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幼なじみが幼なじみに負けないラブコメ。  作者: 窪津景虎
転・重なる唇、繋がる身体
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入浴、せめて身体だけでも綺麗でいたい

期間が開いた割に内容が短めで申し訳ございません。

 ずぶ濡れになったせいで髪の毛に雨の匂いがこびり付いていた。

 地面に這いつくばったせいで制服に土の匂いがくっ付いていた。

 汚れたせいで身体からあたしの匂いも、大好きな大和の匂いもしなくなった。

 汚れたせいで自分が醜くなった気がした。

 それがすごくすごく嫌で、すごくすごく不安だったから。

 だから、あたしはシャワーを浴びる。

 自分に着いた嫌な匂いを洗い流すために。汚れたあたしを綺麗にするために。

 今は少しでも気持ちを落ち着けたい。

 一人きりになって。

 それに汚れた身体じゃ大和に会えないから。

 大和の前では綺麗なあたしでいたいのよ。

 綺麗じゃないと宝物になれない。

 汚れた制服も濡れた下着も全部一緒に洗濯ネットにぶち込んで、八つ当たり気味に乱暴な操作で洗濯機を回す。

 匂いを消すために洗剤も柔軟剤も普段より多めにぶち込んだ。

「はぁ……マジ最悪」

 雨に濡れたのは誰のせい?

 地面に這いつくばったのは誰のせい?

 汚れたのは誰のせい?

 決まってる。あたしが悪いんだ。

 あたしは悪い子だから。

 あたしはみんなのリーダーで恨まれ役の船長キャプテンだから。

 海賊は悪役。人から恨まれるのは当たり前。

 リーダーは責任をとるべき。船長はみんなの意見を聞くべき。

 みんな揃ってあたしが悪いって言うから間違いなくあたしが悪いんだと思う。

 でもさ、本当にあたしが悪いの?

 あたし“だけ”が悪いの?

 みんなだって悪いよね?

 あたしのせいにして責任から逃げてるんじゃないの?

「……またケンカしてた、か」

 独り言を呟いていないと気分が落ち着かなかった。

 頭の上から降り注ぐシャワーが冷えた身体を髪の毛先からつま先まで温めてくれる。

「……ケンカするほど仲が良いとか、絶対嘘でしょ」

 顔を上げるとシャワーのお湯が身体を伝ってジャバジャバと排水口に流れていく。湯気で曇った鏡を指で擦ると自分の顔がボンヤリと映った。

「美未のやつ、何もビンタすることないでしょ。あざになったらどーしてくれんのよ」

 鏡に映る自分の頬がわずかに赤くなっているのが見えた。

『ここは喧嘩両成敗で済ませたいんッスけど……それだとウチの腹の虫が治らないんッス。いやー悪いッスねーひめちゃん』

 まぁ、あの言動からしてだいぶ手加減してるみたいだったけど。

「……ほんと、仲間クルーは大切にするんじゃなかったの?」

 シャイニー海賊団の家訓その2、仲間クルーを大切にケンカせず仲良くしましょう。

 その家訓は間違いなく守られていた。守られていたはずなのよ。

 せんせーのおかげで。

 シャイニー海賊団が解散するまで。ルールはキチンと守られていた。

 でも、目に見えない問題もやっぱり少しはあったみたい。

 不満とか、わだかまりとか、そういうモヤモヤとした面倒なことが。

 大和もそうだし、伊織とかも、他の子も、肝心な時に言いたい事を言わないから。

 不満があるなら言って欲しいし、悩みがあるならちゃんと相談して欲しかった。

 持ってる爆弾が爆発する前に。

 リーダーのあたしに。

 だから。

 だから、あたしはあの時に自分の家訓と一緒にある“ルール”を作った。

 シャイニー海賊団の家訓その3、何かあったらみんなとせんせーに相談しましょう。

 何かはつまり何でもありって意味で、嫌なこととか、悩んでいることとかも「何か」にちゃんと入っていたはず。

 何かがあったはすでしょ。その前にも。今までにも。

「……どうしてよ」

 どうして爆発するまで何も言ってくれないの?

