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幼なじみが幼なじみに負けないラブコメ。  作者: 窪津景虎
承・幼馴染、辞めますか?
33/61

再会、昔は妹分だったあの子

更新が遅れて大変申し訳ございません。

 べつに大和の事を疑っているわけじゃないんだけど。

 でも、どーしても気になるのよ。

 大和が知らない女の子と一緒にいる理由。

 悪いと思っても体が勝手に動いちゃうから。

 あたしは頭で考えるより先にとりあえず行動するタイプの人間だし。

 そーよ。これはいわば義務よ。

 義務であり権利がある。

 十年来の幼馴染として。新生シャイニー海賊団の船長キャプテンとして。

 将来の婚約者フィアンセとして。

 義務で権利だから、あたしは二人を尾行する。全てを知るために。

 だってそうでしょ?

 好きな相手が知らない女の子と楽しそーにお喋りしてるとこ見れば、誰だって気になるもんじゃん。

 地元の駅前で目撃した見慣れた男子と知らない女子の二人組。

 大和が知らない女の子と海浜公園でデートしていた。

 あたしを差し置いて。二人きりで。

 あたしだってまだなのに!

 二人の関係が凄く気になる!

 だから。

 あたしは大和のデートを尾行した。デートの相手が大和にとってどんな存在なのかを知るために。

 物陰に隠れてコソコソと盗み見るように。

 ぱっと見の印象だと、どう見ても恋仲カップルの距離感だった。

 それを見ていたら胸の内がモヤモヤして、肌がチリチリと燃える様に熱くなった。

 あたしはこの感覚を知っている。

 知っているし、覚えている。

 嫉妬。ヤキモチ。焦り。

 好きな相手が他の誰かに取られる不安な気持ち。

 今まで何度も何度も味わった事があるすごーく嫌な気持ち。

 今すぐ飛び出して大和に詰め寄りたいほどの不快感。

 いや、マジでなんなの?

 大和はあたしのことが“大好き”なんじゃなかったの?

 小学一年の時に「一番好きなのはひかりちゃん」って言ったじゃん!

 嫌いじゃないって言ったじゃん!

 あの夜にあたしを抱き締めてくれたのは何だったの!?

 今朝の恋人みたいな雰囲気は演技だったの!?

 全部嘘だったの?

 アンタがそんなんだから──あたしは──。

 あたしは──。

 あたしはずっと大和のこと──。

 ──ほら、まただ。

 また大和のせいにする。

 大和のせいにすると楽できるもんね?

