2-016 優しさをありがとう
(どうやったら、弓を生成できるのか……あまり時間はない、もう……もう1回やってみよう!)
「光の歯車・生成……弓!」
すると今度はきちんとした正真正銘の弓が完成した。
(これが……三度目の正直というものか……)
少し感心した拓也である。
光の弓……初めて"生成型"を作れたのか、すこし頬が緩む。しかしそんな場合ではない。
ルビーの鞭の打つ速度は未だ衰えておらず、寧ろさらに速くなっているように見えた。炎の柱は先ほどよりも大きさが増している。自分自身が炎の柱に飲み込まれるのも時間の問題だと思い始めた。
「やるしか……ない」
拓也は弓を空に向けて打とうとしている。凜音と雅は拓也の行動をイマイチ理解をしていなかった。
(矢に光をたくさん集めてみせる……もっと……もっと……!)
拓也が放とうとしている矢がどんどん光っていく。その光はどんどん輝きを増していき、目が眩むほどまでとなった。
(この矢は……火山のカルデラ部分……この矢が行き着くところまで行った時、光は分散され……火山礫のように降下する……!)
「行けぇぇぇぇ! 光の歯車・光雨!」
拓也が放った矢は火山内部の天井に突き刺さった。
その矢の光は輝きを失う代わりにどんどん小さな粒となり私達の方へと向かってくる。
矢から零れ落ちた光はどんどん重力によって早くなり、勢いを増し、ルビーの体に直撃する。
「ぎゃぁぁぁぁ! なんなんですかこれ……!」
たくさんの光がルビーを襲う、威力は絶大だ。
ルビーの大蛇うねりの威力がだんだん弱くなっていく。
「今だ……!」
ルビーのところまで全力で走っていく。ルビーは左目を光の雨でやられてしまったため、拓也のことは見えていなかった。
ルビーが前を向いた時、出血のしすぎで視界がぼんやりとしていたため誰かが立っているとまでしかわからなかったのだろう。
拓也は剣を振り上げている。だがしかし、それを振り下ろそうとしない。拓也の目には涙が浮かんでいた。
「拓也王子! 何をしているんですか……!」
凜音は思わず言ってしまう。拓也は涙を流しながら答える。
「だ……だってさ……初めて仲良くなった人なんだよ。そんな……いきなり倒すなんて僕には……できない!」
「あらら〜、優しさが裏目に出てしまったですね〜。まぁ、そりゃあ今までほとんど仲良い人なんて、凜音ぐらいだったんですからね〜」
「まぁ……仕方ないが……それを戦闘に持ってきていいかと言うとそれは別の話になると思うがなぁ……」
(なぜ、私に優しくするんだ……そんなこと……今まで誰もしなかったのに……なぜ最後の最後、自分が死ぬかもしれない時に……)
●
私は自分の親の名前も顔も知らない。気がつけば私は売られていた。名前なんてなかった。
5歳の時だ、私は全く知らない人に売り飛ばされた。買ったのは中年の男だ。
美紅と言う名前は病気で亡くなった妻の名前らしい。名前をもらえた時は素直に嬉しかった。
でも、そこからは地獄だった。
毎日のように重労働をさせられた。
食べる寝るそれ以外は基本労働であった。ミスしたら鞭で叩かれる。お陰で背中が傷まみれであった。
365日これがなかった日はなかった。飯の時間があったが、白米は茶碗一杯もなく、おかずは沢庵3つが当たり前であった。
寝るところは布団はなく、畳の上であった。
運命が変わったのは5年が過ぎた時であった。
私が10歳の時である。"宝石十二の王"が私が住んでいた街を襲った。当然、私のことを買って奴隷のように扱ったあの男も、簡単に殺された。
その村で生き残ったのは私だけだった。その村を崩壊させたのは当時NO.5だったサファイアだった。私はサファイアに結局引き取られた。
またも地獄は続いた。
前よりかはかなり楽になった。だが地獄が続くことは変わりない。
鞭で叩くと言う行為が無くなっただけであり、訓練時間は一切変わらない。
飯の量は前よりも減り、白米のみとなった。それも1日2食である。
寝床は布団があったが、1人ではなく、10人で1部屋という感じであった。牢獄のようだった。
それからまた7年の歳月が過ぎた。
私は"宝石十二の王"のNO.2まで登り詰めた。今までと世界が変わったがこの地位はあまり好きではなかった。
何人もの人が私を殺しにやってくる。その度に人を殺してしまう。殺さなければ逆に自分が殺されてしまうから。殺した後、罪悪感しか残らない。私に殺された人にも家族だっているはずだから。
そして今日、私は逃げ出した。地位を捨ててまで私は自由が欲しかった。人は殺したくなかった。
追手に囲まれた時は私の自由はこれまでと思っていた。まさか、あの場で助けてくれる人がいるだなんて思っていなかった。
人間なんて、自分のことで精一杯。他人が事件に巻き込まれていたとしても、それを見て見ぬふりするそういう種族だとそう思っていた。
だが、彼は違った。見ず知らずの私を助けたのだ。人に優しくされるなんて初めてだった。純粋に嬉しかった。
だが、結局あの後、追手に見つかってしまい望んでいた自由はなくなった。
そして、私は助けてもらった人と戦うことになってしまった。相手に一発ダメージを与えてしまった。胸が痛い。今すぐ戦いを辞めたい。
けど、戦わなければ私が殺されてしまう。そう思っていた。
永遠に続く戦いなどない。たった今、決着がついた。もちろん私の負け。自分はもう死ぬことを覚悟した。
しかし、私を助けてくれた少年は私のことを殺そうと一切しない。それどころか、私のことを仲の良い人だからという理由だ、驚いた。
ぶつかって、助けられて自己紹介をしただけの相手。それに、私は相手の事を殺そうとしたにも関わらず、彼は殺したくないと涙を流した。
こんな聖人私は見たことがなかった。
●
しばらくこの時間が続いた。しばらくするとサファイアが立ち上がり、何かの準備をしている。
「茶番か……?この試合は……?2人もろとも私が殺してあげようではないか……水の歯車・水の波動」
サファイアの手から大きな水の波動が押し寄せてくる。速さは異常だ。
拓也は自分の人生がここで終わるも思い、目を瞑った。
「あなたは……生きるべき人間です……その優しさはあなたの武器です……優しさをどうか……失わないようにしてくださいね……」
ルビーの鞭が拓也を包み込み、拓也は鞭によって空中へと放り投げられる。
拓也はルビーの方を見る。するとルビーは笑って拓也に感謝を述べた。
「黄桜くん……ありがとう! 私に人の優しさがこんなにも、素晴らしい事を教えてくれて……」
「大空さん!!」
サファイアの水の波動は一瞬にしてルビーの腹を貫通した。その場で倒れ込むルビー、もちろんもう息はしていない。
拓也はサファイアに対して激しい憎悪を抱いた。
「サファイアァァァ! お前だけは、絶対に俺が殺してやる!」
すると、サファイアは深い溜め息を吐き拓也の方を見る。
「殺してやる……? 冗談は発言だけにしておけ……断言してやる……100%お前が勝つことはない」




