3-004 ネージュ山の戦い
拓也は目が覚めると、ベッドの上で寝ていた。隣には藍もいる。ただし、まだ目覚めていない。
(そういえば僕……雷に打たれたんだっけ。よく生きていたな……自分を褒めてやりたい)
拓也の服装は腰にタオルを巻いてあっただけである。急いで隣に置いてあった軍服を着ていく。
着替えが終わったところで片咲と藤城がその部屋へと入ってきた。
そこで草津がやっと目を覚ました。昼間の記憶は全て覚えていないようだった。
「何時間寝ているつもりなの? 私はそこまで強い威力で雷を与えていないわよ? もう武器の強化も終わって取りに行ったから、早く頂上を目指すわよ」
片咲がそう言った後、部屋を出る。草津は急いで軍服を着始めた。
そして3人は部屋を出る。どうやらここは、フォルジュロンの宿屋の2階であるようだ。
階段を降りロビーを出ると、そこには片咲と自分の愛用している武器が置いてあった。
「さぁ……行くわよ。弁財天を倒しに……!」
3人はフォルジュロンを出て行く。ネージュ山の頂上へと向かって行った。
ーーーネージュ山・頂上への道ーーー
ネージュ山の頂上に行くまでの道は看板に書かれているので、迷うことはなかった。ただ、ネージュ山はこの世界で1、2を争うレベルの豪雪地帯であるため、目の前が一切見えない。
「聡一朗、よろしくぅ!」
「わかりました。炎の歯車・生成……松明!」
片咲一行の周りに大きな灯りができた。
「やっぱり、これって良いよね……雪も溶けてくれるし、少しあったかくなるし。何よりも目の前の視界がとても見やすくなるわ……」
山を登って行くにつれて、だんだん視界が良好になってくる。元凶である弁財天の所へと近付いてきているのは確かである。
すると、70歳程度の老人が頂上から降りてきた。片咲はその老人に声をかける。
「あなたどこにいたんですか? この先に、一体なにがあるんですか?」
「そうじゃのう…だが、ひとつだけ言えるのは、逆賊討伐軍には……言う必要がないと言うことじゃよ!」
といきなり懐にしまっていた杖を取り出し、拓也たちに襲いかかってきた。
そこで草津が歯車を使い出す。
「大地の歯車・地盤沈下!今のうちにみんな山の頂上へ登って……」
「時間の歯車・減速時間!」
草津の動きが急激に遅くなった。山を登ろうとしていた3人が振り向く。
先ほどの老人は今度は自分に歯車を放った。
「時間の歯車・加速時間!」
その老人の動きが急激に速くなった。動きの俊敏さは、藤城や草津などの青年男性ぐらいに匹敵するであろう。70歳過ぎの老人では考えることのできない早さであった。
老人は動きが遅くなった草津の心臓に目掛けて杖を突こうとする。だが、その攻撃は藤城によって止められた。藤城は持っていた剣で杖を弾いた。
草津の動きの遅さも元に戻り、老人の動きの早さも元に戻った。
「片咲大将。黄桜くん。早く山の頂上に!」
片咲と拓也は、藤城に言われた通りに山を登って行く。すぐに2人の姿は見えなくなった。
「お前は一体何者だ」
「儂か? 儂の名前は福禄寿。七福神の幹部である。そなたらは逆賊討伐軍であるな。生憎、逆賊討伐軍には深い恨みがあるのじゃ。そなたらには死んでもらおうではないか」
すると、雪が積もっていたところから鶴が現れた。
間違いなく、福禄寿が従えている鶴である。
「これで……2対2じゃろう……遠慮なくかかってきなさい。小童どもぉ!!」
ーーーネージュ山・9合目ーーー
片咲と拓也はどんどん山を登って行く。もうこの辺りからは雪は一切降っていないため、すぐに登ることができる。弁財天まではもうすぐであろう。
だが、そう簡単に登れる訳でもなかった。今度は桃を食べている、長い杖を持った老人が山を降りてきていたのだ。
(またさっきと一緒なんだろうなぁ……今度は僕が戦おう!)
今度の老人は2人とも無視して山を降りて行った。拓也は疑問に思った。
(え……なにもしてこないの?)
と振り向くと、こちらの方を向き襲う準備をしていた。片咲は山を登ることに集中して気づいていない。
拓也は立ち止まり戦う準備をする。
「大将を、ここで止めさせない……僕が相手だ」
「ほう……良い心であるが……お主1人で勝てると思っているのか? まあ……構わん。我が名は寿老人。七福神の幹部なり。お前を殺して……我が鹿の餌にしてやる……!」
(大黒天を倒すまでは、僕は死ぬわけにはいかない……絶対に勝ってやる……)
突如、寿老人が自らの杖に歯車を憑依し始めた。
「氷の歯車・憑依……我が杖に宿るんだ、華やかな氷よ。そして現れよ……氷の歯車・氷の鹿!」
すると氷の鹿が寿老人の前に現れ、寿老人はその鹿に乗った。
「ちっ……冷てぇ……まぁ良い……目の前の標的を打ち砕いて倒すのみ!」
(自分の力を信じて……勝つ!)
ーーーネージュ山・頂上ーーー
片咲はなんとか頂上まで登ることができた。標高3000m。雪が降っていないため、第4地区を一望することができる。
その景色を見ながら琵琶を弾いてる人がいた。とても綺麗な音色である。
片咲がその琵琶を弾いている人に話しかける。
「久しぶりね……あなたと会うのは5年ぶりかしら、今度こそ決着をつけましょう……弁財天!! いや……元逆賊討伐軍少佐でありながら、突如姿を消した私の妹……片咲真子!」
すると、琵琶を弾いていた人が突如演奏をやめ、立ち上がり片咲の方を向く。
容姿は片咲と瓜二つであり、右頬に同じぐらいの傷がある。唯一違うところは着ている服だけである。
「久しぶりじゃなぁ〜い、お姉ちゃん。まさかもう1度ここで会うことが出来るとは思っていなかったよぉ。あの時は毘沙門天様に止められたけど、あなたに付けられたこの右頬の傷は今も忘れない……そして、今日は邪魔するものはいない……決着をつけましょう!」
雪は降っていないが、弁財天が琵琶を弾き終わると同時に吹雪のような雪が降り始めた。どうやら、ネージュ山の頂上付近で降らなかった原因は琵琶だったようだ。
「真子、負ける覚悟はできてる……? 私はどんな地位を失おうとも、あなたに勝たせてもらうわ……!」
自身の槍を構える。片咲は、戦う準備はすでにできているようだ。
「負ける覚悟ができているのは、お姉ちゃん。あなたの方だわ……。この5年間、私の美しいこの顔に傷をつけた罪は重い……死んで償ってもらいますね……!」
弁財天は琵琶を弾く準備を始めた。そして、3つの戦いはそれぞれ火種を切った。




