3-001 どうして僕が……
第3章始動です!
「……苦しい。……視界が見えづらい。……それに寒い。どうしてこんなことに」
拓也はとてもしんどそうに見える。すると隣で励ますものがいる。
「木沢くん、だっけ? ここを耐えたら小さな村に着くよ。後少しの辛抱だよ、頑張ろっ!」
(木沢じゃねーよ。黄桜だよ)
拓也のことを励ましていたのは、第3支部大将でありながら逆賊討伐軍最強の女戦士である片咲真帆である。
(俺には……何も魅力がないんだけどなぁ……)
●
事の始まりは先日のことであった。筑紫秋総帥に拓也と片咲が呼ばれたのであった。
「早速だが任務だ。第3支部にネージュ山という山が存在する。その山は年中無休雪が降ることで有名なのだが、ここ最近はなぜか頂上付近が降らない現象が起こっているらしい。こんなことは観測したから1回もなかったんだ。おかしいだろ?そこで君たちに調べて来てもらう」
(なんで俺なんだよ……)
「おっと、なんで俺なんだよ。っていう顔をしているね?まぁ君はいつ"天之四霊"と出会ってしまうかはわからないからね。保険だよ保険」
その内容を言われても拓也はあまり納得は出来なかったが、自分自身には拒否権はないことをわかっていたので渋々同伴することになった。
拓也は片咲に挨拶をする。
「黄桜拓也です。よろしくお願いします」
「前にも会ったけど、改めてよろしくね〜。わたし片咲真帆! 第3支部の大将でーす」
片咲真帆。黄色の軍服を着ている。胸には3という数字が書かれている鷹のエンブレムを付けられており、黒髪で雰囲気は凜音にとても似ている。右頬には斬られた後の傷がある。
拓也は少し緊張をしていたが、片咲が凜音と考えると少しほぐれたようだ。
片咲が拓也に話してくる。
「知っていると思うけど、私と凜音、政宗と嵩玖と真k……いや4人は同期だったの。そして私は貴方にとても興味があるの。なぜって? それは、凜音が自分の命を引き換えにしてまで守った貴方のどこが良かったのか。それを知りたいの。だから総帥に頼んで貴方を今回の任務に入れてもらったわけ。と言うわけで任務を成功させようね〜」
片咲は第3支部の方へと向かっていく。拓也は後ろをこっそりとついて行ったようだ。
ーーー逆賊討伐軍第3支部本部ーーー
片咲が第3支部の全員をロビーへと召集する。およそ300人ぐらいだろうか。一斉にロビーへと集まって来た。
「はーい、みんな注目。今回の任務にだけ特別参加となった人を紹介するよ。木沢拓也くん! みんな、この人が逆賊討伐軍の掟を破らないかどうかをしっかりと見張って行こうね〜。では早速、本人に挨拶をしてもらいましょう」
「黄桜拓也です。木沢ではありません。精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!後、掟が何かは知りませんが破らないように努めます」
自己紹介の時に、横目で片咲の事を見るが片咲は一切気づかなかったようだ。
掟を知らないと言った瞬間、周りからは驚きの声がたくさん聞こえてきた。片咲もかなり驚いている。
「貴方……政宗から何も聞いていないの?」
「はい。何も」
「ふー。政宗はそう言うところは本当にポンコツだなぁってつくづく思うよ。良い? 逆賊討伐軍に入った以上、歯車の複数使用は原則禁止だから。政宗に聞いたけど君は光の歯車を使うんだよね? それ以外を使ったら問答無用で君は退軍だからね」
(そんなこと一切、聞いたことがないぞ。初耳だ。て言うか、光の歯車以外使えないけど……)
「後はあれね……窃盗や性的暴力などの犯罪行為の禁止。それと、特例以外の逆賊討伐軍の兵士の殺害。ここら辺は当たり前だけどね。さて、ひとまずこれは置いといて、今回のネージュ山探索出動隊員を発表します。まずは私、そして先ほど紹介した彼、後は聡一朗と藍! 以上4名。じゃあ準備して行こう、解散!」
その場に残ったのは今回出動する4人となった。片咲と拓也以外に残った2人は、先ほど片咲が言っていた聡一朗と藍に間違いないだろう。2人が片咲の方へと近づいて行く。
「聡一朗、藍! 一緒に頑張るぞぉ〜! あ、君たち自己紹介をしてあげて」
「わかりました、どうも。藤城聡一朗です。逆賊討伐軍中将であり、片咲大将がいない時の代理大将を務めています。よろしくお願いします。黄桜くん」
「ほいほい、よろしく〜。草津藍だよ。中佐でーす。黄桜くんうちの大将、名前覚えるの疎いからそこのとこよろしくぅ!」
(疎いとか言うレベルなのか……もう2回は言ったぞ僕……)
拓也は覚えられるくらいまで有名になろうと決心した。
片咲は任務の概要を詳しく話し始めた。
「ネージュ山の頂上に行って調査をすることが大切だけど、まずは聞き込み調査から始めて行くよ。ネージュ山の5合目辺りまぁ、山の真ん中らへんに"フォルジュロン"という街があるの。鍛治専門の人たちがよく住んでいるわ。自分の武器を必ず強化してもらうことだよ。おっけ?」
すると藤城は剣を持ち草津は弓を持った。片咲は槍を持っている。
拓也は先日、筑紫秋総帥に渡された"小竜景光"を早速持って行くことにした。
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そして今に至る。山を登り始めて1時間半。未だ町は見える気配は一切ない。どれぐらい登ったかも誰も分かっていない。
すると、前から明かりが少しずつ見えてきた。
「あれは街の光かもしれないね。急いで行こうっ」
片咲を先頭に4人は走って行く。だが街の明かりにしてはあまりにも少なかった。近づいてみるとランタンを持った少年が下山しようとしていたのであった。
その少年はとても優しそうな雰囲気で、少し草津に似ていた。拓也と同じ年齢のような若さに見える。
「どうかしましたか?」
「いえいえ、この先の"フォルジュロン"と言う街に行きたいんですよ」
「あー、それならば私についてきてください。案内しますよ」
「いや君は下山しようとしていたんだよね? わざわざ私たちに構う必要はないんだよ」
「いえいえ、あなたたちは服を見るからに逆賊討伐軍の方たちですよね? 少し前に父がお世話になったので逆賊討伐軍の人たちには優しくしろって言われているんですよ」
(世の中こんな人もいるもんなんだなぁ……まぁ、僕も人には優しくってよく父上に言われていたな……)
とふと昔の事を思い出した拓也であった。拓也は仲良くなれると思って思い切って名前を聞いた。
「君、名前はなんで言うの?」
「充って言うんだ。よろしく」
「僕は拓也。黄桜拓也って言うんだ。よろしくね」
2人は挨拶代わりに握手を交わす。その後、充を先頭に4人はついて行く事にした。




