看病? このお姉さんが過保護すぎる
書きたかったシーンを終えてしばらくの間燃え尽き症候群になっていました。二ヶ月近くも更新を遅滞したことをお詫び申し上げます。
時刻が夜の七時を回ると、リビングには空腹感を刺激する美味しそうな匂いが立ち込めていた。
「はい、坊っちゃま。あーんでございます」
ずいっと差し出されたスプーンに入っているかき卵雑炊(玲奈さん特製)と満面の笑みを浮かべる玲奈さんの顔を交互に見比べて俺は一言だけ呟いた。
「……あの、お気遣いはありがたいのですが……自分で食べられるので大丈夫です」
いかにも他人行儀な口調で美人お姉さんからの「はい、あーん」をやんわりと断る。
「……はっ!? 申し訳ございません、坊っちゃま。玲奈が至らないばかりに坊っちゃまにご不便をおかけしてしまいました」
ふー、ふー、と。
ホカホカと湯気が立ちのぼるかき卵雑炊(美味しそう)に美人お姉さんの吐息がかかる。
「はい、坊っちゃま。あーんでございます」
ちょうど良い温度になったかき卵雑炊を再び俺の口元に持ってくる玲奈さん。
「…………」
うん。どうしよう。玲奈さんがこちらの意図を全然読みとってくれない。
あの場で帰らせるのも何か違う気がして──とりあえず家に上がってもらったけど。
玲奈さんに対する身の振り方というか、接し方が分からない。
どうすればいいのだろう。
まさか我が家で夕飯を作ってもらえるなんて。
解せないというか。なんていうか。
そんな温情が許されていいのだろうか。
あの家を出てから六年以上も経っているのに。
俺はもうあの家の子では無いはずだ。
玲奈さんも俺のせいで──。
「……やはり、雑炊よりもチュルチュルしたおうどんの方がよろしかったでしょうか?」
沈痛な面持ちで玲奈さんは言う。
「申し訳ございません。玲奈が不出来なばかりに坊っちゃまに“また”ご不便をおかけしてしまいました」
「…………」
その申し訳なさそうな顔が昔の記憶に残る世話係の顔と重なった。
昔からそうだった。
何も悪くないのに謝ってばかりで。いつも泣いていて。
「暫しお時間を下さい、すぐに作り直してまいります」
俺は雑炊を下げようとした玲奈さんを手で制止する。
「……何言ってるんですか。俺、もう一度玲奈さんの料理が食えて嬉しいです」
この人は相変わらず昔のままだと思った。
「せっかく作ってもらったのに食べないなんて、勿体ないお化けに祟られますよ」
「坊っちゃま……」
玲奈さんの垂れ目気味な瞳から薄っすらと涙が滲み出ていた。
「ありがとうございます。玲奈は坊っちゃまの御心遣いに感無量でございます」
しみじみと感傷に浸る様子の玲奈さん。滲んだ涙を自前のハンカチでさっと拭き取る。
「では、坊っちゃま。あーんでございます」
過保護な給仕が再び実行された。
「いえ、そういう事ではなくて」
「…………?」
キョトンと愛らしい感じに小首を傾げる玲奈さん。
「……坊っちゃま。何か御不満があるのでしたら遠慮なく御指摘して下さい。玲奈は坊っちゃまのためなら何だって叶えて差し上げますよ?」
「…………」
やっぱり伝わってなかった!
