幕間、哀れな高校生の独白
このあたりでそろそろ、中学三年生の夏に起こった一連の事件である『あの事』を語っておこうと思う。タイミング的には今が頃合いだし今を逃すと語る機会を永遠に失いそうな気がするから。
今から約二年前にあたる、六月の上旬から夏休み直前の七月下旬にかけてその事件は起こった。
俺の幼馴染でありシャイニー海賊団の船長である少女、姫川姫光が所持していた学校内での私物が連続的に紛失する被害が発生した。
有り体に言うと学校でよくあるいじめだ。物を隠したりするしょうもない嫌がらせ。
最初は筆記用具のシャーペン、次にノート、次に内履き、その次は体操着、そして最後は部活で使っていた女子バスケ部のユニフォーム。
日を追う毎に紛失する物品が増えていき犯罪性が増していった。いや、紛失ではなく盗難がこの場合は正しい表現なのだろう。これはもう子供の悪戯で済ませられない事件だ。無くなった姫光の私物は結局最後まで見つからなかった。
たとえそれが、俺を含めた一部の人間しか知らない事だとしても。姫光の受けた精神的苦痛は間違いなく事件になりえる心の傷だ。
だが、これは厳密に言うと案件であり事件ではない。
理由を説明するとこの案件は事件にまで発展していないからだ。なにせ学校側である教師陣にはこの事実は一切周知されていないのだから。
被害者である姫光が学校側への告発を頑なに拒んだからだ。
『犯人はあたしの手で捕まえる。この事は学校に“絶対”言わないでよね。良いわね? これは船長命令なんだからね』
思い返せば馬鹿な事を了承したと思っている。あの時姫光の命令を無視していれば、早い段階で学校側にその事を告発してさえいれば、悪質化する被害を未然に防げたはずなんだ。
姫光はああ見えて結構、先見の明があるから。学校側に知らせた後の展開はある程度の予測がついていたのだろう。
告発したら犯人探しが始まって学級を含んだ学年や学校全体に何かしらの悪影響が出る。多分アイツはそんな事を考えていたんだと思う。
本当に馬鹿だよな。
人の事を馬鹿呼ばわりするけどアイツも大概だ。自己中な性格の癖に他人に要らない気を回しているんだから。
姫光は物事をはっきりと言う性格だから。俺みたいにウマが合う奴も多いけど、逆に合わない奴もそれなりの数はいたのかもしれない。
姫光の事を疎んでいる奴がいる。認めたくないけどそれもまた人の性だし、しょうがないと言えばしょうがない事なんだろう。
でも、いじめは──悪事はしょうがないの一言で済ませられない。済ませてはいけない事だ。
悪は如何なる理由があろうとも断罪されるべきだ。俺はそう思っていた。
別にいじめが許せないとか安っぽい正義心を抱いたわけじゃない。単純に姫光を苦しめる奴が許せなかった。それに姫光が悲しむと俺も悲しくなるから。
だから俺は犯人を探した。たった『一人』で。
自分が犯人に仕立て上げられるとは知らずに。
姫光の仲間である中学時代の友達グループが犯人探しに一切協力していない違和感にも気付かずに。
結果から言って犯人は見つからなかった。いや、この場合は便宜上真犯人と呼称するのが正しいのだろう。
真犯人は見つからなかった。
そして、俺が犯人として吊るし上げられる形でこの事件は収束を迎えた。びっくりするくらいすんなりと。
まるでそうなる事が予定調和だったかのように。
俺も俺で馬鹿だよな。犯人を探していたらその行動を不審がられて容疑者にされるんだから。
犯人を探していたら自分が犯人に仕立て上げられる。ほんと、推理小説の導入にありがちなテンプレ展開過ぎて笑えるものも笑えない。
ほんと、笑えない。お粗末すぎて笑い話にもならない。推理小説なら駄作もいいところだ。
笑い話にも推理小説にもならない。ならこの事件は一体何になる?
王子様がお姫様を窮地から救うおとぎ話。
ふざけんな。
苦しんでいるお姫様を放置していた癖に、いざ容疑者が現れた瞬間に勇んで糾弾する。そんな王子様は王子様でも無いし善人でも無い。ただの偽善者だ。これが本当のおとぎ話なら王子様は間違いなく処されていただろう。
あの野郎が正義であるはずが無い。愚かな王子様に同調して俺を追放した奴らも同類であり同罪だ。
真否もろくに確認しないで王子様の言う事を真に受ける輩は愚民もいいところだ。そんな国は謀反でも起こってさっさと滅べばいい。
『少なくとも君よりかは雪雄の方が信頼に値する』
分かってるよ。日頃の行いが悪いから疑われるし信じてもらえないことくらい。
分かっているけど認めたくないんだ。
あの事件は不審な点が多かったから。
証拠らしい証拠もないのに事件が解決するのは間違っている。弁護の余地もなく断罪されるのは間違っている。無関係の人間まで罪人に石を投げるのは間違っている。
何もかも間違っている政治はもう一度三権分立から勉強し直せ。司法も行政も立法も滅茶苦茶じゃないか。
俺が思うにあの事件は誰かの策略で俺を追放するために仕組んだ茶番劇なのかもしれない。
俺とお姫様を引き剥がすための茶番劇。
被害妄想みたいだろ?
俺を陥れた奴がいるとか思うなんて。
でもな、そうでも思わないとやってられないんだよ。
だっておかしいだろ?
俺が追放された日を境に姫光に対するいじめ行為もピタリと止んだんだぜ?
作為的な何かが働かないとそんな偶然起こるわけがないんだ。
だからこそ恨み言に頼らないと自分を保てないんだ。
俺は悪くない。悪いのは真犯人と俺を追放した彼奴らだ。そうでないならこの世界が悪い。そう思って今まで生きてきた。
だからだろうか。
そういう醜くてドス黒い感情があるから。
俺は未だにヤマアラシのジレンマを、先生の言葉を、心の何処かで疑っているのだろう。




