Face16 迷いは無い
『洋介』ってぇと…死んだはずの知事の親友じゃねぇか。何でデュラハンとその人が同じ顔してんだよ。偶然にしちゃあ出来過ぎだろ。
「…詳しく聞かせてくれるかな。この男性について、もっと知りたい。いや、知らなくてはならない気がする…」
知事の表情は今まで見た中で一番険しかった。そりゃそうだ。死んだはずの親友の生き写しがいて、それが自分のボディガードと浅くねぇ関係にある。ピリピリするのが当然だ。とは言っても…オレも奴についてあんまり知らねぇんだよな。それをバカ正直に言うのも何だか気が引けるしよぉ…どうすっかなぁ…
「本当に、ちょっとしたことでいいんだ。ちょっとでもデュラハンという人のことを知りたい」
「そうは言っても…わかんないんすよ、ホントに」
「わからない?チームなのに?」
そう聞かれると、自分達のおかしさに改めて気づかされる。普通チームってのは互いのことをよく知ってないとダメなモンだ。あいつはのっけからそれを否定しやがった。誰にも正体を明かすな、たとえ味方同士であっても──まぁ、今破っちまってんだけどよ。
「でも、チームということは作戦行動で会話ぐらいしているはず。喋り方はどうだった?」
「そんなに変な喋り方してたんすか?」
「そういう訳じゃないけど、今の話を聞く限り、君がデュラハンのことを知れるのは喋り方ぐらいなんだろうなと思っただけさ」
喋り方か。そういや、
「やたら細かいこと言ってましたね。何m地点であれしろ、これしろって。数字もピッタリ合わせてくるんすよ。まるでコンピューターにでもなったみてぇな喋り方──」
「『コンピューター』…って、まさか…!」
知事は目を見開いた。何か心当たりがあんのか?
「どうしたんすか?」
「いや、何でも」
知事は明らかに取り乱してた。今更そりゃねぇよ。オレばっか話して自分だけ隠し事はズリィんじゃねぇの?だからオレは睨んで言った。
「オレだってここまでぶっちゃけたんだ、お互い秘密は抜きにしましょうや」
「…そうだね。すまない」
うなだれて呟く。そこまで申し訳なさそうにされると、それはそれで何かワリィことしたみたいでやりづれぇなぁ。
とまぁ、取り乱してたのはどうやらオレの方だったらしくて、知事はすぐ本題に入った。
「洋介には、パートナーがいたんだ。将来を誓い合っていた、大切な人が。多分、君も知っている。有名人だからね」
そうは言っても候補が多すぎる。日本人が皆知ってるような有名人っつったら天皇か?それとも大物芸能人?動画配信者かもしれねぇ。
「誰なんです?」
「この国をこんな風に変えてしまった人、と言ったら…わかるかな?」
「まさか…!」
「そう。『万丈恵美』だ」
頭のてっぺんに雷が落ちたみてぇな衝撃が走った。オレ達が追いかけてる敵の大将が、知事の親友のパートナーだって?なんてこった。もし運命ってヤツがホントにあるんなら、こんなに残酷なことってねぇぞ。今度はオレが目を見開いた。
「彼女のことも知っているのか?」
オレは頷く。
「JACのボスっすよ。隊員の一人から聞いたって」
知事が唸る。そのまま黙りこくって何も言わねぇ。よっぽど…堪えたんだろうな。
「知事…」
「…彼女は誰よりも、洋介のことを愛していた。それは洋介から聞いた話だけでも十分に伝わるほどだ。僕自身、彼の葬式でそれを思い知った。彼女、その時言ったんだ。『できるなら、洋介を生き返らせたい』ってね」
その時のことをじっくり思い返すみてぇに、目を閉じて続ける。
「悲しさから来る言葉だと思っていた。でも、それは彼女のラボに立ち寄った時に『違う』とわかった。彼女は…アンドロイドを製作していたんだ。そいつは機械剥き出しの身体だったけど、彼女から『洋介』と呼ばれていた」
想像してみる。もし、それが自分の名前で呼ばれてたとしたら。ゾワゾワと胸の中が掻き立てられる。それは…果たして『オレ』なのか?『オレ』じゃないとは言いきれない。だってよ、名前も顔も一緒なんだぜ?そこまで一緒なら、本物と違わねぇんじゃねぇのか?
