3-016 名前のない殺し屋
新年明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします( ̄∀ ̄)
「回復の歯車・自動治癒」
朝霧の歯車によって雅は徐々に傷が癒えていった。だが、雅の意識がまともではなかった。
(あぁ……凜音隊長……雅枸元隊長……私もそちらに行きそうです……)
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私には姓はあったが名はなかった。7歳までに暗殺の基礎を父に教えられ、10歳の時に初めて人を殺すことになった。どうやら私の家系は代々殺し屋らしい。
私に暗殺の基礎を教えた父は私が12歳の時に依頼を受け私を置いて旅に出た。二度と私の前に姿を表すことはなく、後々に知ったことだったが依頼を失敗し殺されてしまったらしい。
父が死んだことにより、自動的に私が茜沢を名乗り殺し屋になることとなった。
特に難しかった依頼はなく、頼まれた依頼は引き受けてから3日以内に全て終わらせた。まぁ、ほとんど相手は武器を持ったことがないものばかりであった。
私を変える出来事が起こったのは茜沢と言う名前を引き継いでから5年が過ぎた17歳の時であった。
とある村の青年が私に依頼を申し込んできたのであった。
「王国護衛騎士団に、父親を殺されたから仇を取ってほしい」
と。私はその青年に詳細を聞いた。
その青年が殺してほしいと言っていたのは王国護衛騎士団の隊長である不二宮雅枸。銀髪で赤い瞳をもつ美男子らしい。
私は中性的な顔立ちであるため、よく女と間違われることが多かったのでチャンスだと思った。虜にして油断した時に殺そうと。
さっそくパランポレン王国へと侵入した。パランポレン城に向かう前に城下町で女の格好へと変装して城内へと入っていった。
そして私はすぐに王国護衛騎士団に入隊を志願しに向かった。すると目の前に現れたのは当時の王国護衛騎士団の隊長の雅枸隊長と当時副隊長であった水城凜音さんであった。
さっそく雅枸隊長に話しかけられた。
「見た目的に強そうだから合格! ようこそ、変わり者の集まりのこの騎士団へ!!」
なにもせずに私は合格した。そんな簡単に合格しても良いのか? と終始疑問だった。
その疑問はすぐに凜音さんが解決を導いてくれた。
「すまんな……実は人員不足だから入隊志願をした時点で合格は決まっていたんだよ……とりあえず、名前だけ教えてくれないか?」
「茜沢です……」
「うむうむなるほど。よろしくな、茜沢!」
こうした経緯で私は簡単に王国護衛騎士団に入隊することができた。
だが、ここからが本番である。雅枸隊長を殺すのには2つの難点があったからだ。
まずはひとつ目、ある日のこと王国護衛騎士団ではとある噂で持ちきりになっていた。それは凜音隊長と雅枸元隊長は付き合っている。
私は最初、所詮嘘だと思っていた。だが現にこれは事実であったのだ。実際に私がその現場を遭遇してしまったからだ。
この噂が持ちきりになって1週間が過ぎた頃である。
私はとある用事があって隊長室に入ろうとした時である。声が扉越しに聞こえていたので、側に立ってずっと聞いていた。
声の主は雅枸隊長と凜音副隊長であった。
「俺たちが付き合っていることが噂になっているらしい。どうする凜音、みんなに話すか?」
「いや、みんなには黙っていよう……」
今でも凜音隊長が照れながら言っているのを私は覚えている。これによって私の虜作戦は一瞬にして散って行った。
この時は私は急いで買った服の代金を返して欲しいと心の底から思った。
だが大きな問題は付き合っていることではなかったのだ。私が困っているもうひとつの理由。それは不二宮雅枸、普通に強い。
いや、なんなの? ってレベル。王国外の結界のない場所で襲ってきた一般逆賊100人程を1人で斬り殺してしまった。かかった時間は1分もかからなかった。
本当に依頼を遂行できるのか? ここら辺から自分自身に不安が芽生えてきた。
すでに依頼を受けてから3週間が経過した。私はそろそろ依頼を遂行することにした。
決行する日は今日の夜。雅枸隊長が寝てから少し経ってから奇襲を仕掛けることにした。
そして夜になった。雅枸隊長が自室へと戻り部屋の明かりが消えてから2時間が経過した頃、私はこっそりと扉を開けて中へと入って行く。
すると雅枸隊長は私を待っているかのように刀を持ち椅子に座っていた。
「私を殺しにきたんだろ? 殺気が扉から放たれていたからね。いつでも戦う準備はできているよ、茜沢くん」
どうやら雅枸隊長には私が男と言うことは最初からバレていたらしい。
私は刀を抜き急いで雅枸隊長に斬りかかった。ところが雅枸隊長は私に抵抗することなく斬られたのだ。
「ありがとう……茜沢くん……」
私が雅枸隊長を切った後、凜音副隊長が雅枸隊長の部屋へと駆けつけてきた。
「雅枸隊長!! 己ぇ……茜沢!」
私は目的を達したことで気が緩んでいたので簡単に捕まってしまった。
瀕死の雅枸隊長が私に話しかけてきた。
「君のおかげで私は気が楽になったよ……実はね、この王国で罪を犯さないようにするために……1人の男をでっち上げの罪で……見せしめに殺してしまったんだよ……」
見せしめに殺された男がおそらく私に依頼をしてきた青年の父だろうと予想した。凜音副隊長はとても驚いていた。どうやら知らなかったのだろう。
雅枸隊長の話は続いた。
「だからね……ずっと私は殺されたかったのだ。その罪から解放されるために……感謝しているよ茜沢くん……そして凜音……私の代わりにこの王国護衛騎士団を率いてくれ……」
そういうと、雅枸隊長は息を引き取ったのだ。凜音副隊長は涙を流していた。私はその後隊長殺しで王国の地下独房へと投獄された。
それから2日後、凜音副隊長が私の元へとやってきた。ついに殺される時が来たと思った。
だが想像とは違うことを凜音副隊長に告げられた。
「私は王国護衛騎士団隊長の不二宮凜音である。茜沢に告げる。そなたは王国護衛騎士団の副隊長に任命する。ちなみに拒否権はない。さぁ、ここから出て仕事に全うするんだな」
どうやら私は王国護衛騎士団の副隊長へと任命されたのであった。どのような経緯があったのかは当然私にはわからない。
後から国王に聞いた話によると凜音隊長が私のことを庇ってくれたらしい。
そして独房から出た後、凜音隊長に私はひとつだけお願いをした。
「私に名前をください……」
すると凜音隊長はすぐに私にくれた。
「雅。君の名前は今日から茜沢雅だ」
どうやら雅枸隊長と結婚して子供を授かった場合につける名前だったらしい。
そして、王国護衛騎士団の茜沢雅が誕生したのである。
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(なぜ……今こんなのを思い出したのだろうか……走馬灯なのか……?)
雅は意識が朦朧としている状態でうなされていた。それを見た朝霧が急いで歯車を使う。
「雅をゆっくり休ませてあげよう……回復の歯車・快眠への誘い」
こうして雅はゆっくりと眠っていったのだ。




