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幼なじみが幼なじみに負けないラブコメ。  作者: 窪津景虎
承・幼馴染、辞めますか?
32/61

考察、幼馴染の定義(後編)

 俺は過去に二回ほど異性から告白された経験がある。

 一回目は中学三年生の春。

 相手は当時のクラスメイトだった咲花咲耶さきはなさくや

 そして二回目は今年の春。

 相手は前記でべた通り、後輩である見附美夜子。

 正直に言おう。

 告白されるのは、はっきり言って迷惑だった。

 こういう言い方をすると第三者から「お前、何様だよ」と反感を買うかもしれないだろう。

 でもな、一言だけ言わせてくれ。

 好意を寄せられる理由が不鮮明な告白ほど胡散臭いものはない。

 真剣味の無い告白を真に受けることは出来ない。

 邪推というか疑り深いというか。俺はそういう性格だから。

 どうしても、軽い感じで告白されると、罰ゲームの類いとかで俺のことをからかって遊んでいる様にしか思えないんだ。

 一回目の咲花の時だって放課後にいきなり呼び出されて──。

『アタシさ、おーみのこと、ケッコー気に入ってるんだ』

 そんなことを言われたんだ。かなり軽い感じのノリで。付き合ってくれと。

 何の接点も、特に親交も交友も無い、ただのクラスメイトの女子から。

 まぁ、女子の癖に一匹狼を気取っているあの咲花咲耶に限って罰ゲームの線は薄いだろうけど。

 それでも何か裏があるだろうと思ったから、俺は咲花の告白をやんわりと断ったんだ。

 ごめん。他に好きな人がいるんだ、と。

 告白を断る理由としては充分だったと思う。

 それは本心だったし、断る一番の理由だったから。

 それに自分の過去を知らない相手とは仲良く出来る自信が無かったから。

 他人に好きだと言われる自分自身が今一つ信用できないから。

 自分が一番自分のことを信じていないから。

 だから相手からの告白は今まで何か理由を付けて断ってきた。

 色々と理由を付けて逃げて来た。

 見えない針を身にまとっている俺に近付いて欲しく無いから。

 傷付いても責任なんて取れないから。

 自分の手で守ってやれるのは精々一人だけ。

 だから──。

「先輩。今度こそちゃんとした返事を聞かせてください」

 俺はもう一度美夜子の告白を断らなければいけない。

 人目を気にせず話せる場所を模索した結果、行き着いた先はタコの滑り台がある地元の海浜公園だった。

 少しだけ考える時間をくれ。

 そんな情け無い事を言って、駅前からここまで返事を引き延ばしたのは良いけど。

 デートの終わりに公園のベンチで談笑は選択としては悪くないと思う。

「先輩、考えはまとまりましたか?」

 返事を催促されてなければだけど。

「…………ああ」

 追い詰められたというか、自ら死地に飛び込んだというべきか。

 まさか、美夜子の告白が本気ガチだったなんて。

 それが事前に分かっていたら安易にデートなんてしなかったのに。

「…………」

 いや、真意を確かめるためのい引きだろ。今更何を後悔しているんだ。

 答えは最初から決まっているんだ。なら、ここで腹をくくるのが男だろ。

 男なら男らしく最後の責任を果たすべきだ。

「…………悪いけど、やっぱりお前とは付き合え無い」

「なんでですか?」

 俺の断りに後輩は間髪入れず訊き返す。

「……理由は前と同じだよ」

「それだと納得出来ません」

 美夜子は。

「俺と付き合うとお前が不幸になるから付き合え無いとか、正直言って意味が分からないです」

 不満そうな顔でそう言った。

「……お前だって『俺の噂』は知っているだろ」

「ええ、存じ上げていますとも。武勇伝じみた根も葉もない噂話は美夜子のラブリーな耳にも入っています。童貞の先輩がヤリチン扱いとか名誉棄損もいいとこです」

「……………」

 人が真面目シリアスな空気を作ろうとしてるのに、どうしてこの後輩は変に茶化してくるんだ。

 やっぱりこいつと話すの疲れるなぁ。いやマジで。

「……知っているならもう分かるだろ。俺と一緒にいるとお前にまで被害がいくんだよ。いい加減、諦めろ」

「嫌です」

「だから、いい加減に──」

 隣にいる後輩の指が「お口チャックしてください」と言わんばかりに俺の口元まで迫って来て不意に言葉が詰まる。

「先輩、『その問題』は前回でもう話が着いたはずです。先輩が『勝手にしろ』と仰ってくれたので美夜子は勝手にさせてもらいます」

「…………」

 いや、言ってねーよ。スマホで筆談しただけだ。

 そんなガキみたいな言い訳をこの場でのたまうのは文字通りの場違い、だよな。

 一回目はともかく、二回目にもなると同じ理由では振れないか。

「……どうして俺なんだよ? はっきり言って、お前に好意を寄せられる理由が俺にはよく分からない」

 そんな漠然とした問いに美夜子は少し困った顔で答える。

「ん〜、本人を前にして好きになった理由を赤裸々に語るのは美夜子裁判だと一種のパワハラになるんですけど……」

「いや、別に強要しているわけじゃないからパワハラでは無いだろ」

「むぅ、じゃあラブハラです」

「ラブハラって何だよ」

「ラブハラスメントですよ。恋愛とか結婚関係で相手に精神的な苦痛を与える行為です」

「へぇ……」

 いや、精神的苦痛を与えた覚えはないんだけど。

 そんなに話したくないのか?

