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幼なじみが幼なじみに負けないラブコメ。  作者: 窪津景虎
EP3 俺と幼馴染が懐古する青春ラブコメ。
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疑問、君の面影に懐かしさを感じるのはなぜ?

「青海くんは知っていますか?」

 朧月の様な虚ろな双眸そうぼうをこちらに向け、月岡さんは俺にこう語りかけてきた。

「狼という生き物は『一匹狼』という言葉のイメージから来る先入観のせいで孤独を愛する孤高の生き物に思われがちですが、そのイメージは実際の狼の生態とはまるで真逆のものなんです」

 塾の掃除がひと段落したのもあるのだろう。月岡さんは気怠げな猫みたいに姿勢を崩して椅子にゆっくりと腰かけた。

 廃墟同然の塾にただ二人だけ。話し相手は俺しかいない。

「狼って仲間想いで家族想いなんですよ。それに生涯の伴侶パートナーを大切にする優しい動物でもあるんです」

 小休憩中によくある何気無い談笑。

「シートン動物記に登場する『狼王ロボ』は創作の話ですが、狼の生態を良く表した物語だと私は思います。ロボのブランカに対する想いは素敵ですけど……やはり、あの結末が狼の孤高なイメージを形作った要因の一つなのかもしれません」

 月岡さんは狼について淡々と語る。

「だから、一匹になる狼は非常にまれな存在なんです。それこそ群を追い出されない限りは」

 すぐそばにいるはずなのに存在感がまるでない。希薄で儚げな色素の薄い女の子。

 出会ってからまだ日が浅いはずなのに。

 そのはずなのに。

 なぜか彼女のまとう空気感とその語り方のせいで自分が『教えてもらう立場』になっている気がする。

 狼の生態なんてとっくの昔に知っているのに。

 なのに、その話に聞き入ってしまう自分がいる。

 廃墟になった塾。先生の面影が重なる月岡さん。

 場所が場所だから、どうしても既視感を覚える。

 これはあくまでも談笑であって授業ではない。

 なのに、胸の内から懐かしさが込み上げてくる。

 自分でもよく分からない。言葉では上手く説明できない不思議な感覚。

 懐かしいという気持ち。

「青海くんは狼みたいな人ですね」

 月岡さんは何を思ってそう言ったのだろう。

「良くも悪くも、青海くんは狼みたいな人なんです」

 君は俺の事なんて何も知らないはずなのに。

 俺は君のこと何も知らないはずなのに。

群れ(グループ)を追放された狼は一体、何処に向かえばいいのでしょうか」

 どうして俺は君に『その事』を話したのだろう。

 俺は人見知りで、人を選り好みする人間なのに。

「群に戻るか、新しい群を作るか、寄り添い会えるただ一人のパートナーを見つけるか。それを決めるのは青海くん自身の選択だと私は思います」

 分からない。

 どうして君はそんなに親身になってくれるのだろう。

 先生の教え子だから、自分に協力してくれる相手だから。そんなちっぽけな理由でここまで親身になってくれるのだろうか。

 考えても答えなんて分からないけど。

 だけど。だからこそ。

 分からないからこそ知りたい。

 君を。月岡天つきおか そらという人間を。

 俺はもっと知りたい。

 先生の娘で、同い年で、背が小さくて、今も弱視ロービジョンであり、白内障はくないしょうからくる昼盲ちゅうもうの影響で日中はあまり目が見えない視覚障害者。

 父親の残した『この塾』を守りたくて、今もこうして健気に掃除している。

 月岡さんはこの塾と先生のために『宝箱』を探している。

 俺の知っていることなんて、精々そんな事くらいだ。

 所詮は赤の他人だから。

 赤の他人だから。だからこそ。

 赤の他人に、ここまで感情移入する理由を──俺は知りたい。

 この感情がただの哀れみからくる同情心なのか。はたまた興味本位からくる好奇心なのか。

 それとも、もっと違う感情が介入した『何か』なのか。

 教えてほしい。

 懐かしいという気持ちが一体何処から来るのか。

 どうして“赤の他人”の君を守ってあげたいと思うのか。

 自分でも分からないこの感情を。

 君のそばにいれば、いつか分かる日が来るのだろうか。

メインヒロイン、セカンドヒロイン、そして満を持して真ヒロインの登場です。三章は物語の方向性を決める重要な決断があります。

でも今回はヒロインとのイチャイチャがメインなのでなるべくストレスフリーな展開で進行する予定です(修羅場を除いて)

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