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幼なじみが幼なじみに負けないラブコメ。  作者: 窪津景虎
起・幼馴染、元気ですか?
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確認、彼女は勉強が出来ない

 六月に入ってから数日が経ち、じわじわと蒸し暑さが増していく今日この頃。

 中間考査から日にちが経ち、テストの答案用紙もほぼ全てが返ってきたそんなある日。

 六月三日の夕方。我が家のリビングで対面する俺と姫光。

「なんじゃこりゃ……」

 俺はテーブルに並べられた答案用紙を手に取り、慎重に一枚ずつ目を通した後、トントンと綺麗にまとめてその紙束をテーブルにそっと戻した。

「……ふぅ」

 溜息を一つ。

「……お前、テストの点数は平均点って言ったよな?」

「言ったけど?」

「一応確認するけど、平均値と中央値を間違えてないよな?」

「中央値ってなに?」

「……いや、いい。なんでもない」

 平均値でも中央値でも40点以下はハッキリ言って落第点だ。間違いなく及第点では無い。仮にこれで中央値なら姫光より下にどんだけ馬鹿が大量にいるんだよって話になるし、平均値なら……うん。

 偏差値40台の高校でも流石にそれはない──とは言い切れないな。健もいるし。

「…………ふむ?」

 不思議そうに小首を傾げる姫光。その仕草がたまらなく可愛いけど。可愛いければ全てが許されると思ったら考えが甘い。

「全部だいたい40点だから平均的だと思うんだけど?」

 姫光の口から発せられる謎理論。

「それはお前個人の平均値だろ」

「むぅ。これでも今回は頑張った方なんだからね?」

 不満の声を漏らす姫光を尻目にもう一度だけテストの答案用紙に目を通す。

「頑張ってこれかよ……」

 当たり前だが、二度見しても内容に変化はない。

「だいじょーぶよ。『本番の期末テスト』で巻き返すんだから」

「本番、ね」

 専属家庭教師のお願いを引き受けたのはいいけど。あと一ヶ月たらずで姫光の学力がどれほど向上するのやら。

 正直言って不安しかない。

 というか、なんでお前はそんな楽観的なんだ。

 あまりのテストの酷さと将来的な苦労に目眩めまいがする。なんなら頭痛も追加してくれてもいい。

 予想の右斜め下を突き抜け過ぎて何と言葉を掛けたらいいか分からない。

「お前、よくこれで二年生に進級できたな……」

 ポツリと素直な感想が口から漏れた。

「ふふん。あたしの凄さが分かったでしょ?」

 豊満な胸を張って得意げな表情の姫光。そろそろブラウスのボタンが弾け飛んでもいい頃合いだと思うんだけど……ブラウスのボタンって意外と丈夫に出来てるんだな。

「いや、褒めてねーからな」

 基本的にどの高校でも中間考査では美術、音楽などの芸術科目とか家庭科、保健体育が無い。

 ゆえに姫光の得意分野は期末にならないと発揮されない。

 中学時代も大体そうだったけど。

 中間考査は五教科の成績が浮き彫りになる。基本的な学力を確かめるならタイミング的には丁度いい時期だけど。

 この答案用紙から分かった事はうちの船長キャプテンは相変わらず勉強が出来ないという事実だけだ。

 俺の幼馴染、姫川姫光は勉強が出来ない。

 とはいえ、どこから手を付ければ良いのか皆目見当もつかない。

 五教科のどれか一つでも得意科目があれば良いんだけどなぁ。

「…………」

 ちょっとだけ調べてみるか。

「姫光、ちょっと手を組んでみてくれないか?」

「ん? 良いけど?」

 スッとおもむろに手を伸ばす姫光。

 姫光の色白でか細い指がキュッと『俺の手』に絡みつく。

「…………っ!?」

 衝撃の瞬間だった。

 スベスベしたつやのある爪も指も自分のものとは全然違う。

 小さくて柔らかい異性の手。それが今俺の手に絡み付いている。

 というか。

 どう見ても恋人繋ぎです。本当にありがとうございます。

