4-009 僕だけが動く世界
(なんなんだこの世界は……)
拓也が見ていた世界。それは自分だけが動くことができ、他のみんなは一切動いていない世界であった。
(何が起こっているんだ……僕は間違いなくスペードという男に突撃して銃で撃たれて死ぬ瞬間であった。とりあえず、この剣の当たらない場所に……)
拓也が三歩程進んですぐ、突如拓也以外の全員が動き始めた。
「バーン!!」
突如、銃声が辺り一面に鳴り響くが、銃弾が当たったのは本来の目的の拓也ではなく、一定間隔で作られた扉のドアノブであった。
「ハッハッハ! 無様な黄桜拓也よ。……ってなぜだ? 一瞬でやつが消えやがった」
スペードは斬った感触がなかったため、拓也を殺していないことにすぐに気づいた。
だが遥と夏目は拓也の想像以上の反応であった。
「……黄桜くん、すまない! 君の仇は必ず取る!」
「よくも黄桜くんを……スペード、絶対にあなたを許さない!」
(……どうしよう、出ようにも出ることができない雰囲気だ。気づかれるまでちょっと端っこの方へと逃げようかな)
拓也はバレぬまま端っこの方へとこっそり移動し、状況を伺った。
(なんか、僕がいなくなった途端に遥と夏目さんの雰囲気が変わったのは気のせいだろうか?)
「まぁ、いなくなったならそれで良い……次はどちらを狙おうかなぁ!!」
と言いつつスペードは武器を所持していない夏目を次の標的とする。だが今度は遥が邪魔をする。
「させないよっ! 氷の歯車・氷柱槍」
氷柱の形をした槍が遥の周りに作られる。そして、フィンガースナップを鳴らすと同時にスペードの方へと発射されていった。
「ふっ、だから氷の攻撃など効かないと言っているだろう!」
スペードは遥の氷柱槍を破壊しようと瞬時に遥の方へと視界を向ける。
「水城さん……ありがとう!」
「んぬっ!?」
スペードが遥の氷柱槍に集中していた時、夏目がこっそりとスペードの懐から拓也を狙った銃を盗み取る。
即座に奪い返そうと必死に手を伸ばそうとするも、夏目の行動の方が早かったため、銃を盗み取られてしまった。
「挟み撃ちだっ! 形勢逆転。さらばだスペード」
そう言うと、夏目が引き金を押し銃弾が放たれた。
「貴様ら、玄武様の幹部を舐めるんじゃねぇ!! 炎の歯車・憑依!」
(こいつ、まだ抵抗する気なのか? と言うよりも何となくまずい予感がする……僕も姿を現して加勢するべきかな……)
「炎の歯車・壱式……大回転火炎斬りぃ!」
即興でその場で体を回し、剣を振り回すスペード。遥の氷柱槍と夏目が放った銃弾を見事に斬ったのだ。
「まさかだとは思うがこの俺に勝てると思ったのか、残念だったなぁ! これでどっちが勝つかはわからなくなったぞ……さぁ、ここからだ!」
「光の歯車・光速移動」
スペードの目の前にいたのは拓也であった。あまりに一瞬の出来事であったため、味方の夏目や遥でさえも目の前の出来事を疑った。
「人っていう生き物は……油断した瞬間が命取りなんだぜ。今、2人の攻撃を凌いで勝てると思い込んだだろ? さすがは椎名の幹部だわ……じゃあお別れだ」
拓也は剣を振りかざし、スペードに致命傷を負わせる。スペードは最後に傷を負わせようと抵抗するも、血を流し過ぎたため頭が回らず動くことができなかった。
(クソッッ……こんなところで終わるわけには行かないのだ……玄武様のためにも……ち……チクショョ)
「黄桜くん、生きていて本当に良かった!」
「本当にそうだよっ、全く姿がいなくなったから死んだかと思っちゃったじゃない!」
「いや……あれは本当に僕も死んだと思ったよ。まさかあんなことが起きるとは思ってなかったからね」
(黄桜拓也はどうやら……俺がまだ生きていることに……気づいていないようだ……)
ゆっくりと地を這って匍匐前進をするスペード。徐々に拓也へと近づいていく。
「動いていることに気付いてないとでも思った?」
そう言ったのは遥であった。遥の言葉によりびくとも動かなくなったスペード。
(耐えろ……耐えるんだ、新田耕士。おそらく今動かなければ……無視するはずだ)
だが、スペードの思惑は大きく外れた。
「動かないなんて……格好の的じゃない。あなたの炎の歯車にはかなり手こずったけれども、瀕死の状態なら使えないよね……」
(ま……まずい……動いていなかったことが裏目に出てしま……っ)
「氷の歯車・凝固」
遥の凝固によって、スペードは固まってしまった。
そして夏目たちは再び拓也に何が起こったのかを聞き始める。
「君はあの時、間違いなく死ぬ瞬間であった……教えてくれ、何があったんだ?」
夏目の質問に素直に拓也は答えた。
「あの……殺されたと思った瞬間に目を瞑ったんです。そして目を開けると数秒間の間だけですが、自分だけが動けるようになっていました……」
「なるほどな……そいつはなぁ……」
と夏目が説明しようとした時であった。近くのひとつの扉が光り始めたのであった。
「とりあえず、話は後だ。あの光っている扉へと向かうぞ」
3人はすぐさま向かい始めた。光る扉をゆっくりと開けると、そこは何も飾りがない大きな部屋であった。
「夏目たちもここへと集められたのだな……」
「仙木……生きていたんだな!」
夏目よりも先に仙木、西坂、榊葉の3人はこの場所へと着いていたのであった。
そして夏目たちよりも遅れて、草津が入ってきた。
「もしかして……これで全員ですか?」
「現状見る限り、そうとしか言えない……」
「となると、朝霧ちゃんと閑田くんのところが全滅と言うことになるな……」
と逆賊討伐軍の精鋭が状況を整理していた時である。自分たちが入ってきた扉と反対側の扉から玄武とダイヤが入ってきた。
「みなさま、生き残りサバイバルクリアでございます。おめでとうございます! ですがここからが本番。幹部を倒したのですからそれなりの実力があると思います……なので、私とダイヤ対残りの7名で勝負致します! もちろん、逃げるなんて選択肢はありませんからね……」
「相変わらず、自己中心でこっちの話を聞かないな……椎名琉命!!」
「これは昔からなので……黄桜王子。一時期、忠誠を誓っていましたが今はあなたの敵です。私は容赦しませんよ?」
「臨むところだ!」
そして戦いの火種は幕を開けた。
逆賊討伐軍 残り7名
・仙木 尋和
・夏目 宏明
・榊葉 栞
・西坂 幸太郎
・草津 藍
・黄桜 拓也
・水城 遥
天之四霊・玄武軍 残り2名
・玄武 椎名 琉命
・ダイヤ 榊葉 棗




