊しきった声で単細胞は言った。多分、奴は皮肉として受け取ってはおるまい。それだけの救えないバカ、という意味だったんだがな。

 ともあれ、今回のミッションは終了した…ことにされているが、俺からすればこれからこそがミッションだ。何故、駅内にいたJACの隊員はあの単細胞と接触を図らなかった?更におかしいのは、奴はこの管制室にすらいなかったことだ。一体何を企んでいる?明日、署へ行ってみるか。


 真夜中、いつものように薬を飲む。これが無くては眠れんとは、我ながら脆弱な神経だ。そんなメンタルだからか、ついあの日を夢見てしまった。思わず飛び起きる。やめろ、つきまとうんじゃない。

 だが、逃げられないことはわかっている。俺が俺として生まれた以上、この苦しみは一生つきまとう。『助けて』か…嫌な響きだ。この言葉が俺に俺として生まれたことの運命を背負わせてくる。何であんなものに憧れてしまったんだ。今でも残滓を追いかけているのか?なれる訳もないのに。

 汗だくの身体を拭い、そして再び、ベッドに入る。天井を見上げて呟いた。

「俺は…俺でありたくない」


 翌朝。警察署のロビーでコーヒーを嗜みながら、紙の束を眺める。やはり俺の推察は正しかった。『議事堂に続き〇〇校を襲撃 次のターゲットは?』『正体不明のテロ組織 その目的とは』『仮面を被った卑劣な集団 被害者の叫びを聞け』最初に議事堂と学校を襲ったことで、リニアモーターカー暴走事故から意図的に目を逸らすよう仕向けている。あの暴走事故に何か秘密が?

 と、後ろから中年男性の声がした。

「おっす、天才君。今日も野次馬根性が冴えてんねぇ」

 この意味不明なジョークを言ったのは厚木剛(あつぎたけし)警部。テロ対策本部の部長でもある。有り体に言えば掛け持ちだ。それに見合う働きはしているから、当然と言えば当然だが。

「その呼び方、やめるよう言ったはずですが」

「そう言うなよ、三村湊人(みむらみなと)検事殿。この間の裁判もコールドゲームだったそうじゃないか。だが、どうして女の方もゲッソリしていたんだ?」

「それは俺への当て擦りですか?」

 厚木さんが言っているのは、外国人夫婦が銀行を襲撃したあの事件のことだろう。貧乏で明日の食事さえままならなかった、だから仕方なかったんだ、と言っていたな。が、俺からしてみれば詭弁もいいところだ。自分が苦しいからといって、他人の生活を脅かしていい訳がなかろう。だが何故か、判決後に睨まれた、その夫婦の娘の目が忘れられない。

 俺の判断は…客観的には正しいだろうが、世間はドラマを好む。だから俺のことはよほどの極悪人に見えただろうな。厚木さんはそれを皮肉っているのか?

「さあな。自分で考えることだ、天才君」

 俺がどんな反応をしても飄々とした態度を崩さない。変な人だ。俺の方が頭はいいはずなのに、この人といるといつも敗北感を覚えてしまう。不思議だ。しかし、毎日俺なんかに絡んで何が楽しいんだ?

 すると、厚木さんはいきなり鋭く豹変して言った。

「…毎度ながら言うが、そんなに人を(うたぐ)った考え方をするのはよした方がいい。楽しくないだろ?」

 疑った考え方をするな?そんなのはわかりきったことだ。だが、信ずるに値する人間がこの世のどこにいる?

「毎度ながら言いますが、これは気性なので変えようがありません。ユング的に言えば、集合的無意識なんですよ」

「そういう知識を上手く使えばモテもするだろうに…つくづく勿体無い男だよな、お前も」

 どうでもいい話に時間を取られている場合ではない。とにかく、ここへ来た理由を切り出さないと。

「──で、どうです?東京駅の方は。説教だけじゃあやっていられませんよ?」

「もちろんあるとも。ほれ」

 と言って厚木さんが俺の朝食の隣に置いたのは、数枚の写真と書類だった。

「JACの『形』ぐらいならこれでつかめるはずだ。しかしまぁ、遺族の方もご愁傷様だよな」

 俺の事務所にもそんな依頼が何件か届いている。しかし現実問題として、大きな壁が立ちふさがっている。それが、

「顔が見えないのでは、訴訟どころか逮捕も無理ですからね」

「なんせ裁く相手がわからんものなぁ。ネットもハッキングで使えんとなると、もうお手上げだ」

 厚木さんがため息をつく。珍しいこともあるものだ。JACは余程とらえどころの無い存在なんだな──少なくとも、デュラハン以外には。本当なら一人ずつ告発したい所だが、ネットワークを潰された現状で本人特定は至難の業。正式な組織構成すら見えていない中で、やれることではない。