何故なのだろう。
この歳になれば人から食べさせてもらう行為がもの凄く恥ずかしいって普通に考えれば分かると思うんだけどなぁ。
「いえ、自分で食べられるので……そういうのはちょっと……」
二度目の断りに玲奈さんは。
「何を仰りますか! 御病気を患っている坊っちゃまにスプーンを持たせるなんて……そんな酷い仕打ちを黙って看過ごすなど玲奈にはとても出来ません!」
そう言って俺の側にジリジリとにじり寄ってきた。
「さぁ、坊っちゃま。御遠慮なさらず玲奈にうーんと甘えて下さいね」
さぁ、さぁとスプーンだけでなく身体までグイグイと迫ってくるこの状況に既視感めいたものを覚える。それはやはり、この女性が俺の世話係だった証拠なのだろう。
「差し支えがなければ昔みたいに玲奈の事を『ねぇね』とお呼びして頂いてもよろしいのですよ? いえ、むしろ呼んでください!」
「…………」
こう言っちゃ失礼だけど。
当時の俺は子供心ながら、この過保護な接し方をありがたいと思う反面で時々、玲奈さんをちょっとだけウザいと思っていた。
玲奈さんの人物像を俺の目線で簡潔に説明するなら『実の家族よりも家族らしい触れ合いをしてくた相手』が妥当なところだろう。
実の母親よりも母親らしく。実の姉よりも姉らしく。
とにかく世話焼きでとにかく優しい人。
運動会とかの行事ではカメラ片手に誰よりも無邪気にはしゃいで熱心に応援していた人。
歳上の癖にけっこう泣き虫で、その割に人前でコロコロと良く笑う。
そんな玲奈さんが意外と頑固な一面があることを俺は知っている。
「さぁ、坊っちゃま。どうぞ御遠慮なさらずに。はい、あーんでございます」
「…………」
過去の経験則から察するに、こっちが折れないと終わらない押し問答が始まる。そんな予感がする。
「……分かりました」
こんな恥ずかしい事なんて新婚婦でもやらないだろうと思いながら恐る恐るカパッと自分の口を開ける。
「あ、あーん」
「はい、あーんでございます」
パクリと。
雑炊を口に含み、無心になってそれを咀嚼する。
「…………」
うん。美味い。
しっかりと出汁が効いているから薄い味付けでも美味しく食べられる。
塩分に気を遣った味付けに懐かしさを感じる。
雑炊は美味いけど。
「……はぁ、スプーンを咥える坊っちゃまは雛鳥みたいで大変愛くるしゅうございますね」
食事中にそんな熱視線を向けられると普通に食い辛いんですけど!
「……ふぅ。やっぱり坊っちゃまは可愛いです」
ポツリと悩ましい溜息を漏らす玲奈さん。
「はい、坊っちゃま。もう一度あーんでございます」
食べ終わると次を口元に運んでくるので玲奈さんにされるがままの状態だった。
「あ、あーん」
気不味い。顔と背中がチリチリと燃える様に熱い。
高校生になった男が大人のお姉さんに甘やかされている。
控えめに言ってめちゃくちゃ恥ずかしかった。
そんな羞恥心に堪えながら食事をしたせいか、俺はすっかりとこの過保護な状況に流されていった。
この場の支配権は完全に玲奈さんが握っている。
「はい、ちゃんと全部召し上がりましたね。上手に食べられて坊っちゃまは大変御偉いですよ」
ただ雑炊を平らげただけで褒められるこの感じも懐かしいというかなんていうか。
「それでは坊っちゃま。食後のデザートとお薬の時間でございます」
そう言って玲奈さんはいそいそと錠剤を包む幼児向けのゼリー薬品とリンゴを運んで来た。
「はーい。坊っちゃまはお薬上手にごっくん出来るかなー?」
その言葉で薄っすらと昔の記憶が呼び覚まされるのは、やはり過去に同じ事を同じ相手にされたからだろう。
あの家に俺を看病してくれる相手は玲奈さんしかいなかった。
「では、お薬を上手に飲めた坊っちゃまにはご褒美のウサギさんリンゴをあげましょう」
ゼリーに包まれた風邪薬も。食後のデザートに出てくるこのウサギさんリンゴも。
何もかも昔のままで。
つい胸を締め付けるこの懐かしさに甘えそうになる。
全ては昔の話。今も同じで良いはずがない。
俺はもうこの人の優しさに甘えられる立場ではないはずだから。
話を訊くなら今しかない。
そう思ったから。
「玲奈さんに聞きたいことがあるんですけど」
俺は食後のタイミングで玲奈さんに質問した。
「今日はどういった経緯で家に来たんですか?」
