3-011 助けてくれた御礼
(足は痛むけど、氷漬けになったお陰で一応止血はされた……運が良かったかもしれない……けど、活発には動けないわね……)
哀禅が自分の体のことを考えていると、再び布袋は袋からプレゼントを取り出した。取り出したのは赤色のプレゼントであった。とても残念がる布袋。
「はぁ……ここでの赤色はついてないなぁ……まぁ水に触れるまでは良いか……」
布袋は赤色のプレゼントを哀禅の上空へと投げた。壁に打ちつけられたプレゼントは破裂し、中に入っていた炎が雨粒のようにたくさん降ってくる。
哀禅は身のこなしが良く全てを躱すが、運んできた一般兵は何度か炎に当たり、体が燃えていく。
だがここは大浴場。炎が体に当たったものはすぐに浴槽へと飛び込み炎を消す。火傷はしたものの、誰一人として死んだものはいなかった。
「今度は、こっちの番だ。光の歯車・光速移動! そして、光の歯車・憑依……勝利の光よ我が剣へ!!」
哀禅は自らの剣に歯車を憑依させながら、布袋がいるところまで一直線に向かう。だが布袋は何か攻撃を仕掛けようとはして来なかった。
(なめているのかしら……? すぐに終わらせてやる……)
哀禅が布袋のすぐ手前まで着く。その時布袋は哀禅に向けて手のひらを向けていた。
「風の歯車・突風」
手から放たれた突風によって哀禅は元いた浴槽のところまで飛ばされる。勢いよく浸水する哀禅。
(歯車使えるのか……最初から使って欲しかったな……どちらにせよ、近づけなくなるのはなかなかにきついなぁ……)
「どうした。風のせいで行けないのか? ならばこっちからお前たちを始末してあげよう」
布袋は袋を持ち、一般兵がいるところまで走ってきた。焦って逃げる一般兵だが、そのうちの1人が床で滑りその場に倒れてしまう。その隙を見逃さない布袋はその一般兵を捕まえ首元を掴み、床へ叩きつけようとした。
だが、それを哀禅が止める。
「光の歯車・壱式……光鳴斬」
布袋の右足を斬ると共に、大浴場に大きな光が炸裂する。布袋は足を斬られた影響で体勢を崩し、一般兵を掴んでいた手を離してしまう。危機一髪で難を逃れた一般兵は涙を流しながら哀禅の元へと駆け寄る。
「あ……ありがとうございます!! この御恩は必ず返させて頂きます!!」
「分かった分かった。けどそれは、この戦いが終わってからにして。1人の少将として、この場にいる一般兵は誰も死なせません」
布袋はすぐに体勢を取り戻し、再び一般兵を狙っていく。今度は浴槽の端っこでこっそり身を潜めていた人を狙い始めた。もちろん壁際なので逃げ場はない。
布袋はプレゼントがたくさん入った袋を振り上げ、その一般兵を押し潰そうとした。
しかし再び哀禅によって邪魔をされた。
「光の歯車・光速移動」
哀禅は光速移動を使い、布袋が袋を振り下ろす前に一般兵を助けに行った。振り下ろした時には浴槽の水面を叩きつけているだけであった。
倒せなかったことに苛立ったのか、舌打ちをする布袋。
(あいつ……誰も死なさずにおれを倒そうとしているのか……その目標、すぐに潰してやる!)
布袋は袋をあさり始め、掴んだものから外へと投げていった。
「これで全滅しろ……! 贈物の狂宴」
哀禅が技の危険度を察したのか浴場にいる一般兵に声をかけた。
「あなた達、今すぐに脱衣所に逃げなさい!」
布袋は袋に入ってあったプレゼントをほとんど投げた。赤、青、緑など色とりどりのプレゼントが宙を舞う。
布袋は自らの上にプレゼントをいくつか投げてしまったが、全て歯車で哀禅達がいるところへと送った。
「風の歯車・突風」
(布袋っていう人、突風以外使えないのかしら……)
哀禅は光速移動で全てのプレゼントを躱すが、脱衣所に逃げ込もうとした一般兵の4人の方にもプレゼントが投げられていた。
脱衣所に近かった3人は脱衣所に逃げ込むことが出来たが、先程哀禅に助けられた一般兵は脱衣所までの距離が遠かったため逃げ込むことができず、脱衣所に走っている途中で目の前に黄色のプレゼントが落ちてきた。
哀禅の太腿を貫通した2本の雷の槍が一般兵をおそう。1本は躱すことができたがもう1つを躱すことが出来ず、腹を貫通した。
だが、浴槽に隠れていたのが仇となった。体が乾いていなかったため感電してしまいその一般兵は死んでしまったのだ。
死ぬ瞬間を見てしまった哀禅。助けることが出来なかった悔しさで思わず涙を流す。布袋は思わず哀禅のことを口にした。
「惨めだな。結局、その一般兵を助けることできなかったじゃねーか。何が『この場にいる人は、誰も死なせない』だ。言葉だけじゃ誰も助けられないんだよ、雑魚が」
布袋の今の言葉に哀禅は激昂した。そして布袋のことを指差した。
「真面目に生を全うしている人を殺して何が楽しいんだ……あんただけは私が責任を持って殺してやる!」
すると哀禅は浴槽の方へ走っていく。それを追いかける布袋。
布袋が浴槽に浸かると哀禅はいきなり攻撃を仕掛けた。
「光の歯車・弍式・月光の舞」
華やかな剣技が布袋を襲う。手足を重点的に狙っていく哀禅。血を流しながらも袋からプレゼントを取り出そうとする布袋。
だが哀禅は取り出す暇を与えない。
「……もっと早く、あなたを潰すわ。光の歯車・光速移動」
華やかな舞がとても速さを増して布袋を襲う。布袋は体を動かすのも困難な状態まで血を流している。
そして布袋の体は言うことを聞かず、ついに浴槽内で倒れてしまった。
再び立ち上がろうと足を立てるも、哀禅は攻撃をやめなかった。
「光の歯車・弍式……流れ星」
流れ星の速さの如く深い一撃が布袋を襲う。袋の持っていた手を思わず離し頭から浴槽に浸かり倒れる。布袋の限界はかなり近いようだ。
哀禅は布袋の持っていた袋を開け中身を見る。
(すごい量ね……私の望むプレゼントは……あった)
そのうちの1つ、黄色のプレゼントを袋から取り出す哀禅。
そしてそのプレゼントを布袋の目の前に置いた。
「さよなら、布袋」
哀禅が浴槽から出た後、黄色のプレゼントが開き布袋の方へ2本雷の槍が刺さる。
布袋は僅かに息があったが、水浸しである布袋は当然の如く感電した。
哀禅は戦いを終えると、息を引き取った一般兵の手を両手で優しく握る。
「助けてあげられなくてごめんなさい……あなたの分まで私は頑張るわ……天国でゆっくりと休んでくださいね……」
哀禅は大浴場を去っていく。脱衣所では助けられた3名が待っていた。そして同時にお辞儀をする。
「「「ありがとうございました!!」」」
お礼を言われると思ってなかった哀禅は驚くも、安堵した表情で言葉を返した。
「あなたたちこそ私を助けてくれてありがとね」