 言わなくても察して欲しいと思う気持ちは分かると言えば分かるけど。

 生憎と複雑な乙女心を理解できるほど容姿も精神もイケメンじゃないから。

 イケメンじゃないから理由無き好意に警戒心を募らせるのは至極真っ当な反応であり、理由を問い質す行為は必然な対応だと俺は思う。

「もう、先輩は本当に鈍感ですねー。好きになった理由は言わなくても何となくフィーリングで分かるじゃないですか……」

 モニョモニョとハッキリしない口調で文句を言う後輩。割合珍しい反応だった。

「いや、無茶言うなよ。フィーリングで分かるならわざわざ野暮なこと訊かないから」

「むぅ、野暮なことを言ってる自覚はあるんですね」

「まぁ、多少はな」

「そうですか……分かりました。先輩を好きになった理由をお話しします」

 意を決したのか、スカートの裾をキュッと握って後輩は言い辛い事を俺にカミングアウトする。

「笑わないでくださいね?」

 そんな前置きを一つして。

「先輩は──『大和くん』は美夜子にとって“お兄ちゃん”みたいな存在なんです」

 少し頰を赤らめて恥じらいながら赤裸々に。

「美夜子にはお姉ちゃんはいてもお兄ちゃんがいませんから。ずっと、ずっと昔から、お兄ちゃんという存在に憧れていました」

 視線を右往左往と彷徨わせて。

「大和くんがお兄ちゃんになってくれれば、それは美夜子にとって、とても幸せなことで……」

 しどろもどろになりながら、一生懸命に語る。

「だから、大和くんにはお兄ちゃんになる事は無理でも限りなくお兄ちゃんに近い存在になってもらいたいんです」

 その言葉は飾らない美夜子自身の本音の様に感じられた。

「…………」

 なるほど。

 そういう理由だったのか。

「そうか、お前の気持ちは分かったよ」

 なら、俺が言うべきことはただ一つだ。

「つまり、俺が朝美あさみさんか夕実ゆみさんのどっちかと結婚すれば良いんだな!?」

「いえ、それは違います」

 俺の考えた渾身のボケが冷淡な一言でバッサリと切り捨てられた瞬間だった。

 ちなみに朝美さんと夕実さんは二十歳と十八歳の大学生で美夜子の実の姉である。

「先輩、ふざけないでください。それは空気読めてないとかそんな次元じゃなくて人として最低の発言ですよ」

 氷の様な冷たい目で俺を蔑む後輩。目が完全にわっていた。今なら人一人くらいなら普通にる感じの殺気を放っている。

「はい。ごめんなさい」

 後輩の目が怖かったので即座に謝罪の言葉を紡ぐ。心情的には土下座したい気分だった。

「謝ったくらいで美夜子が許すとでも?」

「…………」

 いや、分かってるよ。

 真剣な告白に水を差すのは人としても、男としても最低な行為だって。

「悪かったよ」

 でもさ、やっぱり思うんだ。

 本気の本気で告白を断ったら間違いなく美夜子の心が傷付くって。

 俺はイケメンでも無いし出来た人間でも無いから。

 相手を傷付けない上手な断り方ってやつが分からないんだ。

「……そう言ってくれるお前の気持ちは素直に嬉しいよ」

 上手に断れないなら、せめて真摯に受け止めて誠実に応えるのが筋だよな。

「正直に言って、お前に懐かれるのそんなに悪い気分じゃなかった」

 言いながら気付いた。どうして美夜子のことを幼馴染だと認めたくないのかを。自分の口で語りながら俺は『それ』に気付いた。

「お前に言われるまでそんな事、あんまり思ってなかったんだけどな」

 ストンと、何かがに落ちる感覚を覚えた。合わなかった歯車が急にガチっとはまった様な、そんな感覚。

「やっぱり俺にとってもお前は妹みたいな存在なんだよ」

 俺にとって美夜子は妹の様な存在だった。だから幼馴染には思えないし、今まで異性としてあまり意識していなかった。

「だからな、美夜子のことは好きになれない。妹ポジションにガチ恋するのはモラルに反すると思うから」

 断る理由としては満点でなくても及第点くらいにはなったと思った。

 だから俺は。

「ごめん。お前とは付き合え無い」

 もう一度、美夜子を振る。

「嫌、です……」

 声を震わせて美夜子は呟く。

「どうせ振るなら納得のいく理由でちゃんと振ってください」

 雨に濡れた子猫の様な目で俺にすがりつく美夜子。

 その仕草に心臓がドキリと跳ね上がる。

「大和くんには美夜子だけの大和くんになってもらいたいんです」

