2-015 生成成功……?
ルビーは思わず、拓也に対してつい本音を口走ってしまった。
「それにしても……あなたそんなに強くはないように見えますねぇ……まずは手始めに緩めに行きますね……」
と持っていた鞭をブンブン振り回す。
(歯車を使えないのかな……いずれにせよ……歯車を使えば僕にも十分勝ち目があるはず……アメジストを倒した時のように……)
「光の歯車・光速移動」
(よし...相手の後ろまで来れた……!後は斬るだ……あれ……バレてる?)
拓也が後ろから斬ろうとした時、既にルビーは拓也がいる方向へと向いていた。まるで拓也の行うことを予知しているように見える。
「遅すぎではありませんか?こんなものが光速移動だなんて……呆れて何も物が言えません……これはきついお仕置きが必要ですわね……ふん!」
少し距離を取ろうとする拓也に対してルビーは持っていた鞭で拓也の左太腿に打つ。鞭からは出される音とは思われない程の鈍い音が聞こえた。
「ぐはっ……なんだこの重さは……」
痛みに耐えれなかった拓也は地面にひれ伏す感じとなった。
そこにルビーが近づいてくる。顔を足で踏まれる拓也。ルビーが見下す感じで言う。
「あなた……本当に弱いのですね……その実力でよく逆賊討伐軍に入ることができましたねぇ……」
ポイ捨て煙草の火を消すような感じで、顔を踏まれる拓也。僅かな力を振り絞って、左手に持っている剣でルビーに攻撃を仕掛ける。拓也の剣はルビーの足に刺さる。痛みにより拓也の顔から足が離れる。
(今のうちに……足は痛むが……)
「光の歯車・光速移動」
凜音がある岩のところまで何とか逃げることができた拓也。ルビーは怒る。
「よくも……足を刺してくれましたわね……いいわ……本気であなたを潰しに行きます。炎の歯車・憑依……怒りの炎を鞭と共に弾けなさい!」
先ほど拓也の足に強烈な痛みを与えた鉄の鞭が火打ち石のようにだんだん熱くなっていることがわかる。
そしてその鉄から炎が現れた。ルビーの鞭はかなりの勢いで燃えている。
「さっきよりも痛ーいお仕置きをあなたに差し上げます! もちろん逃げはなしですよ……」
と地面に鞭を叩きつけるルビー。鞭の先端が地面に触れた瞬間その部分から真上に炎柱が飛び出てきた。
(さっきあの鞭を受けた時……とんでもない痛みが体中に走った。つまり、一度でもあの鞭に当たってしまったら、そのまま炎の柱の餌食になるのは間違いない……」
「さーて、次はあなたに当てますね。逃げないでくださいよ……」
その時、火山内部に雅が入ってきて、外が噴火したことを告げた。
「雅さん、危ないです! 下がっていてください」
「あらっ……よそ見をするなんて……かなり勝つ自信があるんですね……ふん!」
「し……しまった」
拓也は走馬灯を見た。自分はここで死ぬのだと確信した。凜音が援護をしてくれた。
「氷の歯車・生成……壁」
凜音の生成した氷の壁のおかげで、鞭は食い止められた。氷の壁は鞭に直撃した後、真下から現れた炎の柱によってすぐに溶かされた。
「拓也王子!こっちのことはいいんです!戦っていることを自覚してください!」
拓也は久しぶりに凜音に怒られた。が、凜音の言っていることが間違いなく正しいので心の中で猛省した。
「凜音、申し訳ない!再び戦いに集中する!」
(どうする……どうする……どうすれば良いんだ。何か突破口を開かなければ……勝ち目なんて見つからない)
とこう考えている間も、ルビーの攻撃は止まらない。拓也がなかなか当たらないことに苛つき始めたのか、いきなり攻撃をやめた。
「もういいです……1箇所を当てることに集中しすぎたから当たらないんですね……ならば、闇雲に打たせていただきますね。炎の歯車・壱式……大蛇のうねり……!」
目に止まらぬ速さで地面に鞭を打ちつけるルビー。拓也は一旦下がる。
すると先ほどいた場所にルビーの鞭が当たり炎の柱が噴き出てきた。
(ぎゃぁぁぁぁ! 危なすぎるダロゥ! こんなの近づけないじゃないか……余計突破口が開かなくなった気がする……)
「拓也王子、ちょっと……」
凜音と雅に手招きされてそちら側に向かう拓也。もちろんルビーは鞭を打つことに集中しすぎて気づいていない。コソコソと向かっていく。
「拓也王子、今こそ"生成型"を使うんです!」
「"生成型"って……そんな簡単にできるのか?? 凜音も雅さんも今まで簡単にやっていたが……」
「大丈夫ですよ〜。なんて言ったって……光速移動を何回も使えているんですから……そこからもう少しだけ集中して頭の中で具現化してみてください〜。そしたら生成完了ですから〜。では御武運を……」
(とは言われたものの……何の武器を具現するべきなのかイマイチピンと来ないんだが……)
と考えているとあることを思い出した。アメジストとの戦いである。
(そうだ、弓があるじゃん! 近くがダメなら遠くから攻めればいいのか! けど、弓で戦えば良いとしたとしても、僕に生成できるほどの力はあるのだろうか……)
「光速移動よりも集中……!! 弓を作る……弓を作る……」
集中するためか思わず声が出てしまう拓也。凜音と雅は岩の付近からじっと見守っている。
「光の歯車・生成……弓!」
すると、出てきたのはふにゃふにゃの弓である、原型を留めていなかった、打つことでさえ困難である。拓也は失敗した弓を地面に投げつけた。
急いで凜音と雅のいるところへと向かう。凜音と雅は笑いを堪えることに必死であった。
「凜音! 僕の生成した弓は原型を留めていなかった。一体どうすれば良いんだ」
「拓也王子! 失敗を付き物ですよ、ブフォ」
笑いの限界が来てしまった凜音。それに釣られて笑ってしまった雅。
「いや〜、いくら失敗が付き物とは言いましても〜。あんなフニャフニャの弓を見たのは初めてだったのでね〜、つい……ブフォッ。すいません、素直に笑って良いですか〜?」
「笑って良いからさ……アドバイスをくれよ……」
「では、私からアドバイスを……生成したいものを頭の中でイメージするんです」
思わず言葉が出なかった拓也。それもそのはず、イメージすることは1番最初に言われているからだ。
「いや……それさっき聞きましたよ……雅さんから」
「いえ拓也王子。はっきり言ってこれ以外アドバイスすることがないんですよ……」
「とりあえず、もう1回……生成してみるよ」
「頑張ってください。私も雅もあなたのことを応援していますよ」
早速さっきと同じところに立ち、再び同じことを行った。
「光の歯車・生成……弓!」
すると、先ほどよりもかなりひどい弓が生成された。
(……そこは成功する流れだろー!!)
と思いながら弓を地面に投げつけ今度は勢いよく何度も踏みつけた。
雅と凜音はもはや笑いを堪えることなく大爆笑していた。
(本当に俺は……弓を生成できるのか……)
不安になる拓也であった。




