2-017 サファイアの実力
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空中にいる拓也はサファイア目掛けて着地しようとしている。だがそれは、たった今戻ってきた大和と曉月に止められてしまった。
拓也は、岩場のところに連れ戻された。
「黄桜王子。君はもう、十分に頑張った。ゆっくり休んでくれ」
拓也はサファイアと戦うことを曉月に止められるが、拓也は言うことを聞く気配はなかった。
「で……でも、大空さんの敵を取りたいんです。お願いします!」
強く懇願する拓也。だが、曉月は戦わせない。
拓也は先程のルビーとの戦いで左太腿を損傷している。本人は気づいていないが、おそらく骨折しているだろう。このまま戦えば間違いなく拓也は足手まといになる上にすぐにサファイアに殺されるだろう。曉月はそれを避けたかった。
曉月は自分自身がサファイアと戦おうとしたが、炎と水では圧倒的に曉月が不利である。多少不利であろうとも勝つことは可能であるが、サファイア程の実力となると勝つことは到底難しい。
すると先程まで、岩陰で見守っていた凜音が立ち上がり、サファイアの方へと少しずつ進んでいく。
「次は……貴様か……? 女と言えども、私は容赦はしないぞ……」
「男女差別しない人は嫌いではないですよ……」
「貴様も、先程の女と一緒の末路を辿れ……
水の歯車・水の波動」
サファイアはつい先程ルビーと拓也に放った波動を凜音にも放ってきた。大きさも速さもさっきの波動より上回っていた。
「この剣に……斬れぬものなど……ない!」
凜音は自らの刀を胸の前に構える。水の波動は凜音の刀に触れた瞬間、Y字道路のように2つに綺麗に分かれた。
凜音の真後ろの岩の近くにいた4人はその水の波動に当たることはなかった。が、分かれた先にあった岩は波動によって一瞬にして粉々になった。感心するサファイア。
「貴様は……潰し甲斐がありそうだな……」
「それはそれは、本当にありがたい」
雅は凜音の逆立ちをしようとするが、凜音がそれを止めた。どうやら、1対1で勝負がしたいようだ。
するとサファイアが地面に跪き、突如自らの手をかざす。
「だが……貴様と戦う理由はない……全員、海の藻屑となるが良い……水の歯車・吸収」
地面がどんどん水分を失って干からびて行く。地面が含んでいた水分は全てからの手の中へと吸収されていく。
「水の歯車・放出」
彼の手からはとてつもない量の水が放出される。火山内部は一瞬にして浸水した。5人は全員水の勢いに流される。
当然ながら火山内部で死んだ、ルビー、エメラルド、ダイヤモンドも流されていく。
「本当の地獄は……ここからだ……水の歯車・憑依……我が体よ水となれ……」
サファイアは浸水した水と同化して姿を消した。
そして、火山内部の熱さにより、すぐに全ての水が蒸発した。火山内部は無人となった。
---エーデルシュタイン島・東エリア---
曉月と拓也は、数時間前に凜音が倒したパールのところへと流されていた。周りにはサファイアはいない。
「どうやら、俺たちの所にはサファイアは来なかったようだな。だが、いつ襲われるかは分からない。油断は禁物だぞ」
「はい。グッ……いててて……」
拓也はルビーとの戦いでの足の損傷が今頃になって響いてきた。アドレナリンの影響で負傷していたことを忘れていたのだろう。
拓也は、立つことが困難になってきている。
「君はそこの滝の近くで休憩しておくんだ……」
と曉月は滝の近くの岩に拓也を移動させる。拓也の座った場所には右太腿らへんには小さな水たまりがあった。
するとその水たまりが小さな波をたくさん作る。そして、水たまりからいきなり出現した水の刃が拓也の右太腿を貫通した。
「うわぁぁぁぁ!」
拓也の悲鳴は、東エリアのすべての全域に響き渡る声であった。曉月はすぐさま拓也の方へと向かう。
「少し場所を移動しよう。そこの水たまりがない所に移動させるぞ」
曉月は拓也をおんぶして、滝から少し離れたところに移動をしようとする。
滝のところから、サファイアが姿を現した。
「水がある所に……我は出現できる……それは、僅かな水たまりでさえ……雨粒でさえ……曉月よ……部下も守れないなんて……実に愚か……」
今の一言が曉月の逆鱗に触れたのか、いつもとは違う雰囲気になった曉月。多少の煽りなどでも苛ついたりすることが多い曉月だが、今回はいつもの比ではないことが拓也でもわかった。
(何か昔にあったのか……?)
拓也には曉月の過去など知らない。けれども、誰が見ても何かはあったのだろう。というのは分かった。
「部下も守れないなんて……愚かだと……? その言葉をそっくりそのままお前に返そうではないか……。ルビーやエメラルドだってみんなお前の部下だろ!」
その言葉を聞いた時、サファイアはとても笑っていた。
「部下だと……? 面白い冗談を言ってくれるではないか曉月……! あれは部下ではない……みんな俺の奴隷だ。みんな俺の代わりに死んでくれれば良い…….あいつらは死んで初めて俺の役に立つんだよ。それ以外ではなんの役にも立たない愚か者たちだからな……」
「……の……ちを……人の命をなんだと思っているのだ!」
と曉月はサファイアの方へと向かっていくが、サファイアは再び水と同化して姿を消した。
「……クソッ。どこに行きやがったあのクソ野郎! あいつだけは絶対に俺の手でぶち殺してやる!」
普段の曉月からは絶対に言わないであろう言葉がたくさん出てきた。
拓也は驚きを隠せなかったがそれどころではない。止血作業は途中であったため、拓也の血は未だ止まっていない。このままだと、失血多量で死ぬことは間違いなかった。
すぐさま曉月は拓也のところへと戻ってきてくれたため、なんとか助かったと拓也は思っていた。がここで大問題が起きてしまった。
「黄桜王子……すまない。私のせいでこんな大きな傷を負うことになってしまって……そしてさらに申し訳ない。私は大将であるが……止血作業はできない」
「いえ全然、問題はありま……待ってください。それ大問題ですよ」
拓也はこのままだと本当に失血多量で死んでしまう。
するとここで救世主が現れた。
「拓也王子〜。曉月さ〜ん。大丈夫ですか〜」
木の陰から現れたのは雅であった。雅のお陰で拓也の止血作業が完了した。
「本当に申し訳ない。今まで止血作業をすることはなかったんだ」
「いえいえ〜。こういうのは役割分担ですから〜。拓也王子〜歩けますかぁ〜?」
「おそらく、歩けると思うが……」
立ち上がろうとする拓也。しかし、立てなかった。それもそのはず、両足を怪我しているのだ。
寧ろその状態で歩けた方が奇跡である。
「仕方ないですね〜」
雅は拓也をおんぶする。そして3人はサファイアを探しに向かっていくのであった。