「経緯、でございますか?」
少し困った様子で玲奈さんは言う。
「そ、それは風の噂で坊っちゃまの容態を小耳に挟んだからでございます」
「…………」
風の噂、ね。
俺が風邪を引いている事をあらかじめ知っていて玲奈さんと面識があり連絡が取れそうな人物は一人しかいない。
「もしかして、俺の看病を伊織に頼まれましたか?」
その質問に玲奈さんは。
「……さ、流石です坊っちゃま。かの高名な日本三大探偵の神津恭介も顔負けの名推理でございます……」
称賛に近い形で俺の質問を肯定した。
「…………?」
うーん。
今の微妙な間はなんだろう。心なしか目が泳いでる気がするけど。
まぁ、いいか。
「いえ、こんなの推理ってほどでもないですよ」
というか、玲奈さんマイナーなところをチョイスしてきたな。神津恭介よりも明智小五郎とか金田一耕助の方が有名だと思うんだけど。
一番の有名どころは江戸川コ〇ン……とは言わない。
「経緯は分かりました。分かりましたけど……」
まだ俺の中に大きな『わだかまり』が残っている。
「どうして来てくれたんですか? 俺はもう“あの家”の人間ではないんですよ?」
それに俺は──。
「俺が家出したせいで玲奈さんは使用人を解雇されたんですよね? なのに──」
そう言い掛けて。
「それは違いますっ!!」
玲奈さんの大きな声に遮られた。
おっとり気質の玲奈さんにしては珍しく覇気のある声だった。
「……申し訳ございません、坊っちゃま。分を弁えずに差し出がましい真似をする玲奈をお許しください」
そう一言断りを入れ、玲奈さんは自分の胸中を語る。
「こう言うと意外に思われるかもしれませんが……玲奈は最初、家令の家系である自分の生い立ちも、使用人のお仕事も嫌で嫌で仕方がありませんでした」
「……え?」
本当に意外だった。
そんな素振りは一度だって見た記憶がないから。
「……そうなんですか?」
「はい。ですから、ある意味で使用人を解雇された事は玲奈にとって喜ばしい事なのです。こういうのは怪我の功名と言えばよろしいでしょうか。お陰様で玲奈は自分が望む職業に従事することが出来ました」
望む職業。
そのいかにもコスプレしてる感じの扇情的なメイド服と何か関係があるのだろうか。
今時コスプレでもそんな胸元が大胆に開けたメイド服なんて見ないけど。
「あの、失礼ですが……玲奈さんのご職業は?」
そう言って。俺の視線が思わず胸元の谷間に吸い込まれてしまう。
「…………」
……ふぅ。良いな。
このロイヤルメイドみたいな衣装エロ過ぎる。こんな服を日常的に着る職業って何だろう。
「はい。今は旦那様の所属する総合病院で看護師のお仕事に従事しております」
「…………」
メイド服、全然関係なかった。
「……あの、ちなみにその服装は?」
「これですか? この服はコスプレでございます」
玲奈さんがおもむろに立ち上るとフェチズムの権化みたいなメイド服のスカートがふわりと宙を舞った。
「私服だと味気がないと思いまして着替えて参りました」
「……あっ、はい。そうですか」
ハッキリとコスプレって言っちゃたよ。
玲奈さんにコスプレの趣味があったなんて意外だ。
「もしかして、坊っちゃまはメイド服よりもナース服の方がお好みでしたか?」
そんな答え辛い質問を俺に訊いてくる玲奈さん。
正直に答えるなら、メイド服もナース服も、どっちも“大好き”です。
大人の制服ってどうしてこんなにも人の心を惹きつけるのだろうか。
働く美人お姉さんは男子の憧れだからそう感じるのかもしれない。
まぁ、そんなゲスな事は口が裂けても言わないけど。
「いえ、そういうわけでは……」
「申し訳ございません、坊っちゃま。普段から着用している地味なナース服ではあまり見栄えしないと思いまして。次回はエロ可愛なナース服も御用意しておきますね」
「いえ、結構です」
「そうですよね。やはり看病するなら王道のガーター付きのミニスカナース服ですよね。分かります」
「人の話を聞いてください」
会話が完全に迷走していた。
シリアスな空気は何処に行ったんだ。シリアスだからメイド服なのだろうか。たぶん違うよな。
「玲奈からも一つ、坊っちゃまに御尋ねしたい事がございますが、よろしいでしょうか?」
「はい。なんでしょうか?」
今なら何を訊かれても大丈夫な気がする。
