3-013 最後は1人
(そういえば、あの駄目馬鹿神はどこにペットがいるんだろうか? まぁ、良い。敵に向かって突撃するのみだな)
高緑は全速力で恵比寿のところへと向かう。すると恵比寿は笑った。
「もっと慎重な性格かと思ったけど、君は単純だね」
いきなり高緑の視界から恵比寿が消えた。目から見える景色がなぜか濁って見える。何が起こったのか未だ理解できていない高緑。
体を動かしてもいないのに視界はなぜか動く。
(なんで景色が一瞬にして変わったのだ? そういえばさっきから足が重いなぁ……ん、足?)
高緑は自身の足を見ると大きな鯛が高緑の足を引っ張っていた。焦る高緑。
このままずっと足を引っ張られると地上に戻ることができなくなり溺死してしまうからだ。
(ペットってこの鯛のことかよ! と言うよりもこの鯛以外と雑魚なのでは?)
(風の歯車・下風斬撃」
高緑は自分の足を傷つけぬように風の斬撃を鯛に与える。鯛は高緑の足を掴む力がなくなり深海へと沈んでいった。
安心する高緑。だが息は限界をすでに迎えている。懸命な思いで恵比寿がいる場所へと戻ってきた。
地上に戻ってきたときには高緑の体力はゼロに等しかった。残りの力を振り絞って食堂の水になっていない場所に移動する。
息を切らしている状態で高緑は、恵比寿に文句を言い始めた。
「はぁ……はぁ……あんなところに鯛の住処を作るんじゃねーよ……はぁ……はぁ……」
「鯛が生きるための場所を作っただけだ。問題はあるか? それに下の階には迷惑をかけていないぞ。これは私が水の歯車で生成した鯛専用の住処さ。私に挑んできた愚かな一般兵どもは負けた後、ここに放り込んであげたよ」
「っ……人の命の価値も分からないのか!!」
「私にとって、他人の命の価値などゼロに等しい。私はね、自分さえ生きていれば後はどうでも良いんだ」
(自己中心のクソみたいな神様じゃねぇか……俺のなりたかった神様はこんなにもクソ野郎だったのか……)
高緑は再び恵比寿を目掛けて走り出す。鯛の住処がある場所を避けて進んでいく。すると恵比寿が指をパチンと鳴らした。
「ひとつだけ言っておいてあげようではないか。お前が斬った鯛。斬られた数だけ分裂するからな」
鯛の住処から今度は2匹の鯛が現れた。高緑は慌てて鯛に攻撃を仕掛ける。
「風の歯車・盆東風斬」
少し弱めの斬撃が鯛を襲う。高緑は鯛が斬れない程度に攻撃をして、鯛を仕留める予定であった。
だが恵比寿の鯛の体は意外にも脆く、鯛は4体に分裂した。
(まずいまずいまずい! このままならどんどん増えて食い殺されてしまう……)
そんな時、食堂の扉が開いた。赤髪の青年が立っている、赤星だ。だが、高緑は会ったことがないため誰か分からなかった。
「おい、誰だ。危ないからここから出て行け!」
高緑は一般兵と思い込み赤星に忠告をするが、それを無視して赤星は中へと入ってくる。
(こいつ、人の話を聞かないのか……!)
高緑は赤星の方を向いていると、4匹の鯛が赤星を襲おうとしていた。赤星が気づき攻撃をする。素晴らしい剣技で鯛を木っ端微塵にする。
赤星の行為を大笑いする恵比寿。高緑は唖然していた。
「何やってくれているんだ……! あの鯛は斬ったら斬った分だけ分裂するんだ! 何体に増えたと思っているんだよっ!」
「別に構わないじゃないか……問題はないだろう」
「問題しかないだろう! つか、お前一体誰なんだ」
「俺か? 俺の名前は赤星充だ」
(え、赤星だと? こいつも虹の家族なのかよ……)
「俺はお前と同類の高緑至一郎だ。まぁ、お前が強いこと分かったし共闘頼むわ」
「うるさい……元々戦うつもりだ」
(こいつ、素直に返事できないのかよ……潰したい〜潰したい〜味方だけど潰したい〜)
話していると無数の鯛が高緑と赤星を襲う。恵比寿がすでに勝利の笑みを溢していた。
「お前たち、俺のペットの餌になれ〜」
「ここは俺に任せろ。炎の歯車・地獄の業火」
鯛に目掛けて大きな炎が襲い掛かる。無数の鯛が燃え上がり2人の目の前には鯛はもういなかった。それと同時に炎の威力が高かったため、鯛の住処は炎によって全て蒸発した。
恵比寿の顔は勝利の笑みがなくなっており、絶望への顔へと変化していった。
「鯛を骨の髄まで燃やしてあげた。どうする? お前の味方はもうここにはいないぞ?」
「黙れ黙れ! こうなったら逃げるのみ」
恵比寿は急いで出口の方へと向かう。それを追いかける2人。恵比寿は逃げ足がとても早かった。
その時、高緑は提案をする。
「赤星、恵比寿を1発で仕留めれる自信はあるか?」
「無論、憑依したら一撃で仕留めれる自信がある」
「分かった、お前の言葉を信じよう。今から恵比寿のところまで飛ばすから頼むぞ! 風の歯車・春疾風」
赤星の背中から大きな風が吹く。恵比寿の方へと送り出されたようだ。その間に歯車を憑依する赤星。
「炎の歯車・憑依……我が栄光ある剣に大いなる力を!」
恵比寿が後ろを振り向いた時、凄まじい速さで赤星が追いかけて来ていた。必死の思いで逃げる恵比寿に後ろから赤星が声をかける。
「戦場において、敵に背中を向けるなどその時点で貴方は負けている」
「ひぃぃぃ!! ひぃぃぃ!」
「来世では強く生きてくれ……炎の歯車・弐式……百花繚乱」
色とりどりの炎の花が咲き乱れると同時に恵比寿は心臓を刺されてその場に倒れた。
多量の血が流れている。このままでは生きているのも時間の問題であろう。赤星が恵比寿に言葉を吐き捨てた。
「結局、他人のことを何も思わない奴なんて死ぬ時も1人なんだよ。自分の人生を悔やみながら死にやがれ」
恵比寿の目からは涙が溢れた。いくら悔やんでも戻らない人生。
「ご……ごめんなさい……」
恵比寿はこの言葉を言った後、2度と言葉を発しなかった。高緑が赤星の方へと駆け寄る。
「やるじゃねーか、さすがは虹の家族の一員だぜ」
「ふっ、黙れ。お前は最後最後にしか役に立たなかったけどな」
(やっぱりこいつとは2度と共闘をしたくねぇ……)
高緑はそう思いながら、2人は食堂を後にした。