 ちゃんと言ってくれなきゃ分かるわけないじゃない。

 あたしは『アンタ達』みたいに頭が良くないって──昔から知ってたはずでしょ。

 アンタ達は。

「どいつもこいつも、いまさら恋敵ライバル宣言とか遅すぎんのよ……」

 マジ空気読んでよ。

 あたしと大和が両思いなの、そばで見てれば分かるじゃない。

 どうして諦めてくれないの?

 どうして──。


部長キャプテンってさ、おーみと付き合ってんの?』


 ──ああ、そっか。

 聞かなくても分かること、確かにあったわね。

『アタシさ、おーみのこと気になるんだよね』

 つまりそれは“そういうこと”なんでしょ?

 あの時、あたしは『さっちゃん』に何て答えたんだっけ?


「……大和はただの幼なじみだからって言ったんだっけ。あたし、相当な馬鹿じゃん」


 あの時に嘘でも付き合っているって言えば。

 あんなこと、しなくて済んだのに。

『アタシさ、おーみのこと、ケッコー気に入ってるんだ』

 中三の春、あたしは他人の告白を影で盗み見した。しかも人を何人か引き連れて。

『ごめん。俺、他に好きな人がいるんだ』

 その好きな人があたしだって、その時はどうしても思えなくて。

 どうしても自信が持てなくて。

 どうしても自分から告白出来なくて。

 大和の好きな人はあたしじゃないかもしれないって思って。

 だから。

 だから、あたしは。

 いじめを自作自演する事を思い付いてそれを決行した。

 大和の気を引く為に。不安な気持ちを取り除く為に。

 少しでも大和に自分を見てもらうために。

 ──そうね。

「アンタが言った通り、あの時はすごく、気持ちよかった」

 好きな人が自分だけに優しくしてくれるあの優越感にあたしは酔っていた。

 酔っていたからゴボゴボと深い場所まで沈んでいって──そして、最後は溺れちゃったんだ。

「ははっ。羨ましいでしょ? アンタ達には“絶対”あげないんだから」

 あの気持ち良さをもう一度味わいたい。今度は心だけじゃなくて身体でも。

 あたしはワガママだから。独り占めしても悪いとも何とも思わないから。

 そんなワガママで悪い子のあたしを大和は許してくれた。

 ちゃんと許してくれた。どんなに離れ離れになっても。どんなにあたしを恨んでいても。

 一度あることは二度ある。二度あることは三度目もある。なら、次もちゃんと仲直りできる。

 大和はあたしが好き。あたしは大和が好き。

 何があってもそれだけは変わらない。

 大和はあたしのワガママを褒めてくれる。

 それが答えなのよ。

 そうよ。『宿題の答え』はもう解けているんだから。あたしはあの瞬間に答えにたどり着いた。

 幸せの王子を幸せにする方法。せんせーから出された最後の宿題。無くした宝物を取り戻すたった一つだけの答え。

「そうよ。足りなかった最後の欠片ピースは『それ』だったのよ。宝物は一つ有れば十分なんだから」

 答えが分かった。なら、ちゃんと答え合わせをしなくっちゃ。

 誰にも邪魔されない大和とあたしだけの居場所で。

「今度はあたしが“傷付く番”だから身体は念入りに洗わないとね」

 お気に入りのボディソープで念入りに。身体の隅々まで。誰にも触らせないでずっと大事にしてたデリケートな部分も。

「あははっ。やっば、処女卒する覚悟が決まったらなんだかテンション上がってきた!」

 心は決まった。後はちゃんと準備するだけ。

「ふーんふーんふーん♪」

 明日の夜、あたしは大和と結ばれる。

本編とは関係ありませんがキャラ名の元ネタであるデ○モンの劇場版ラスエボ絆が本日公開されました。


仕事に余裕があれば劇場に足を運んで……無理だった。

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