「坊っちゃまは今でも玲奈を……恨んでいますか?」
「…………っ」
どうして俺は玲奈さんみたいに即座に否定しなかったのだろう。
それは違うと。
「恨むって……一体、玲奈さんの何を恨むって言うんですか?」
俺の言動は受け取る側からしたら白々しい発言なのかもしれない。
それが何か分かってて、わざと相手に言わせる様に仕向けている。これはそう受け取られても仕方がない発言だ。
謝って欲しいだけなんだろ。
本当、俺という人間はつくづく嫌なやつだ。
「玲奈はあの時、大旦那様の行き過ぎた──」
そこから先が想像出来るから。自分の黒さを自覚したから。
「やめて下さい」
もう俺は同じ過ちを繰り返さない。
「……坊っちゃま」
「それは違います」
それを玲奈さんに言わせるな。
「謝らないでください」
……そうだよな。
何も悪くない相手に謝られるのって結構辛いものがあるな。
お前の言う通りだったよ伊織。今度からは俺も気をつけるから。
「……玲奈さんは何も悪くありませんよ」
「ですが、坊っちゃま。それではあまりにも玲奈は大人として無責任過ぎます」
「当時はまだ高校生だったじゃないですか。ちょうど今の俺くらいの歳で、それであの祖父に物言いなんて出来ませんよ」
それに。
無責任な大人は他にもいる。
記憶が曖昧だけどあの家には玲奈さんの他にも何人か使用人がいたはすだ。
父さんだってそうだ。俺が家出するまでその事に一切触れなかった。
みんな、あのクソじじいが怖いんだ。
恨む相手はアイツ一人だけで充分だ。そうだろ。
権力者にはそうそう逆らえないのだから。
だから──。
「ここは一つ、お互いに非があったということで手打ちにしませんか?」
ウザい後輩の言葉を借りるならこれは一種の示談交渉なのかもしれない。
お互いのわだかまりを解消するための。罪悪感から解放されるための。
そのためだけの話し合い。
その話し合いに、和解の場に『ごめんなさい』は相応しくない。
「玲奈さんが居てくれたから今の俺があるんです。だから……その」
一言だけでも感謝の気持ちを。
「あ、ありがとうございます」
玲奈さんに面と向かって『ありがとう』って言ったのはいつの時以来だろう。
そう思っていたら。
「…………っ」
ポロポロと。
「……坊っちゃま、ううっ……」
玲奈さんの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
「ふぇぇぇぇっ……」
嗚咽を漏らしてわんわんと泣く玲奈さん。
「……すいません。何か、気に障りましたか?」
「ひっく。違いまずぅ、坊っちゃまぁ。玲奈はぁ嬉しぐて泣いているんですぅ」
「嬉しい?」
ふと、既視感を覚えた。
昔にもこんな事があった気がする。
「こんなに嬉しいのは母の日に坊っちゃまから『お手伝い券』を貰った時以来でございますよぉ」
顔から色んな水が出てくしゃくしゃになった玲奈さんの顔と『お手伝い券』という単語で頭の片隅に追いやっていた記憶が鮮明に蘇る。
『ねぇね。いつもありがとー。はい、これあげる』
その日の事は憶えている。
母さんが家にいないから代わりに玲奈さんにプレゼントを渡したんだ。
母の日は母さんが家にいないから。
あの時も、その後も、そして今年も。
母さんは家に帰ってこない。日曜日なのに。仕事がないはずなのに。いつも。いつも。いつも。
どうして母の日に限って。
今年もその理由を聞けないまま六月を迎えてしまった。
「男子三日会わざれば刮目して見よとはよく言ったものでございます。坊っちゃまはすっかり心身共に御立派になられました。玲奈はそれが嬉しくて嬉しくて仕方がありません」
我が子の成長を喜ぶ親の様に感慨にふける玲奈さん。
「…………」
立派になった、か。大袈裟な。
「身長以外は一ミリも成長していませんけどね」
変わったのは体格だけ。
むしろ人間性は柏崎姓だった時よりも弱くなっている気さえする。
「御謙遜なさらないでください。もう坊っちゃまは一人前の殿方でございます」
「そうですかね?」
「ええ、これはもう身体の隅々まで『成長した証』をこの目で確認するしかありませんね」
「…………ん?」
何だろう、その含みのある発言。何か嫌な予感がするんだけど。
その後も玲奈さんと何気ない談笑に花を咲かせていると時刻は午後八時を過ぎていた。