「イ、イカれてる…」
声にもならねぇ声で、心の奥底から這い出たみてぇな言葉を発した。胃がムカムカしてくる。話題を変えようと切り出す。
「だったら、どうして奴はデュラハンなんて名前になったんでしょうね?」
言ってから思い出す。知事はさっきまで『デュラハン』って名前にすらピンと来なかった。そいつが『デュラハン』になった経緯を知ってる訳ねぇじゃんかよ。質問をミスった後悔に頭を痛めてると、知事は言った。
「…わからない。けど、形象学的に──洋介の得意分野で言えば、首無しの怪物は『自己の喪失』を意味するはず。『顔』はアイデンティティーそのものだから」
「だとしたら…とんだ皮肉っすね」
人の顔をしてながら、脱殻扱いされるんだ。どんな気分かって?きっと最悪だろうよ。
「デュラハンが万丈さんの造ったロボットだとして、そうなると君達は…」
知事が言葉に詰まる。──あっ、ホントだ。そういうことになるよな…全身の毛という毛がよだつ。つまり、オレ達がしてたことは…
「『マッチポンプさせられてた』ってことっすね…」
そう。万丈恵美が作った『JAC』と、万丈恵美のロボット・デュラハンが作った『ノーフェイセズ』の戦い。それはあいつらが仕組んだ『盤上遊戯』でしかなかった。キザ緑──三村湊人の大切な人も、ハイユンも、その必死な気持ちは全部あいつらのゲームシステムの一つでしかなかった。そして、オレ達が信じてきたことも…人を守る戦いをしてたってことも…『全部がウソっぱちだった』。
「…我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」
「どうしたんです?急に」
「思い出したんだよ。万丈さんが言っていたことを」
知事が息を呑む。どんだけやべぇことなのか、もう想像もつかねぇ。日本を巻き込んだ『ウソ』をやってのけた奴のことだ、何を言われたって驚かねぇぞ。
「洋介が死んだ時、こうも言っていたんだ。『あの人の夢を受け継ぐ』僕はそれを『人一人が貴ばれる、平和な世界の実現』だと思っていた。でも、それが彼の口癖の方だとしたら…『人の根源を知りたい』のだとしたら…」
「『人の根源』…」
オレはしばらく考え込んで、言葉を選んで、やっとの思いで言った。
「洋介さんはどう言ってました?」
「彼は…人とは『天国』へ至る存在だと言っていた」
『天国』だと?そんなものがあるって、本気で思ってやがんのか?
「それが──『天国』が何を意味するかはわからない。けどもし、万丈さんがこれを実現しようと──つまり、『天国』へ至ろうとしてこんなことをしているのだとしたら…」
膝に置いてた拳を固めて、知事はハッキリと言った。
「僕達は、大きな決断を下さなくてはならないのかもしれない」
すると突然、テレビが点いた。衛星チャンネルも全滅で、誰もテレビなんて観ることができねぇってのに。でも、オレ達にはもうわかってた。これはJACの仕業だ。あいつらのゲームの一つなんだ。
画面に女が映る。あれが万丈恵美──見た目は高校生っぽい辺り、身体は違うんだろうな。そしてあいつは大袈裟に手を前に突き出して、声を張り上げた。
〈私は能海雲雀。世界よ──〉
偽名まで使いやがって。徹底して『テメー自身』は盤上に立たねぇ気でいやがんな。腐ってやがるぜ、ったく。そんな奴が決まってやるのは演説。表向きは世界中に『自分は味方だ』って媚を売ってるけど、実際は自分のゲームに参加させてるだけなんだよな。案の定、あいつはそれをやりやがった。オレにはそういう臭いがプンプン感じ取れた。それは知事も同じみてぇだ。
「悪魔の常套手段だね。親しみやすさを演出して、知らない内に相手を傀儡へ変身させる」
そう呟く知事の目はすげぇ悲しそうで、でもぜってぇに目の前の出来事から逃げようとしてなくて。強ぇなって、自然と思ってた。
すると、いきなり知事はこっちを向いた。
「さっきの言葉、訂正するよ。JACを──彼女を倒すことは、洋介の夢を潰すことだと、心のどこかで思っていた。親友の夢を潰すという、大きな決断を下さなくてはならないと思っていた。けど違う。彼女は洋介を汚した。洋介の魂を愚弄した。だから、絶対に食い止めなくてはならない…!」
怒り。さっきの悲しさはそういうことか。自分のダチをバカにされた、それもダチのカミさんがバカにしやがった。それがどうしようもなく悲しくて、腹が立ったんだな。
「警察だけでなく、自衛隊にも呼び掛ける。全力を尽くして立ち向かう。でも…」
言葉を切って、知事は手を差し伸べた。
「切り札は君達だ。頼めるかな?」
迷いなんてなかった。
「当たり前っすよ。終わらせましょうや、この悪夢を!」
オレは知事の手をぜってぇ離さねぇように、しっかりと掴んだ。
ハイユンの寝てる前で、オレは呟く。
「行ってくる。オレ達の『居場所』を取り戻すために」
無反応。起きねぇのはわかってても、やっぱちょっと心にくるな。そのまま振り向いて部屋を出ようとした。すると、手に小さな温もりを感じた。視線を寄せると、ハイユンがオレの手を握ってた。完全に起きた訳じゃねぇんだろうけど、オレは嬉しくなった。ハイユンが生きようとしてくれてることに。だからオレはそっと握り返し、また歩きだした。デュラハンの所へ。