「あっいや、そうじゃなくて……自分の手を組んで欲しいんだけど」

「ん? なーんだ、そっちの方か」

 気不味い気持ちを抱えて間違いを指摘すると、姫光はふっと手を離して自分の手を組んで見せた。

「はい。これで良い?」

 姫光はずいっと組んだ手を前に出す。

 予想はしていたけど。やっぱ右手が下か。

「OK。次は腕を組んでみてくれ」

「いいけど、腕を組んで何が分かるの?」

「えっとな、分かりやすく言うとお前の『脳タイプ』を調べているんだ」

「ふーん?」

 いまいち理解していない様子の姫光は自分の胸を抱き上げる様にガシッと腕を組んでみせた。

 たゆん、と。

「これで良い?」

 腕で持ち上がる姫光の豊満な胸。腕を組んだことでその豊満さがより一層強調される。

「…………ふむ」

 やはりF。いや、もしかしたらGはあるのかもしれない。

「……ねぇ、もしかして今あたしの胸見てない?」

「っ!? いや、見てない、から……」

「本当に?」

 いぶかしげな表情の姫光。怪しむその視線がジトーっと俺に向けられる。

「で? これでその“脳タイプ”とかいうのが分かったの?」

「……あ、ああ。おかげ様でバッチリ」

「ふーん。じゃあ、教えてよ」

 ここでちゃんとした説明をしないと胸を見るためだけに変なお願いをしたと邪推されてしまう。

「最初の手を組んだやつは自分が脳にインプットする情報を『右脳』で捉えるか『左脳』で捉えるかの診断だったんだ」

「右脳? 左脳?」

「あー……分かりやすく言うと右脳が外部からの情報を『感覚的』に捉えるタイプで左脳が情報を『論理的』に捉えるタイプなんだよ。手を組んで下の方がそのまま左右の脳タイプを表しているんだ」

「ふーん」

 まじまじと、もう一度手を組み直す姫光。組んでいる右手が下の方になっている。インプットする脳、つまり姫光は外部からの情報を感覚的に捉える傾向にあるということになる。

「なるほど、あたし右脳タイプなんだ」

 うんうん、と納得した様子の姫光。

 これで一応は俺の尊厳が保たれたと思う。

「で、結局腕を組む方はなんだったの?」

 再び粘着質な視線を俺に向ける姫光。俺ってそんなに信用無いのかなぁ……。

「腕の方はインプットした情報をアウトプット、つまり外部に出力して表現する脳タイプの診断なんだ。手と同じで右腕が下なら感覚で表現する右脳タイプ、逆なら論理で表現する左脳タイプって感じになるんだ」

「へぇ……」

 自分でも再確認したかったのか、もう一度腕を組んで豊満な胸を強調する姫光。

 控えめに言って眼福しかなかった。

 ちなみに腕は右が下になっていた。

「……………」

 幼馴染からひしひしと無言の圧力が発せられる。

 目が全てを語っていた「さっきからどこ見てんのよ!」と。

「つ、つまりだな、お前は情報を感覚で捉えて感覚で表現する典型的な右脳タイプの人間なんだよ」

「ふーん。まぁ、一応は理解出来たけど。それを確認して何か分かったの?」

「あ、ああ。この診断でお前の得意な分野と不得意な分野が大体分かったんだ」

 この診断から導き出された答えは一つ。

「お前、基本的に“勉強は”向いてないんだよ」

「…………は?」

 俺の発言に苛立ちを覚えたのか姫光が発する声のトーンが若干下がる。怒りの炎がチリチリと燃え始めたのが場の空気で分かった。

「それって何? つまりあたしが馬鹿だって言いたいわけ?」

 姫光は昔から自尊心プライドが高いから。馬鹿にされるとすぐに頭に血がのぼる。

 一応、言葉は選んだつもりだけど……端的に言うと、正にその通りである。

 しかし、本人を目の前にして言えるわけも無く。

「絡むなよ、これでも褒めてるんだからな?」

 誤解すんな、と一言だけ前置きを入れて俺は言う。

「有り体に言うと、お前は芸術家アーティスト脳なんだ。音楽とか美術とか、そういう人間の感覚に訴えかける分野が得意なタイプなんだよ。だから五教科の勉強は向いていないんだ。特に『姫光の場合』はな」

