タコの刺身
バシャハジャと音を立てながら移動する私達。
ただでさえお腹がすいているだろうラゴスは「だめだ、これ以上歩けない。レオ、おんぶ」と駄々を捏ねている。
それに対してのレオは辛口対応に徹していて、聞いていて面白い。
まるで漫才コンビだと思える程に受ける。
水の中を歩くのは、いくら浅瀬だとしても大分体力と言うか、HPを消費する。
わたしでも何気にHPが10も減っていた。
代わりに体力が1上がり。
何故か忍耐も1上がっていた。
この世界に来ても自分は成長出来る事が正直嬉しい。
もともとやり込み派の私としては、やった分だけ成長するのは、とても励みになっていた。
頑張るぞ。
オーだ。
「おし。着いた」
ラゴスが背伸びをする。
そして、直ぐ様レオに絡み付き「タコタコ」コールだ。
「刺身にして食べるにしても、何も付ける物がないからね。いっそのこと蒸すとか焼くかな?でも、やっぱり味は大切だよね」
確かに、色々と器用に魔法を使うレオなら蒸す、焼くは簡単だろう。
けど、やはり味は大切だ。
それほどグルメでない私からしても、塩味位は欲しい。
「そう言えば、ユイのやっていたゲームに調理スキルがあったよね。あれって今使えるかな?」
レオは良いことを、まさに今閃いたと言うように聞いて来る。
「まぁ、確かにあったけど。材料がないと……」
念の為コマンドを開いて料理スキルを探す。
今、調理可能な物は……
切る……タコの刺身
焼く……タコの丸焼き
蒸す……タコの蒸し焼き
が可能料理として出ていた。
「出来るようだけど、三品だけだよ」
一応言っておく。
「じゃあ、その三品でお願い出来るかな?ラゴスほどじゃないけど、僕もお腹が空いちゃって」
困ったように言うレオにグッとくる。
「分かったわ。やってみるね」
そして、コマンドから最初はタコの刺身を選択。
「レオ。タコの刺身を作るからタコお願い」
コマンドを操作しながらお願いすると、レオが「『摘出』」と言うと、右手に大きなタコの塊が現れた。
「では『タコの刺身調理開始』」
私の言葉にレオの持っていたタコが宙に浮き一口サイズに切られて行く。
その脇で落ちていた貝が一瞬粉々になったと思うや刺身皿に形を形成して行く。
そして、海水が浮かび海藻等を巻き込んでグルグルと宙に舞う。
パァンと音がしたと思ったら、砂浜の上に綺麗に3つのタコの刺身が箸と共に並んでいた。
それも大盛で。
「な……何これ?」
ビックリ何とかだよ。
私が驚いている脇で、ラゴスが勢い良く刺身皿に飛び付いた。
「旨い。あ~タコのこのプリプリしたところがたまらない」
勢い良く食べるラゴスに危機感を感じてしまった。
このままでは自分達の分まで食べられかねない。
察した私とレオも急いで刺身皿を手に取る。
ぱくりと一口タコを醤油に付けて食べると、ラゴスの言う通りプリプリ感が半端ない。
「旨い。私もこんなに美味しいタコは初めて」
噛めば噛むぼど甘味が増して美味しい。
地球にいた時に上司の奢りで一度だけ料亭で食べた刺身が美味しいと思っていたけど、これはそれ以上だ。
何でこんなに美味しいのか?
醤油も濃くもなく薄くもなく、古臭い味もしない。
旨い。
本当にそれに尽きた。
「あ……料理レベルが」
黙々と私の隣で食べていたレオが驚いた顔でそう言う。
私も思わず料理を確認すると
タコの刺身:レベル99
HP回復10000
MP回復5000
そうだった。
あのゲームは料理レベルは99でカンスト。
あのゲーム唯一レベルがカンストする項目だ。
だから、これ以上は上がらなかったんだ。
まぁ、切る料理はレベル上げに向かないからカンストした時点で作るの止めたんだけどね。
そして、そんな事をかんがえている脇で益々元気になるラゴス。
正直に言えば切るだけの料理は回復力が少ないのだが……こんなに回復するとか……これってちょっとヤバくない?
そう思ってしまった。
お読み頂きありがとうございます。
また読んで頂けたら幸いです。




