3-014 VS玄武③ 微かな希望
「まだまだ暴れたりませんねぇ……ここからが本番なのにもう疲れているのですか?」
7つの投薬をした玄武はもはや人間の出せる技を超えていた。
触手のように動く大きな手が、何本も生えてくるのだ。それが人間の最大限出せる速さの3倍ほどで襲ってくる。
その上大きな手につかまれると、草津と同じように速攻で握り潰されてしまうため逃げることで精一杯である。
「どうでしょうか? 逃げるので精一杯になっていることでしょう。それもそのはず所詮、ただの人間なんです。圧倒的脅威には勝てるはずもありませんから逃げるのは賢明な判断ですよ……ただ、いつまで持つでしょうかね、その体力は! さらに薬を投薬しますよ、先ほど使用した俊敏強化を投薬ぅ! あぁ……最高に良い気分だぜぇぇ! もっとこいつらに恐怖をぉぉ、恐怖をぉぉぉ!!」
触手ような手は更に速さが増す。現在、玄武の手は常人の5倍の速さで、逆賊討伐軍を追い詰めている。
動ける6人は手を切断するだけで精一杯の状況だ。
「う〜ん。この苦しむ姿がたまらない。さてそろそろ義足の彼は限界でしょうね……」
玄武によって足を切断された西坂はかなりの限界に達していた。
(そろそろ……足が限界だ……義足を作っただけで止血はされていないことが仇になったか……そこから血が溢れ出すから頭が回ってこない……)
「さて、2人目の脱落者となりなさい!」
他のものの攻撃を一旦中止し西坂に目掛けて、大量の手が襲いかかる。
「万事休すか……」
西坂が逃げるのを諦めた時、とある言葉が玉座に響き渡る。
「回復の歯車・完全治癒!」
西坂の止まらない血は止血され、それどころか今までの疲れを完全癒したのだ。
「次から次へと邪魔が入る……一体誰だ!」
「皆さん、遅れてごめんなさい……私が来たので回復のことは任せてください〜」
そこにいたのは、玄武のリストには死亡と書かれていた朝霧であった。
「朝霧……お前は死んだのではなかったのか?」
「あの女性は、ダイヤが始末したと言っていた女ではありませんか……何故生きているんですか?」
「そりゃあ、これを使用している人にしか知ることがないことですから……回復の歯車・最終奥義……復活。これは、人生において一度だけ許された技。これを使用して死んだ場合、1時間後に元の体が復活する訳。けどもう使えないけどね」
「ダイヤめ……最後の最後まで私に迷惑をかけて……切断接合も彼女に全て渡してしまったため、私は使えない……」
朝霧の登場により玄武は少し動揺していた。その一瞬の動揺を榊葉は見逃さなかった。
「光の歯車・壱式……光鳴斬」
(しまった……あの女性に気を取られすぎて……)
榊葉が放った光鳴斬はあと僅かなところで玄武に回避されたが玄武が着ていた白衣が破れた。
「危ない危ない……俊敏強化の薬を1つでも損ねていたら間違いなく致命傷でした……さすがは第4傑……」
(あと少し、私が早く玄武の元へと辿り着けていたら)
敗れた白衣は、仙木のところまで飛ばされていた。
その様子を見て、拓也は仙木のところまで向かう。
(あるはずだ……間違いなくアレがあるはずだ……)
仙木が敗れた白衣を取ると同時に拓也は仙木のところへと到着し、白衣を漁る。
「どうした、黄桜拓也。そんなにも慌てて、何かあるのか……?」
「おかしいと思いませんか……? 椎名はここまで追い詰められたのは久しぶりと言っていたんです……椎名自身も薬の過剰投薬は絶対に身体的負荷が来るはずです。きっと戦いが終わったらすぐにでも効果をなくしたいはずです。だから……あった!!」
「なるほど……でかしたぞ黄桜拓也」
拓也が白衣からあさって手に入れたもの、それは5本の解毒剤であった。
「1本につき1つの効果を減らせる感じだろうな……よし……ここは任せろ。俺が行こう、これを使ってな」
玄武が手にしていた物、それは玄武が使っていた薬の俊敏強化2本と硬質強度であった。
「でも仙木さん。それを使うとあなたの命が持つ可能性は……」
「いや、良いんだ……多くの命を守るためなら自分は犠牲になっても構わない……任せろ! 俺が必ず奴を弱体化させてやる!」
そう言うと仙木は3本の注射を首元に刺した。
「行くぞ……!!」
仙木は玄武の手と変わらぬ速さで走り始める。
「やれやれ、とんだアクシデントでした。まさか、一般人に傷を負わされることになりそうだとは……」
「いや……もっと傷は必ずつくぜ……!」
「今度は誰だ……!」
玄武の大量の手が仙木へ襲いかかる。手が仙木の体を捉え握りつぶそうとする。
「これで終わりですねぇぇ!!」
だが硬質強度の薬を投与した仙北の体はなかなかに潰れなかった。
「なぜだ……なぜ潰れない! あ!!」
玄武は今初めて、白衣の一部が破れていることに気付いた。
(あの時に敗れた白衣に私の薬の一部が……きっと硬質強度と俊敏強化を使ったんだな……)
「これで終わりだ……玄武!!」
仙木は5本の注射器を玄武の首筋へと刺し、薬を投薬した。
「どうだ……薬の効果が切れる気持ちは……」
「フフフフフ、あまいです……あまいですよ仙木尋和さん。その薬にはひとつだけ弱点があるんですよ」
「な……なんだと……」
「それはですね……私自身で消せる薬を選べるんですよ! 私が選ぶ失う効果の5つは、俊敏強化2つと増殖手腕、それに握力倍加、最後に跳躍上昇。つまりまだ腕触手化と筋力増強は残っているんですよ! それともうひとつ……私も万が一のために予備の解毒剤は持っているんですよ……だからあなたにも投与してあげます……」
仙木の投与と同時に玄武も仙木に投与をしていた。
「さてこれでお分かりでしょうか、あなたに能力はなくなりました。硬質強度がなくなったので……お分かりですね。あなたは丸腰の獲物ということですよ!」
「な……なんだと!」
逃げようとするも当然遅かったため、仙木の胴体には玄武により大きな穴が開けられたのであった。