 耳触りの良い単語を並べたおかげか「ふーん。そっか」と怒りの炎を鎮める姫光。

「へぇ、あたしってアーティストに向いているんだ。ふふん。流石、あたしね。やっぱ天才肌は脳から出来が違うのよねー」

「…………」

 やっぱ右右脳型は思考が単調だな。感覚だけに頼って生きているからだろう。人が言ったことは直ぐ真に受ける。しかもそれに加えて血液型がB型だから。

 診断をして改めて思った。

 姫光、マジチョロい。

 いつか特殊詐欺に引っかからないか不安になるほどの短絡思考ぶりだ。

「ん? 結局さ、アンタは何を調べたかったの?」

 おだてられて気分が舞い上がっていた船長は唐突にフッと我に返った。

「ああ、それを踏まえた上でお前にきたい事があるんだ」

 もしかしたら、この『選択』は姫光の将来に大きな影響を与えるかもしれない。

 だからこそ、俺は本人に自分の意思で選んでもらいたい。

「苦手な分野を勉強で“補う”か、得意な分野を勉強で“さらに伸ばす”か、その選択をお前に決めて欲しいんだ」

 はっきり言って全部は無理だから。『教える側』の俺だって人間だし。人間には必ず得手不得手がある。

 俺はどこかの神童だれかとは違うから。

 二者択一。物事の断捨離。頭では分かっているけど。

 それでも俺は──。

「決まっているじゃない。『両方』よ」

 心の何処かで、お前がそう言ってくれるのを期待しているんだ。

 あたしの辞書に不可能の文字は無い、と。

「……確認するけど、会話の趣旨分かってて言ってるよな?」

「もちろんよ。あたしに“不可能”は無いの」

「……そうか、なら、さっきの診断は余計だったな」

「そうでもないわよ?」

 どこか楽しそうな声で姫光は。

「あたしの将来、少しだけ見えた気がするし」

 そうポツリと呟いた。

「……そうか、それは診断した甲斐かいがあったな」

 少しでもお前の役に立てて嬉しいよ。素直にそう思う。

「そういえばさ、アンタの脳タイプはなんなの?」

「…………教えない」

「はぁ? 人には聞いておいて自分は教えないとか意味わかんないんだけど!?」

「別に良いだろ。俺の脳タイプなんて」

「気になるから教えて。じゃないと勉強に集中できないから」

 まぁ、正直な話をすると。

「……ぶっちゃけると、俺も人に教えられるほど“文系科目”は得意じゃねーからな。右脳、左脳で言うなら俺も右脳タイプだよ、一応」

「ふーん。そっか、あたしと一緒じゃん」

「……船長とは一緒にされたくないかなー」

「は? なんか言った?」

「いや、何にも」

 そんな会話の後に、とりあえず教えられる理系教科から勉強を始めたんだけど。

 勉強を開始してからわずか十分後。

「もー、勉強つまんない!」

 そこにはぶーぶーと文句を垂れる姫光おひめさまの姿があった。

「あたし、大和の部屋に行きたい!」

「それは駄目」

「なんで? 前は入れてくれたじゃん」

「入れてくれた、じゃなくて勝手に入ったの間違いだろ。いいから口じゃなくて頭と手を動かせ」

「やーだ。やっぱ勉強嫌い!」

 目の前で子供みたいに駄々をこねる姫光を見てふと思う。

 やっぱうちの船長はワガママで勉強が出来ない子供みたいな女だと。

 先行きが不安というか、前途多難だなぁ、これは。

「ワン!」

 姫光のわめき声に反応したのか、はたまた俺の心情を察したのか、クロが元気にワンと鳴いた。

次回の更新はなる早でいきたいと思います。どうやら自分はイチャイチャ展開だと執筆速度が速くなるみたいです。

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