「坊っちゃま、この後の御予定はいかがなさいますか?」
「御予定って言われましても……」
特にする事なんてないんだけど。
「ワンちゃんはもうお休みの様ですし。坊っちゃまもそろそろお休みになられてはいかがでしょうか?」
玲奈さんの視線の先には犬小屋があった。
そこにいたのは普段よりリッチな餌で腹を満たし、主人より一足先に夢の世界に旅立った黒くて丸い毛玉だった。
「ワンちゃんにはご飯のついでにブラッシングで毛玉のケアもしておきました。大人しくて大変お利口なワンちゃんでした」
「クロの世話までしてくれてありがとうございます」
「いいえ、ワンちゃんのお世話は慣れていますから」
流石、あの家でも飼い犬の世話をしていただけのことはある。仕事にそつがない。
「玲奈さんもそろそろ休んで下さい。後は自分でやりますから」
「御心配には及びません。お世話をするのが玲奈の生き甲斐ですので」
「そうですか?」
「はい。坊っちゃまのお世話が出来て玲奈は今とっても幸せでございます」
「…………」
使用人の仕事が嫌だと言っていたけど。
やっぱり玲奈さんは人に世話を焼くのが好きな様だ。
そして、時間がさらに経ち、時刻は午後九時にせまっていた。
「ふぁぁ……」
何気なく欠伸をした瞬間、急に視界が霞がかった様にぼやけ始めた。
「…………?」
なんだろう目蓋が重い。
目蓋だけじゃなくて頭も。
俺は唐突に襲いくる睡魔に当惑した。
ただの睡魔にしてはやけに強力な眠気を感じる。
倦怠感のある眠気。不自然なほどの睡眠欲。脱力する手足。
まるで麻酔でも打たれた様な──麻酔?
まさかな。
「坊っちゃまも『おねむ』の御様子ですね?」
「……はい。何か急に眠くなってきて」
「それでは坊っちゃま、寝室に参りましょう。下準備は既に終了していますので」
「……はい。分かりました」
睡魔は人の思考力と判断力を著しく低下させる。
この時の俺は自分の部屋に玲奈さんが勝手に入っているという異常性にまったく気付いていなかった。
ふらふらと、おぼつかない足取りで自分の部屋に向かう。
「それでは坊っちゃま、一緒におねんねしましょう。僭越ながら今夜は玲奈が添い寝を務めさせていただきます」
「……はい。分かりました」
さも当然の様に美人お姉さんの添い寝を受け入れている時点で俺の脳みそは完全に熱で蕩けていたのかもしれない。頭が正常ならその異常性に気付いているはずだ。
「……そういえば、玲奈さん。さっきのくすりって何ですか……?」
薄れゆく意識の中、玲奈さんの顔に目を向ける。その顔には妖艶な笑みが浮かんでいた。
「御安心ください。坊っちゃまに処方したお薬は即効性のある睡眠導入剤でございます」
「すいみんどうにゅうざい?」
「ええ、左様でございます。今回は一般の薬局では取り扱いしていない“強力”な代物を御用意いたしました」
「そう……ですか。どうりで眠くなるわけですね……」
「ええ、そうです。本命の『治療』は坊っちゃまがお休みになられてから始める予定でしたので」
ペロリと唇を舐めて。玲奈さんは言う。
「後はぜーんぶ玲奈にお任せ下さい。今夜は坊っちゃまにたっぷりと御奉仕して差し上げます♡」
玲奈さんは「ふぅ」っと耳に甘い吐息を吹きかける。
「おやすみなさい坊っちゃま。坊っちゃまの身体に溜まった『悪いもの』は玲奈がぜーんぶ搾り出して差し上げますね♡」
御奉仕ってなんだろう。悪いものって風邪のことかな。
俺は薄ぼんやりとそんな事を思いながら、深い微睡みにフッと意識を手放した。
その後俺の身にナニが起こったのかは分からない。
分からないけど。
怪我の功名というか。不幸中の幸いというべきか。
翌朝になりフッと目が覚めると拗らせていた風邪が完全に治っていた。翌日の朝は驚くほどスッキリした目覚めだった。
これも全て玲奈さんの献身的な看病のおかげ。
ゴミ箱の中にある大量の使用済みティッシュ(カピカピ)と銀色の包紙(もしかして座薬?)を見ても結局ナニをナニされたかは良く分からなかった。
だって。
この時の俺は玲奈さんが歳下の少年に性的興奮を覚えるいわゆる『ショタコン』であることをまだ知らないのだから。
これからも三章完結を目指して執筆していく所存です。
急転直下の後半部にご期待ください




