2-019 不二宮凜音の役目
「誰だ貴様は……見かけないものだな!」
凜音はその巨体を見たことがなかったが、次の瞬間、曉月が急いで逃げる指示を3人に出す。
「凜音、早く逃げるぞ! 今の状態では誰もその男には勝つことはできない!」
凜音は曉月に言われたため仕方なく逃げることにした。
曉月はとあることに苛ついている。
(無線機が使えない。サファイアの水の放出のせいで内部が水に浸水して5人が連絡を取れなくなってしまった。それのせいで大和と未だ連絡が取れない。)
それとは別でもう1人苛ついているものがいた。拓也である。
(クソッ、体が全然動かない……!!)
拓也は先ほどの閃光によって全ての力を使い果たしたため、声が出なかった。
すると雅が拓也の所へとやってきた。
「拓也王子〜私の背中に〜」
雅は拓也をおんぶして逃げることにした。
拓也をおんぶしている雅は当然走る速度も遅くなるため、巨体にだんだん追いつかれてきている。
(まずい、このままでは雅と拓也王子があの巨体の犠牲となってしまう……戦うことができるのはもう私だけ……)
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つい1週間前のことだった。
「凜音、私は昔からの持病がどんどん重くなっている。間違いなく数年以内に死ぬであろう。その時は息子の拓也のことは頼むぞ」
伸哉様から持病のことを告げられた。
「了解しました」
まさか、あの後すぐに伸哉様が死に、パランポレン王国が滅亡するとは誰も思わなかっただろう。
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(そうだ……伸哉様が亡くなってしまった以上、拓也王子はパランポレン王国の再建をする運命がある。明るい未来が来ることを私は願おう)
「曉月……!この刀を遥に渡してくれ!」
凜音は自らが愛用していた剣を曉月に投げる。曉月は両手で包み込むようにキャッチする。
「了解した、君は一体何をするつもりだ?」
「まぁ、今に分かるさ……拓也王子!!」
凜音は意識がもうほとんどない拓也に声をかける。そして、笑顔でこう言った。
「どうか……幸せになってくださいね……氷の歯車・氷の壁!」
凜音と3人の間に壁が作られた。拓也は意識が薄れる中、最後の力を振り絞り声を出した。
「凜音、死なないでぐれ! 頼むがらぁ!!」
だが、拓也の意識はここで途切れてしまった。雅と曉月は村がある方まで進んでいく。
(凜音……君の覚悟はしっかりと見届けた)
(凜音隊長……あなたの分まで拓也王子を立派な戦士に育てて見せます……)
「さて、逆賊討伐軍ではなく王国護衛騎士団隊長としての最後の使命を果たすとしようではないか。私の名前は不二宮凜音、いざ尋常に勝負」
「貴様ハ氷の歯車ノ使イ手ト見タ...ナラバ私ハ炎の歯車デ貴様ノ最後ヲ見届ケヨウ。我ガ名ハ大黒天。大型逆賊"七福神"ノ1人デアル」
「そうか……そんな大物相手に私の最大の全力の出せないことが、私の人生の3つ目の後悔に入るだろうなぁ……氷の歯車・生成……剣……!」
「私ハ相手ガ子供デアロウトモ女デアロウトモ容赦ハシナイゾ。炎の歯車・憑依……業火ヨ私ニ栄光ナル力ヲ!」
大黒天の槌に炎が纏わりついて行く。その量は絶大である。
憑依された槌を試しに一発振りかざすとその部分はクレーターのように大きく凹み、周りの樹木はその炎の影響で燃えて行く。
それだけではない。現在エーデルシュタイン島では火山の噴火により中心部分から着実と溶岩が地面を侵食していっている。
「水城凜音……貴様ヲ一発デ仕留メテヤル」
大黒天は大きく空へと飛んだ。3mの体では決して不可能と思えるくらいである。そして槌を振り上げる。
「炎の歯車・弐式……星砕き!」
大黒天は凜音の方へ目掛けて飛んでくる。その速さは流れ星のようだ。
(やばい……避けないと……)
残り僅かのところで、避けることができた凜音。もう少し遅ければ、試しのクレーターよりもかなり深い場所でペシャンコにされていただろう。
星砕きの影響により再び火山が噴火した。
(なんて威力だ、"宝石十二の王"とは一切、比べ物にならない。こいつの攻撃を見ていたら、サファイアの攻撃なんて可愛く見えてしまう……!!)
凜音は覚悟を決めた。
そして、大黒天はさっきの星砕きをもう一度打とうと準備をしている。大黒天は再び空に飛んだ。
「今度コソ止メダ……! 水城凜音……! 炎の歯車・弐式……星砕き!」
(あぁ……遥ごめんなさい。あなたはもう少し可愛がってあげるべきだった。たった1人の私の肉親。これから降り注ぐたくさんの試練を他の仲間と共に乗り越えてほしい……。そして拓也王子、あなたの成長を最後まで見届けられなくてごめんなさい。雅に後は全て教えてもらってください)
「氷の歯車・氷の道」
大黒天への道ができた。凜音は急いでその道を進んでいく。
(私に関わってくれた皆の者ありがとう……)
「氷の歯車・氷華円弧斬!」
凜音の剣と大黒天の槌が衝突した時、衝突の影響で爆発した。
ーーーエーデルシュタイン島・港ーーー
その爆発がした後、遥がいきなりその場に倒れ込む。
(なんなの……この胸の痛み……体に何かが溢れてきている……これは何なの……)
そして、3人が村のところへとやってきた。
急いで船へと駆け込む。とある異変に高緑は気付く。
「あの青髪のねーちゃんはどこに行ったんだい?」
するとその質問に雅が答えようとするが、曉月が結局答えた。
「彼女は時間稼ぎをしてくれている。今のうちに出すんだ」
「わかった、では出発する」
船は出発した。
すると、村から声が聞こえてきた。
「お〜い、待ってくれ〜」
大和である。彼は港の桟橋から跳び船へと着地した。
曉月は彼を見るなり、気になっていたことを聞いた。
「大和……お前どこにいた」
「西エリアで1人彷徨っていたんだよ」
「そうか……」
そして曉月がため息を吐き、先ほど起こった事実を話した。
「凜音がおそらく死んだよ……俺たちを助けるためにな……」
「大黒天と戦ったんだろ……何にせよ、同期がいなくなるって言うのは悲しいものだな……」
「あぁ……本当にそうだな……」
船は寂しく、ハーフェンへと向かう。
ーーーエーデルシュタイン島・中央エリアーーー
「水城凜音、ヨクモ我ノ右目ヲ……ダガ依頼ハ遂行シタ。我ハ帰ルトシヨウ……」
大黒天は右目から血を流しながらエーデルシュタイン島を去っていった。




