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王国滅亡の報復へ…  作者: 佐伯千尋
第3章 雪山決戦・本部襲撃編
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3-012 駄目神+馬鹿神

 哀禅は安堵するも束の間、脱衣所で倒れてしまった。

 アドレナリンによって動けていただけであって、彼女は布袋に攻撃していた間、太腿から大量の血を流し続けていたのであった。

 助けられた一般兵は慌てて救命道具を取りに行く。脱衣所で1人になった哀禅。

 すると脱衣所の扉が開いた。一般兵にしてはあまりにも早すぎる。彼女は不思議に思う。


「大浴場が騒がしかったから来たけど……あなたが暴れていたのね……」


「……その声は、(みお)? どうしてあなたがここにいるの?」


 その女の人は哀禅と同じ黒の軍服を着ている。哀禅同様、総帥の直属の軍の人である。

 エメラルド色のロングの髪に、それと同色の瞳を持っており、その顔立ちにはどこか幼さが感じられる。


「ボロボロじゃない……どれだけ激しい戦いをしたのかしら? とりあえず治してあげる。回復の歯車(ヒール・ロウェル)癒しの風(ヒーリング・ウィンド)


 心地よい風が哀禅を包み込む。鮮血をとめどなく吐き出していた太腿は束の間の内に傷口を塞ぐ。


「ありがとう、澪。あなたにはいつも助けられているわね」


「まぁそういう役目だからね……私は」


 そこに救命道具を持ってきた一般兵が戻ってきた。傷がなくなっている哀禅を見て驚く3人。


「あ……ごめんなさい。紹介するね……彼女は朝霧(あさぎり)(みお)。私の同僚で回復に特化している少将よ。私に傷はないのは彼女に治してもらったからなの。ごめんね、まさか来てると思ってなくて……」


「あなたたち菫礼のために動いてくれてありがとう」


 朝霧にお礼を言われると一般兵の3人は照れ出した。朝霧の癒しの風(ヒーリング・ウィンド)のお陰で歩けるまで回復した哀禅。5人は脱衣所を後にした。


---第3支部・2階食堂---


 高緑は2階を動き回っていた。


(廊下には雑魚逆賊しかいないじゃないか……俺にも何か痺れるような熱い戦いはないのか……!)


 と考えていると2階の突き当たりまで辿り着いた。その先にあるのは食堂と書かれている扉だ。


(まさか……食堂にはいねーよな……)


 扉を開けるとそこには、狩衣姿で右手に釣竿を持ったどこかだらしない男が椅子に座っていた。

 その男は高緑にまだ気付いていなかった。


(いたーー!! なんでいるんだよっ! いないと思うじゃん!!」


 途中から心の声が漏れていたのか、高緑の声は食堂中に響いていた。慌てて口を塞ぐも狩衣の男は高緑がいることを認知したようだった。


「また新しい餌がやってきたのか……?」


「うるせっ、黙れ! お前は誰だって言うんだ!」


「人に名前を聞くときは、まず自分から名乗るのが礼儀だと思うがな……」


「高緑至一郎。造船業を営んでるしがない一般人だよ。んで、お前は?」


「私は恵比寿(えびす)。七福神の幹部である」


(恵比寿だと……? 確か俺の昔に読んだ本で見たような……)



---12年前・ハーフェン---


 高緑がわずか8歳の時である。幼い頃に母を病気で亡くし、父親も自分の用事を優先してほとんど外出していたため、彼はほとんどの時間を家の中で孤独に過ごしていた。

 高緑には両親よりも仲が良かった人がいる。それは隣の家に住んでいた年老いた男である。

 彼は高緑が1人で住んでいると知ると、よく彼の家事を手伝いにやってきた。

 家事の手伝いをしにきて3ヶ月が過ぎた頃、その老翁はある一冊の書物を高緑にプレゼントした。それは数多の神様に関する情報が事細かに書かれている本であった。

 当時大してすることもなく、無為な時間を過ごすことの多かった高緑は興味津々にその本を読み始めた。


「ねぇねぇお爺さん。この神様は何?」


「その神様かい? それはね、恵比寿という神様だよ。その神様はね福の神って呼ばれていて、幸運を呼んでくれる神様なんだ」


「へぇ〜、そうなんだ。 じゃあ僕、将来恵比寿様のように人々へと福を与えることのできる神様になるよ」


「それは良いことだね……頑張りなさい……」


 高緑が慕った老人は持病のため、この日から丁度半年が過ぎた日に突然亡くなった。



(そうだ、思い出した。俺が昔に憧れていた神様だ。……こんなにもダサいのか? 写真と全然違うじゃないか!)


 高緑は本に写っていた写真と大きく異なったいたため、恵比寿のことを残念がる。


(待てよ……福を与える神なら、俺にも幸福を与えてくれるのではないか?)


 高緑は恵比寿に聞いてみる。


「恵比寿さんとやらぁ、福を与えてくれる神様と聞いたことがある……俺にも福を与えてくれないか?」


(頼む……頼む頼む頼む!!)

 

 すると恵比寿は溜め息を吐き高緑に告げた。


「なんで敵のお前に幸福をあげないといけないんだ? 普通に考えろよバーカ」


 高緑は頭にカチンときた。


(ごめんな、爺さん……あの時は恵比寿様のような神様になるとか言っていたけど訂正する。神様はろくなやつがいないわ)


 高緑は腰につけていた鞘から剣を抜き出した。そして憑依する。


風の歯車(ウィンド・ロウェル)・憑依……大きな力を持つ我が剣に疾風の力よ加われ!!」


 高緑の剣に風が憑依した。そして、恵比寿を見るなり挑発をするように声をかけた。


「俺がしっかり躾をしてやるよ、駄目神様よ」


「幸運を貰えなかったからって、敵と見なすのは良くないと思うよ。逆に躾ないといけないのは、君の方だと思うがな……良いだろう。貴様は私の可愛いペットの餌食となるが良い……!」


「いや……あんた七福神の幹部って自分から言ってたじゃねーか……」


 高緑は思わず恵比寿の言動にツッコミを入れてしまった。


(しかもペットって……いったいどこにいるって話だよ……恵比寿と言う神はもしかしてだけど、いや間違いなく駄目神と馬鹿神を掛け持つ神だな……)


 高緑は心の中でも恵比寿に対してツッコミをしてしまった。


---第3支部・屋上---


「クエ、クエックエクエー!!(着いたぜ、ここが第4支部だぜ!)」


 福禄寿の鶴によって屋上へと到着した拓也たち。3人は鶴にお礼をする。


「ありがとう、お鶴さん」


 片咲がお礼をすると鶴は照れながら鳴いた。


「クエ〜(礼には及ばないぜ……お嬢様……!)」


 3人は急いで支部の内部へと向かう。


「片咲さん、今から僕たちは何をすれば良いのですか?」


「そうね……ここにきているはずの幹部を倒すことかな……多分、部下とは風格が違うから一目見たらすぐに幹部はわかると思うわ! 私は大将室の様子を見てくるから、後はお願いね2人とも!」


 そう言うと片咲は真っ先に大将室へと向かっていった。赤星に話しかけられる拓也。


「僕は東側を捜索しようと思う。だから西側を頼む」


「わかった。お互い頑張ろう」


 2人は幹部の捜索を二手に分かれて始めていった。




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