 大和のせいにして何かが解決した事なんて一つもないのに。

 大和は優しいし、頼りになるから。

 ワガママ言っても、怒っても、最後は許してくれるの──知ってるから、そうするんでしょ。

 あたしは甘えるのが好きだから。

 だから駄目なのよ。

 だから失敗するんでしょ。

 だから。

 だから、いじめられる。

 分かってる。悪いのはあたしだって。

 もう止めよう。

 恋敵を尾行して何になるのよ。

 今日のデートは見なかったことにして忘れよう。

 このまま家に帰ろう。

 愚痴って、泣いて、寝て。嫌な事は忘れて、何も知らないフリして。また明日から、もう一度始めよう。

 本人の口から「彼女ができた」って聞くまでは大和のこと諦めたくないから。

 とりあえず今日は大和の家に行くのやめよう。

 会うと絶対喧嘩するから。

 そう思ってた。

「コソコソと隠れてないで、いい加減出てきたらどうですか?」

 尾行に気付かれて声を掛けられるまでは。

「人のデートを尾行とか、悪趣味を通り越して最早ストーカーの所業ですよ?」

 知らない女の子が知り合いだと気付くまでは。

「そうですよね? ひめちゃん?」

 公園から離れて、かなり歩いた場所の、人通りが少ない薄暗い路地裏で、ターゲットの知らない女の子はクルリと振り返ってあたしに声を掛けてきた。

「……何であたしのこと知ってるの? アンタ……誰なのよ?」

 いかにも男受けが良さそうな服装。小柄で華奢な身体つきの女の子。感じからして多分歳下。

 制服を見た感じだと上越国際の生徒だってことは分かるけど。

「酷いですねー。いくらイメチェンして見た目が変わったからって「誰よ?」とか、あんまりです」

 ケラケラと人を小馬鹿にする感じ。この態度には覚えがある。

「…………」

 そうよ。ちょっと考えれば分かるじゃない。

 あの人見知りバカの大和がまともに喋れる女子なんて指で数えるくらいしかいないのよ。

「ははっ。そっかー、ごめんね。中学の時と見た目がガラッと変わったから一瞬、誰か分からなかったんだ」

 誰か分かった途端にホッとするとか。あたしって本当に現金な女よね。

「久しぶりね、美夜子。元気にしてた?」

 なーんだ。相手って美夜子だったんだ。

 心配して損した。美夜子が相手なら何にも問題無いわね。

 だって美夜子はただの友達だから。

 大和が知らない女の子とデートしてるとか、あたしの勘違いだったんだ。

 友達と一緒にいるだけでデートしてるって……本当、早とちりもいいとこね。

 そんな考え方が危険だって事をあたしはこれから嫌ってほど思い知らされる。

「いえいえ。ひめちゃんも相変わらず元気そうでなによりです」

 久しぶりに十年来の友達と再会して和やかなムードで挨拶を交わした。

 このままガールズトークに花を咲かせる──はずだった。

「まぁ、そんな事はどうでもいいんですけどね」

 そんな言葉を火種に。

「というか、いい加減、人の質問に答えてくださいよ。ひめちゃん、何で美夜子と大和くんのデートを尾行してたんですか?」

 美夜子があたしに喧嘩を売ってさえこなければ。

「…………」

 空気感と喋り方で喧嘩を売られているのが何となく分かった。

「……何のこと? あたしはただ家に帰ってるだけだけど?」

 あたしの返答に美夜子は。

「とぼけないで下さいよ。ひめちゃんが美夜子達の後ろをチョロチョロとつけ回していたのは手鏡でバッチリ確認していたんですからね」

 嘘つくな、と言いたげな顔であたしのことを責め立てた。

 ううん。むしろこの顔はアレね。

 邪魔するな、って感じの顔。

「……どの辺りから気付いてたの?」

 ここは素直に尾行を認めるべきだと思った。

 そうしないと話が前に進まないと思ったし、こっちの訊きたい事がうやむやになって聞けないまま終わるのが嫌だったから。

「質問に質問で返してくるのが凄くいらつきますけど。答えてあげるなら、そうですねー、地元の駅前からですね」

「…………へえ」

 なるほど。

 気付いてて『あんな事』してたんだ。これ見よがしに。わざとらしく。

 あんな事を。

「そっか。そうだったんだ……」

 怒りの炎がメラメラと燃えているのが自分でもよく分かった。

「……何で大和とデートなんてしてたのよ? アンタって大和のこと、べつに好きじゃなかったわよね?」

 あたしの質問に美夜子は嫌そうな顔で「やれやれですよ」と首を振った。

「本当にひめちゃんは自己中ですねー。美夜子の質問に答えないで自分のことだけ押し通すとか、相変わらずすぎて美夜子は呆れますよ」

「そういうのはいいから。早く質問に答えなさいよ」

「…………」

 押し黙る美夜子。

 どうも、あたしという女は機嫌が悪くなると声の質がガラッと変わるみたい。

 普段と比べてトーンが違う、ドスの効いた低い声、怒っているのがよく分かる、らしい。大輔と大智がそう言ってた。自分だとその辺のことあんまり分からないけど。

 特に意識してるわけじゃないんだけどね。

 でもさ、リーダー格ってナメられたら終わりだから。

 人の上に立つ人間は格下に負けてはいけない。

 イキる身の程知らずには立場を分からせないと。

 いや、でも。やっぱ、これは性格なんだと思う。

 あたしって割と喧嘩腰だから。

「──だからですよ」

 ボソッと何かを呟く美夜子。

「は? なんて言ったの? よく聞こえなかったんだけど?」

 訊き返したのは単純に言いたい事はハッキリ言って欲しかったから。

「そんなんだから、いじめられるんですよ」

「…………っ!?」

 ガリって。

 鋭い爪で心臓を引っ掻かれた気分だった。

 ずっと前から思ってたんですけど、と美夜子は言う。

「ひめちゃんって何でそんなに偉そうなんですか? 大した才能も実力もない癖に、いつもリーダー気取りして。ワガママ言って『みんな』に迷惑をかけていたのが分からなかったんですか?」