「だが、頼まれたからにはパーフェクトゲームを届けてやりますよ。金も貰っていますし」

 俺は依頼人からの仕事はこなす主義だ。たとえ訴訟権を行使できない立場であろうと。失敗、ましてや妥協など、俺の辞書に載せる訳にはいかないんだ。

「そうしてくれ。俺にしたって、もう体育館拉致の時みたいなのはゴメンなんだ。胸糞悪くて仕方ない」

「スマホ爆破で家を焼かれた女子高生がパニック症状を起こした、とかいうあれですか?」

「そのあれだ。見ちゃいられなかった」

 精神が不安定な時期だから仕方ない、などと言うつもりはない。弱すぎる。少しはあのブルーフェイスの気骨を分けてやりたいものだ。

「家を焼かれた、か…」

 そういえば俺もスマートフォンを爆破されたな。幸い、近辺に池があったから投げて事を済ませられたが、まさか家を燃やされるとは。そこまでの威力は感じなかったはずだがな。

「それで?本当はこんなことしちゃいけないの、わかっているだろ?」

「さっさと見てくれってことでしょう?当然ですよ」

 催促されては考えも纏まらない。ならば、まずは当面の問題を踏破していこうか。現場に残った武器についての研究資料と写真。銃だな──体育館でも見たモデル。あの時は間一髪だった。しかし、妙なのは銃口から硝煙反応が出なかったことだ。これは一体?

「奴等は何をスロットに詰めたんです?」

「それから出たのはイオン反応。つまり、電気だ」

 電気?レールガンにしては銃身が短すぎる。それにスロットのこともある。武器の詳細が想像できない。

 次のページをめくる。スロットの形状、射撃シミュレーションの末に鑑識が導き出したのは、『電気を詰めた弾薬』であった。発射能率は悪く、弾丸の速度も遅い。まだ開発初期段階なのだ。これを完成させるには、あと十年はかかるだろうな。

「何の意味が…?」

 最後の一ページ。ヒントかと思いきや、製造工場が書かれているだけだった。『TB(テーブル)ラボ』?研究所か?聞いたことがないな。

「謎だらけですね。意味不明の兵器に、それを量産していたと思われる謎の研究所──ここが本拠地なんでしょうね。ですが、TBラボなんて研究所は文部科学省に登録されていない。つまり、そんな建物は本来存在しないはずなのに…」

 すると、厚木さんがとある番号を紙切れに書いて渡してきた。アルファベットも伴っている。囚人番号か?

「そんなに気になるなら、リニアの中にいたJAC隊員と面会すればいい。弁護人として立候補したら、なんとかなるだろう」

 それはありがたい。が、

「聴取は警察の仕事じゃないんですか?重要参考人なんでしょう?」

「まぁそうなんだが、警察相手では口を割らんからな。仕方ないさ」

 つまり俺は雇われスパイか。とんでもないことを考える人だな。民間人を自分の捜査のダシに使うか?普段の厚木さんからは考えられないな。

 ともかく、これはラッキーだ。上手くいけば核心まで一気に駒を進められる。チャンスは逃さず、つかんでいこう。


 面会には厚木さんも立ち会った。最初は俺一人で行く予定だったが、さすがに署長がそれを許すはずもなく、結局テロ対策本部長を側に置くことになったのだ。

「単刀直入に聞こう。ボスは誰だ?」

 奴にしたって馬鹿ではない。弁護するつもりなどないのはわかりきっているだろう。なら、さっさと話す方がやりやすい。

「言ったとして、お前はどうする?裁くのか?」

 JACの隊員は仮面を付けたまま一笑して、

「無理だね。我々には崇高な意志がある。自由を求める意志が。悪逆国家の犬では到底──」

 アクリル板越しに、厚木さんが詰め寄った。

「貴様ら犯罪者はそうやっていつも自己正当化に走る!秩序も守れない屑が自由だと?笑わせるな!人に認められる努力もしないで、テロなんかに走る貴様らが崇高であるものか!」

 物凄い剣幕。アクリル板が震えていた。JAC隊員も思わず仰け反っていた。

「言え!ボスは誰だ!」

 気圧され、JAC隊員は弱々しく答えた。だがそれは、あまりにも奇怪な答えだった。いるはずのない首領。いてはならない教主。その名は──

「万丈…恵美」

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