3-018 そして終わりを告げる
片咲が錬成した魔法陣から現れたのは8匹の雷の龍。そして、魔法陣の中心にある槍を地面から抜く。
槍はこの世のものとは思えない輝きを魔法陣の影響で手に入れていた。
「八岐大蛇よ……私達の敵であるあの男を噛みちぎれ!!」
その言葉に思わず反応してしまう傍観者の3人。
(((八岐大蛇って……蛇だよな……?)))
8匹の龍は地を這い、毘沙門天に方へと向かっていった。
「このぐらい簡単に避けて見せるわ!」
地を這う八岐大蛇に対して毘沙門天は高く飛んだ。だがしかし、八岐大蛇はそれぞれ1匹の龍に独立し、空中に逃げた毘沙門天を襲いにかかる。
「このような具現化した龍など、俺の三叉戟で跡形もなく消してやる!!」
三叉戟を振り回し、迫ってくる龍を1匹1匹倒していく毘沙門天。だが迫ってくる速さは桁違いのものである2匹倒したところで残りの6匹が同時に毘沙門天の四肢を噛み始めた。
「大型逆賊"七福神"……これで終わりだ!!」
光の槍を空中で捉えられている毘沙門天の方へと投げる。
当然、身動きができない毘沙門天は抵抗虚しく槍が腹を貫通した。空中で飛び散る鮮血。とても生々しいものであった。
毘沙門天の腹を貫通させた槍は先端を真っ赤に染め上げてその後、素直に片咲の手に戻ってきた。
八岐大蛇は槍を腹に貫通させた直後に、光の粒子となって空へと消えていった。
毘沙門天は腹に大きな穴ができ、そのまま地上へと落下した。
(真子……見ていますか? あなたとの最後の約束はきちんと果たしましたよ……)
全てを使い果たした片咲は、その場に倒れた。そこへ駆け寄る赤星と高緑。
「大丈夫ですか、片咲大将! 後少しの辛抱です、頑張ってください!」
2人の声に反応ができないほど弱っている片咲。それもそのはず、三叉戟で突かれた腹の傷が癒えぬまま強力な技を出したため、そこへの負荷がとてもすごかったのだ。
「まだ……終わってないぞ……七福神の任務は終わっていない……」
赤星と高緑が振り向くと、ボロボロの状態の中三叉戟を杖代わりとして、立ち上がる毘沙門天の姿があった。
2人ともすぐに戦闘体勢へと入る。ただ、毘沙門天は立ったまま動くことはなかった。
(ま……まさかだが、こいつ……)
「立ったまま、死んだのか……?」
毘沙門天は直立の状態から動くことはなかった。
七福神のリーダーである毘沙門天が死んだことにより、七福神による本部襲撃は幕を閉じたのである。
多くの犠牲者が出たものの、何とか第3支部は崩壊までは行くことはなかった。
赤星と高緑はあたりを見渡す。拓也の姿がどこにもなかったのだ。
「「あいつ、どこ行った」」
拓也はとある場所へと向かっていた。それは救護室。それには二つの理由があった。
まずは一つめ。片咲大将の手当てをするための用具を取りに行くためである。
もう一つは、元部下である雅の容態の確認のためだ。
(片咲大将……雅さん……両方生きていてください!)
救護室の扉を開けると、先程雅のことを助けてくれた2人がいた。
すると朝霧の方が拓也の方へと近づいてくる。
「とうしたのぉ〜黄桜君?」
(なんで俺の名前を知っているんだ……?)
「黄桜くん今、どうしてあなたの名前を知っているかを気になったでしょぉ〜? 安心して、よく雅が話に出すからだから疑わないでねぇ〜」
「はぁ……」
「それで、なんの用事かなぁ?」
「あ……あのぉ、片咲大将がとても重症で、緊急手当てをするために物資を取りに来ました!」
「あ〜、真帆が重症? 任せて、私が手当てに向かうから、物資はいらないわ」
そう言うと朝霧は、救護室から急いで向かって行った。
「心配しないで良いよ、黄桜くん。澪は第2の歯車である回復の歯車を使うから手当てなどは彼女1人で十分だよ。それに澪と片咲大将は同期だからねぇ〜、気持ちが先走っちゃったのかな?」
(片咲大将と凜音……それに曉月さんに大和さん、更に澪さんまでって……凜音の時の同期多いなぁ……)
「後、雅さんも大丈夫ですよ。澪がさっき治療をきちんと行ったからね。安静にしてればすぐに意識は戻るからね」
すると救護室の扉が再び開いた。ネージュ山から下山してきた、藤城と草津であった。
「そのようすをみると、七福神の野望を阻止できることはできたみたいだな」
「はい!」
「とりあえずみんな生きてて良かったぜ!!」
「あらあらぁ〜、皆さん戻ってきたのですね〜?」
3人で話していると雅が意識を取り戻したようだ。あまりの嬉しさに雅に抱きつく拓也。
「良かった……雅さん……」
「今回ばかりは本当に死ぬと思いましたね〜、まぁ生きててよかったです〜」
5人がいる救護室はどこか暖かく感じた。一方、大将室の方に着いた朝霧。
「まぁぁぁぁぁぁぁほぉぉぉぉぉ!」
「その声は……澪ね……」
「これ以上、同期には死んで欲しくないぞ私は! とりあえず、回復の歯車・癒しの空間」
大将室が癒される空間と変わり、それによって片咲だけではなく、赤星と高緑の傷も癒えていったのだ。
「サービス精神とか言うやつですか? 何にせよ俺たちまでありがとうございますっ!」
「別にあなたたちのためにしたわけではないわ……ただ真帆の傷が癒えてくれれば良いだけ……君たちはついでにしたまでだから」
「なんですかぁぁぁ、気持ち悪いツンデレですねぇ」
高緑が嫌味っぽく言うと、朝霧は持っていた剣を高緑の喉仏の手前まで突き出した。
「それ以上言ったら、刺すよ?」
(ひぇぇぇぇ!!)
「お前は黙っておくべきだ、高緑。いつか死ぬぞ」
(ここは赤星の言う通りだな……とりあえず謝っておこう)
「ドウモ、スイマセンデシター」
誰が見ても分かる棒読みの謝りであったが、朝霧は剣を鞘にしまった。
「次もう一度やったら、命の保証ないからね……?」
高緑のせいで片咲の傷が会えるまでの間、大将室は殺伐とした空気となったのであった。
この七福神の第3支部襲撃は世界中に瞬く間に広がっていった。
毘沙門天を筆頭にしていた大型逆賊である七福神の崩壊はある意味、世界中を大きく動かしたのである。
---この世界のどこか---
ここはどこかは一部の人間のみしか知らない。真っ白な空間に置かれているのは4つの椅子と大きな丸テーブルのみ。
ローブを被った4人が一斉に姿を現し、椅子へと座った。
「さて……私が任務を依頼した七福神は無能のまま終わってしまったようだな……」
「そもそも、なぜあのような雑魚どもに任務を任せたのだ? 白虎」