 身体にズキズキと古傷をなぞるような痛みが走った。

「べつに、あたしは……」

 べつに、なんなんだろう。

 何を否定したかったんだろう。

「美夜子は大きな勘違いをしていました。ひめちゃんは凄い人だって」

 見下す様な冷めた目であたしを責める美夜子。

「でも、シャイニー海賊団が解散して、『みんな』がバラバラになって……ようやく分かったんです」

 やめてよ、そこから先は聞きたくない。

「凄かったのはひめちゃんじゃなくて支えてくれる『みんな』の方だったんだなって」

 言わないでよ、あたしは──。

「ひめちゃんは一人じゃ何もできない無能なんですよ」

 あたしはそれを否定出来なかった。

「…………」

 視界がぐるぐる回っている。気分が悪い。

 気持ち悪い。吐き気がする。

 何で?

 何でこんな事になってんのよ?

 美夜子の癖に、あたしに生意気な事言って──無能だとか、マジで何様よ?

 言わなきゃ、違うって、ちゃんと否定しなくちゃ。

「…………っ」

 なのに。どうしても言葉が出てこない。

「ほんと、ひめちゃんの事が好きな二人が可愛そうですよ。大和くんは見捨てられるし、雪雄くんは献身的に尽くしているのに曖昧な態度でずっとキープされているんですから。悪女にもてあそばれてる二人がとても不憫ふびんです」

「…………っ!!」

 ドクン。

 心臓があたしの気持ちに反応して身体の中で暴れ回る。

 自分の気持ちを抑えきれない。

「は? 誰が悪女ですって?」

 さっきから触れられたくない部分ばかり、猫の爪研ぎみたいにカリカリ引っ掻いてきて。

 アンタまであたしのこと悪女とか言うの?

 どいつもこいつも好き勝手言って。

 ムカつく。マジでムカつく。

「アンタに!」

 感情に任せてガッと美夜子の細い腕を強引に掴む。

「あたしの何が分かるのよ!」

 引き寄せて怒鳴る。

「黙って聞いていればペラペラと好き勝手言って、マジでアンタ何様よ!」

 人の目が無い場所で、怒りのままに叫ぶ。

「……やめてくださいよ。天下の公道で怒鳴り散らすとか、暴行罪で訴えますよ?」

 美夜子の声と掴んでいる腕が微かに震えていた。

「は? 先に喧嘩売ってきたのはどっちよ? 煽るだけ煽って逃げるつもり?」

「逃げませんよ」

 瞳に確かな意思を宿して美夜子はあたしに言い放つ。

「美夜子はもう、ひめちゃんになんて“絶対”に負けませんから」

 それはもしかしたら、美夜子なりの恋敵ライバル宣言だったのかもしれない。

「美夜子は大和くんのことがずっと、ずっと昔から好きでした」

 ですから、と。

「ひめちゃんみたいな悪い女に大和くんは渡しませんから」

 ガツンと、ハンマーで頭をぶん殴られた気分だった。それくらい衝撃的な愛の告白だった。

「…………」

 そっか。本気なんだ。

 ガチで大和に恋してるんだ。

 そんな素振り、全然見せてなかったから。意外すぎて完全にノーマークだった。

「……そっか。アンタの気持ちはよーく分かったわ」

 掴んでいた美夜子の腕を離して一言だけ謝る。

「ごめんね、デートを尾行した上に怒鳴ったりして」

 口先だけの本心じゃない謝罪。

 本気で謝る気なんて一ミリも無かった。

 だって。

 あたしはこの時に『ある事』を感じ取ったから。

 ある一つの可能性をこの瞬間に頭の中で思い描いていた。

 それはいわゆる『女の勘』ってやつなのかもしれない。

 ずっと疑問に思っていた。

 何であたしがいじめられたのか。

 本当の犯人が誰なのか。犯人の目的がなんなのか。

 それが今この瞬間に少しだけ分かった気がした。

「……ねえ、美夜子。一個だけ訊いてもいい?」

「…………何ですか?」

 面倒だけど、とりあえず聞くだけ聞いてやろうって顔の美夜子。

 イラつく気持ちを抑えてあたしは美夜子に質問する。

「アンタさ、何であたしがいじめられてたこと知ってんの?」


 

修羅場が続くので次回はなる早で更新します。

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