取り敢えず撤退で
さて、フェアリーウェブのゲームについて話をしよう。
普通のゲームでは職業、つまりジョブを選択してレベルを上げるのが定番だが、フェアリーウェブにはジョブレベルはない。
全てスキルレベルで管理されている。
けど、第一章をクリアすると第二章の冒頭で国王より巫女の名を頂く。
その時のスキルの状態により『癒し』『聖なる』『光』と名称は変わるのだが。
多分それがジョブ名になるのだが、それまではただの村娘だ。
そして、それでも職業レベルとかはないのだ。
つまり、巫女とはぶっちゃけ称号なのだ。
そう。
ただの称号。
ついたからと言って何かある訳でもないし、何かの技とか恩恵があるわけでもない。
だからレオ達が言っていた事は当たっている。
私のしていたゲームにレベルと言う観念は基本的にないからだ。
全てのスキルの熟練度等の数値はあるけれど、私個人のレベルはない。
強くてニューゲームはクリアした時に持っていたスキルの熟練度やアイテムなどがそのままでゲームスタートになる。
つまり、二週目からは楽にゲームを楽しめると言う訳だ。
そして、何故私が本来なら簡単にクリア出来る第一章をあえてクリアしていなかったかと言うと、第一章でボスを倒す前に主人公の幼馴染が主人公を庇って死んでしまうシーンがあるのだ。
いつも意地悪ばかり言っていた幼馴染。
第一章のボス直前に敵側の中ボスが捨て身で主人公に襲い掛かるシーンがある。
その時、主人公を守る為に死んでしまう幼馴染。
喪女と言われた私でも「こいついつも悪態ついていて憎らしいと思っていたのに何てしおらしいヤツだったんだ。身を呈して好きな女の子を守るだなんて、なんて健気なんだよ」とキュンとさせられたのだ。
もしかして、主人公が強ければ死ななかった?と思っていた時に、ネットの中で「主人公が強いと幼馴染は死ななくて良かった」と言う書き込みを見つけ、私はそれを信じてスキル上げに勤しんだ。
何年か前にあれは嘘の書き込みだと知人に言われたけど、既に何年もスキル上げに時間を費やしていた私は頑なに「絶対やってやる」と頑張ったのだ。
多分半分は意地だったのだろう。
良くも悪くもカンストしないゲームで、多分今の私ならラスボスを1ターンです倒せるだろう。
それくらい強くした。
「ゲームによっては吸血鬼の眷属にされても元の人に戻るものもあるよね」
「逆にないものもあるよ」
「1日以内ならとか、特殊なアイテムが必要とか条件があるのもあるよな」
皆ボソリボソリと意見を言うが、何の解決にもならない。
「あの、先程の方達の中にはプリーストや白魔術師もいましたよね」
私の言葉に全員が沈黙する。
だって、普通に考えて抵抗出来る魔法やスキルがあれば使っているよね。
「つまり、この世界の吸血鬼の弱点が今の所解りません。皆さん一旦ここを離れませんか?」
あの集団と殺り合うのは正直嫌だ。
だって、さっきまで一緒にいた人達なのだから。
それに、ついさっき最後の一人も眷属にされてしまった。
「私達が集団でここにいる事も分かる可能性もあります」
あくまでも仮説の域だが、ここは撤退しかないだろう。
私の言葉にエミリーも苦虫を噛み潰したような顔をしながら頷いた。
お読み頂きありがとうございます。
また読んで頂けたら幸いです。