4-010 栞と棗
玄武がダイヤにとあるものを渡していた。
「ダイヤ、もし仮に君が負けそうになった時はこの薬を刺すんだ……良いね?」
「ありがとうございます。けれども、私は負けませんよ?」
「そうと信じているよ」
ダイヤはもらった薬をポケットに入れ、7人がいるところへと襲いかかってきた。
その7人の軍団から1人が飛び出てダイヤの方へと走っていった。榊葉である。
ダイヤはとても満足そうな顔をして、榊葉と勝負を始める。
「栞……あなたと戦うのは久しぶりね! 姉妹として決着をつけようじゃない! 元第2傑の私と現第4傑の栞……どっちが強いかここで決めましょう!」
「第1傑の箕雪さんに勝てなかっただけで総帥直属軍をやめるお姉ちゃん……私の人生で1番の汚点だわ」
「生意気な妹ね……最後の言葉はそれで良いかしら?」
榊葉がダイヤを引き付けているうちに、仙木が指揮を取る。
「みんな、今のうちに玄武のところへと向かうぞ」
ダイヤが榊葉に気を取られている間に後ろにいる玄武のところへと向かう6人。
ダイヤが阻止しようと6人の方へ向かおうとする。
「あなたたちがそう簡単に玄武様のところへ行けると思ったら大間違いですよ? 光の歯車・光速移動」
すると榊葉もダイヤに対抗する。
「仙木さん、玄武の方は任せましたよ! 光の歯車・反射壁」
ダイヤと仙木たちの間に光の境界線ができたため、ダイヤは反射壁に跳ね返され、反射壁の中には2人きりとなった。
「お姉ちゃん……言ったよね? 姉妹で決着をつけるって。なんで人を増やそうとしているのかしら?」
「あなたにハンデをあげるためよ? 姉としてやはり可愛い妹には優しくしてあげたいのよ」
「余計なお世話だわ。それにハンデなんて言える立場なのかしら? 子供の時からずっと戦ってき……」
「うるさい!」
ダイヤはいきなり榊葉の方へと向かい、攻撃を始めた。
ダイヤの攻撃を難なく躱す榊葉。
「お姉ちゃん、怒っている時は攻撃が単純だからわかりやすいね」
「栞、あなたは思ったことを正直に言い過ぎなのよっ! 少しは考えて発言ができないのかしら?」
「お姉ちゃんにしかこういうこと言わないから。そろそろお互い全力で戦わない?」
「……それもそうね。敵同士になった以上、もう遠慮なんていらないわ。どちらかが死ぬまで戦おうじゃない!」
「「光の歯車・憑依!」」
2人の剣は一切に光始める。
「光の歯車・反射壁」
ダイヤは四方八方に壁を生成し、2人の逃げ場をなくす。その状況にも関わらずなぜか栞は喜んでいた。
「久しぶりに本気で戦える!! さっきのハートとか言う女は戦って楽しくなかったわ……お姉ちゃんは楽しませてくれますよね?」
「もちろんだ……よっ!!」
言葉を発するのを終えたと同時に2人の戦いは幕を開ける。
「光の歯車・壱式……光舞」
「光の歯車・壱式……光鳴斬」
ダイヤは光の速さで舞いながら攻撃を仕掛け、対する榊葉は鳴り響く光と共に攻撃をする。
どちらの攻撃も互いの頬をかすめる程であった。一度距離を取る2人。
榊葉はかすめたところの出血を手で拭い取り、再び集中し始めた。
ダイヤは出血したところをそのまま放置し、榊葉の次の攻撃の様子を窺う。
「光の歯車・弐式……光鳴居合」
榊葉はまぶたを閉じ、居合をするタイミングを待っている。
(行ったら確実に栞の手のひらで踊らされることになる。ここはあえて何もしない! こちらに来るのを待つのみ……)
2人はお互いに何もしなかった。ただ時間だけが過ぎ去るこの状況。先に動いたのはダイヤであった。
「光の歯車・光速移動」
瞬時に構えている榊葉のところへと向かい、首を斬ろうとする。
すると榊葉の剣が光の速さでダイヤの心臓目掛けて飛んできたのであった。
(……まずいっ!)
慌てて首を斬ることをやめ榊葉の剣から身を守る。
「当たれば勝てたのに……」
残念がる榊葉。するとダイヤの顔色が突如、変わり始めたのであった。
(今の発言……行為……アイツそのもの!! 妹とはいえアイツに似ていると憎い……!)
「栞ぃ! あなただけは絶対に殺してやる! アイツと似ているやつなんてみんな消えてしまえばいい!」
「そんなにも私が箕雪さんに似ていた?」
「ええい、黙れ! この玄武様からもらった薬で骨の髄まで煮えたぎってやるわ!」
(もうここまで来ると、私が知っているお姉ちゃんじゃない……人の皮を被った悪魔だわ……)
勢い良く首筋にポケットに入っていた薬を刺す。
ダイヤの目がどんどん充血していき、皮膚の色も少しずつ黒く変わっていった。
「ザぁ、ハじめルゾ!!」
先程までのダイヤとは大きく異なり、きちんと喋ることでさえ困難になっていた。
「お姉ちゃん、この勝負は私の勝ちよ……」
「ヴるさイ!! だマれ!!」
「薬に手を染めたら、二度と戻れなくなるよ……」
ダイヤのスピードは最初よりも大きく上回り、榊葉の攻撃を全て難なく避けている。パワーも下手すれば反射壁を壊せる程であった。
だが、ひとつだけ大きく異なる部分があった。それは明らかに体が少しずつ小さくなっていることであった。
(これは一体……まさか!)
榊葉の予感は的中していた。榊葉の攻撃を避けたり自身が攻撃するたびに黒く染まった皮膚はどんどん削られていたのだ。
もちろんそのことにダイヤ自身は気づいていない。
(どうしよう……私の唯一の肉親だから正直、殺したくはない……けど……もうお姉ちゃんは完全に悪魔になっていて、時期に消滅してしまう……この時……この時、箕雪さんならどう行動するだろう)
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「栞、例え相手が戦友であろうとも肉親であろうとも逆賊になった以上、縁を切って成敗しなさい」
榊葉にアドバイスしているのは現第1傑の北倉箕雪であった。
「ですが人を殺すことは、どうしても躊躇してしまいます」
すると北倉の目はとても冷たかったわ。
「じゃあ貴方は母親が逆賊で襲いかかって来ても、大人しく殺されて良いのね? 誰だって殺しはしたくないわよ……私だって、逆賊になった家族なんて殺したくはなかった。けど、殺さないと私が殺されていた。良い? 命より大事なものはないわ」
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(そうだ……このままだと殺されてしまう。ごめんね、お姉ちゃん……)
榊葉は再び刀を握り、狙いをダイヤへと定めた。