 美夜子は俺の手を掴んで自分の頭の上にポンと乗せる。まるで撫でてくれと言わんばかりに。

「美夜子は末っ子だから、甘えん坊でワガママなんです」

 美夜子は。

「美夜子は大和くんに頭を撫でてもらうのが大好きでした」

 畳み掛ける様に。

「でも、美夜子は猫っ毛だから大和くんに頭を撫でてもらうと指が髪に引っかかるんです。撫でてもらうのは好きなのに、それが地味に痛くて悩んでいました」

 だからと。

「撫でやすい様に髪の毛をストレートにして、もっと構ってもらうために頑張ってイメチェンしたんです。大和くんにいっぱい可愛いって言ってもらいたいから……」

 健気に自分の心情を呟いた。

「…………」

 人気の無い場所を選んで正解だった。

 こんなところを誰かに見られたら完全に恋仲カップルだと誤解される。

 公衆の面前でイチャつくパリピのバカップルだと。

「美夜子は大和くんの事が本気で好きなんです」

「…………」

 当惑。

 困った。どうしたらいいか本気で分からない。

 美夜子の健気さに心が揺れたのは事実だ。

 こいつが本気なのもフィーリングで分かる。

 可能ならその気持ちに応えてやりたい。

 でも。それはやっぱり出来ないことなんだ。

 美夜子よりも好きな相手がいるのは本音だし、可能性が潰えるまで諦めたく無いのも本心なんだ。

 断る理由はある。納得のいく説明を出来る自信も。

 だけど。

 それをこの場で言ったら美夜子の心は確実に傷つく。

 前回みたいに軽いノリで告白した時とは明らかに違う。表情に確かな真剣さがある。

「…………」

 今にも泣き出しそうな顔をしている美夜子。その揺れる瞳を見ると胸が苦しくなる。

 男の子は女の子に優しくしましょう。

 脳裏に浮かぶ自戒の念。

「…………」

 そうだよ。

 今この場で完全に振る必要はないんじゃないか?

 答えを先延ばしにするのは男として卑怯な行動だけど、酷い振り方をして無理矢理にでも諦めさせるよりはまだマシな方だと思う。

 例えその対応が最終的に残酷な結末を迎えるとしても。

「……美夜子、お前に聞いて欲しい事があるんだ」

 愛犬の頭を撫でる様な感覚で後輩の頭を撫でながら俺は言う。

「今のままだと、お前の事、妹としては見れても、一人の女の子として意識することは出来ない」

 だからな、と。

「俺に意識して欲しいなら。女をもっと磨け。お前はまだ少し子供っぽさが残っているんだよ」

 激励に近い言葉を美夜子に送った。

「…………分かりました」

 美夜子は──。

「意識、させますからね」

 そう言って瞳を閉じた。

 そして。

「本来なら手の甲にキスをするのは男性の方なんですけど」

 俺の手を取り──手を取り!?

「えっ、ちょ待て……」

「待ちません」

 チュッと。

 美夜子の柔らかい唇が俺の手の甲にそっと触れた。わざとらしく音が出るように指の辺りにもキスをする後輩。

「ん……」

 猫の様にチロチロと指を舐めるその仕草に背中が無性にむず痒くなる。

「お、おま、お前、いきなり何やってるんだよ!?」

 悲鳴じみた俺の声が耳に届いたのか後輩はゆっくりと名残惜しそうに手から唇を離した。

「先輩」

 美夜子は悪戯っぽく笑って。

「本気で好きじゃない相手にボディタッチをしたり、恥ずかしげも無くキスをするほど美夜子は安い女でもビッチでも無いですからね?」

 俺の耳にそっと唇を寄せて一言だけ殺し文句をささやく。

「先輩だけは特別ですからね?」

 その言葉のせいで不覚にも身体がゾクゾクと震えた。

「…………」

 放心。身体から何かが抜け出た瞬間だった。

「……どうやら、ちゃんと意識してもらえたみたいですね」

 美夜子は俺から離れて別れの挨拶を告げる。

「ありがとうございます先輩。今日のデート、美夜子は凄く楽しかったです」

 ペコリと小さな頭を下げて。

「ごちそうさまでした。それではまた明日」

 放心状態の俺を置き去りにして視界から消えていく後輩。

 それを見て俺はふと思った。

 もう美夜子は幼馴染では無い。

 幼馴染でも無ければ妹ポジションでも無い。

 アイツは──。

 あの後輩はやっぱりただの小悪魔だ。

更新日、火曜に変更してもいいですか(震え声)

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