2-018 これで終わらない
---エーデルシュタイン島・村---
エーデルシュタイン島の火山が噴火して1時間弱が経過した。火山近辺の森林は溶岩の影響でどんどん燃えて行く。
その異変に気付いた高緑たちは急いで船へと駆け込もうとしている。
すると海の様子がおかしいことに橙山は気づき高緑に報告した。
「高緑さん! あそこの波が少しおかしくないですか? 気のせいですかね?」
すると、異変があった場所にサファイアが現れた。
「この船を……潰しにやってきた……貴様らは火山に飲み込まれて全滅しろ……水の歯車・水の波動……」
ルビーの腹を貫通させたあの波動が再び現れた。すると、高緑が自らの船の船頭まで全力で駆け抜ける。
「おっとぉ〜、そいつはさせないぜ。風の歯車・浦風」
高緑の浦風によって、水の波動の方向を変えることができ、船の座礁は免れた。
「よっしゃぁ〜、見たかサファイア」
だがしかし、サファイアの水の波動は橙山の村の民家を崩壊させた。
(あ……これやっちゃったなぁ……)
高緑はおそるおそる橙山の方を見ると、とても不機嫌そうな顔で高緑を見つめる。
「ごめんなさぁ〜い!」
「まぁ……今回は許してあげる……次はないからね」
(次、民家潰れることなんてないと思うけどな……)
と思う高緑であったが、これを言うと間違いなく植松のように後頭部を殴られると思い、心の中で思うことにした。
振り返るとサファイアの姿はそこにはなかった。
「なんだったんだ……あの男は……」
するとそこに橙山たち村の人たちが乗り込んできた。
さらに、村の方からは水城たちの姿が見え始めた。
「とりあえず、後はあいつらだけだな……」
高緑はポケットにしまってあったタバコを口に咥えた後、マッチを擦り、タバコを吸い始めたのであった。
---エーデルシュタイン島・中央エリア---
3人は中央エリアの一本道へと出た。そこには凜音がいた。
凜音は3人の下へと向かって行く。だがそこにサファイアが現れた。今度は水に同化しておらず、生身の姿で現れた。
「まさかあなた、水に同化できるなんて思っていませんでしたよ〜。でもあなた、ここに水はありませんよ〜? 逃げる場所はありませんからね〜?」
「それは君が勝手にそう思っているだけだ……なければ作れば良いだけの話……水の歯車・水の喞筒……」
サファイアの手から大きな水がたくさん放出されていく。大きな水が地面に触れた時、その部分に水たまりができた。
「これで私も自由に移動ができる……水の歯車・憑依……我が体や水となれ……」
サファイアの体は先程と同様に水と同化し始めた。
そして、姿を水の中へと消していく。
「気を付けろ。なるべく水たまりには近づかないように……! 特に黄桜王子を死守するんだ」
(こういう時……松平がいれば……雷の歯車を使って、すぐにサファイアを倒すことができたのに……炎の俺では……いや、待てよ。あの方法を使えば、私にでも勝てるのではないのか?)
曉月は自らの歯車で勝てる算段を思いついたが、少し不安なことがあった。
(この技を使って……みんなに影響を与えないだろうか……)
●
「曉月大佐! これはいったいどういうことなのか説明しなさい。君の技のせいで曉月部隊の全員が失明したと聞いたぞ。どう責任を取ってくれるのだ?」
「本当に申し訳ございません……ですが、部下はみんな使っても良いと言ったので……」
「貴様、人のせいにする気か!? 階級降格だ、曉月政宗、本日より5階級降格で少尉だ。良いな?」
その後、少尉にまで降格した俺に待っていたのは、軽蔑の眼差しである。
「おい、あいつ自分の出世のために部下全員の目を犠牲にしたらしいぜ」
「俺、あの曉月政宗とか言うやつの部隊じゃなくて良かったぜ」
「しかも、部下全員の目を犠牲にしたのにも関わらず倒した逆賊は中型逆賊1人らしいぜ」
今までの全支部の大佐以下の階級の人たちが俺が下がった瞬間に俺をバカにし始めた。
はっきり言って、生きた心地はしなかった。それからかなりの努力をして私は大将まで登り詰めた。
●
(本当に使って良いのか……また、昔みたいなことが起きてしまったら……)
と昔のことを考えていたら、目の前の水たまりからサファイアが現れた。
あれほど水たまりに注意しろと言っていた曉月がずっとあの事を考えていたせいで逆に水たまりのある方へと進んでしまっていた。
「何を考えているのだ……お前をまずは殺してやろう……曉月政宗……」
(まずい……早く避けないと……)
サファイアが曉月の胸ぐらを掴もうとしたが、辛うじて避けることができた。
再びサファイアは、水の中へと姿を消す。
(どうする……迷っている時間はあまりない……)
「曉月……何か考えでもあるのか?」
凜音が後ろから声をかける。だが焦っている曉月にはその声は届いていない。すると今度は拓也が、
「曉月ざぁぁぁぁん!!」
つい先程の凜音の声よりも何倍も大きな声がかけられた。さすがに曉月でもこの声には気づいたようだ。
「一体どうしたんだい? 黄桜王子?」
「さっきから、ずっと何かを考えているように見えます。何か策があるんですか?」
(もう、言うしかないか……)
「少し……聞いてくれ……」
曉月は凜音たちに策を言う。すると凜音たち3人は納得した。
「そう言うことなら全然構わないぞ。それで終わるなら早く終わらせてくれ」
「わかった、ありがとう」
そして、サファイアが水たまりから現れる。曉月が攻撃を仕掛ける。
「炎の歯車・紅e……」
しかし、サファイアはその前に水たまりに再び戻り攻撃ができない。
(くそっ……攻撃しようとしたらその瞬間に再び水たまりに戻るせいで当てることができない。少しだけでもタイミングを遅くできたら……諦めずにもう1回)
だが、何回攻撃を仕掛けるもサファイアは水たまりの中へと逃げていく。
「曉月の攻撃が一切当たる気配がない……」
(僕がやるしかない……! 集めるんだ……自分の今、出せる限りの最大限の光の歯車を!)
拓也は自分が出せる限りの光の歯車を必死に集めている。それの影響かサファイアに貫通させられた足から再び血が溢れてきた。
(足が犠牲になってもいい……この瞬間に全てを懸ける!)
サファイアが再び水たまりから出てきた時、拓也は光の歯車を放った。
「凜音、雅さん、目を閉じて! 光の歯車・閃光!」
ハーフェンの時に出した閃光よりもはるかに大きい閃光が場を照らす。
サファイアは目が眩み、思わず目を閉じる。
「ありがとう、黄桜王子! 炎の歯車・紅炎!」
紅炎が周りの水たまりを蒸発させる。水に同化していたサファイアもどんどん体が蒸発していく。
「待つんだ、私の野望はまだ終わっていなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
紅炎によって、サファイアは蒸発していった。力を使い果たした曉月は思わずその場に倒れ込む。
凜音たち3人は曉月のもとへと駆け寄る。
「これで全員倒したんだな、やっと終わったんだな……」
「あぁ……討伐完了だ!」
4人は安堵する。だが悪夢は終わらない。曉月たちの前には、3mほどの巨体が目の前にいた。
「貴様ガ水城凜音ダナ……?」




