後日談「その切れ味を確かめたいと思ったら......」
こうして、「非日常」は終わりを告げた。
彼らは「非日常」から抜け出し、徐々に「日常」を取り戻して行った。
あれから六日後......
彼らは、取り戻した「日常」をどう過ごしているのだろうか......
(あれから......六日たったわね......)
頭の中で気佐野が話しかけた。
(まったく......しばらく入院することになろうとは......)
(これで何度目かしら?)
(しらんな)
(大ちゃん、結構無茶するから少なくはなかったと思うわ)
気佐野がそう言いながら笑っているような気がした。
病室の窓を見つめていると、病室の扉から誰かが入ってきた。
「あ......あの......」
「暗井か......どうなんだ? 署の方は」
「いえ......特に......
ただ、警部補の様子を見てこいって上から......」
「そうか......」
俺はあの日以来気になったことを聞くことにした。
「暗井......あの事件はどうなった?」
「はあ......服屋の方でしょうか......? それとも女子高生の......」
「両方だ。その二人は親子だという噂を聞いた」
「それなら......父親の方から言います......」
服屋の事件の結末を簡単に話すとこうだ。
服屋の店主は否定し続けていたが、娘の逮捕をきっかけに自白した。
衝動的に殺した友人の死体は部屋に隠したままだったが、
ある日死体を見てみると首が無くなっていた。
さらに腐敗が酷かった為、このまま隠し続けるのは無理と判断した。
早朝に死体をショッピングモール[マンナカ]まで運び、
工事が完了したばかりのトイレに隠した......
「今......二人の事件の裁判の準備が進んでおります......」
「そうか......」
俺は一息つき、今度は気佐野が心配し続けていたことを口にした。
「怖くなったか?」
「はあ......?」
「気佐野が心配していたんだ......
友人を失い、操られていたとはいえ上司を刺したことで
ショックを受けていないか......とな」
「いえ......別に大丈夫です......ただ......」
「ただ......?」
俺が聞くと暗井は原稿用紙を取り出した。
「これは発砲した分の始末書ですが......
実は......始末書を書いたことはなくて......」
「俺に聞くな......そんなもん、一人で書いてこい......」
「はあ......ですよね......それでは失礼しました」
そう呟きながら、暗井は病室から去った。
(大ちゃん、始末書のプロですものね......何枚あったかしら......)
(頼むから黙ってくれ......)
(はいはい)
俺は気佐野と会話しながら、
未だに貯めていた過去の事件の始末書を書き始めた。
NEXT TO 黒加
「ごめん、黒加さん。ノート移させて」
休み時間の時、兎三郎から話しかけられた。
「......これか?」
「そう!! これこれ! 恩にきるよ!」
「......待ってくれ、兎三郎」
「......?」
「今日の放課後......一緒に帰ってくれないか......?」
兎三郎は、亜美の逮捕から数時間後に発見された。
気を取り戻したのはそれから数日後だった。
俺は、あいつから聞きたいことが山ほどあった。
放課後......俺は兎三郎と共に下校した。
「お前の姉は大丈夫なのか?」
「うん、この前見舞いに行ったけどすっかり元気を取り戻していたよ」
「そうか......お前自身は大丈夫か?」
「?」
「辛いかもしれないが......亜美の事件で......その......」
俺が言葉に詰まっていると、兎三郎は答えてくれた。
「うん......いろいろ悩んだよ。
だけど......亜美の話を聞いて納得したんだ。
亜美も悩んでいたんだって......」
そこまで言うと、急に俺の方に顔を向けて話しかけてきた。
「黒加さん......結構優しいんだね」
「は?」
「ずっと他人に素っ気なさそうだったけど、そこまで僕のことを......」
「ち......違う......! お、俺は......」
そこまで言って俺は深呼吸して落ち着いた。
「小雪が......心配して......いたんだ......小雪は......心配症だから......」
「やっぱり優しいんだね」
「......うるさい」
「なあ、もしよかったら後で[青脳]に来てもいいかい?
弟も連れて来たいんだ」
「絶対にこいよ......」
小雪のために......と後から付け足したかったのに
恥ずかしくて言えなかった......
NEXT TO 祐介
「今日もガラガラだな......」
喫茶店[青脳]のカウンターに座っていた山田さんがそう呟いていた。
「何回も言っているけど......今日は水族館が休みなんだって」
影島さんはストレートティーを入れながら話している。
「そういえば山田さん、影島さんから事情を聞きましたが......
最近の息子さんとの関係はどうなんですか?」
僕はテーブルを拭きながら聞いた。
「孤道か? 相変わらずだよ。黒加ちゃんの片思いも......」
そう言いかけて山田さんは僕を見た。
「......探偵じゃなかったのか?」
「はい、探偵兼[青脳]のアルバイターです」
「山田、言ってたじゃないか。探偵仕事と両立させて働かせたらどうだって」
「そうだっけ?」
山田さんはとぼけていたようだった。
事件の後、僕は自分の事務所を探していたけど......
結局いいところが見つからず、
ここを事務所の代わりに使わせてもらうことになった。
もし依頼が来ない日が続いたことも考えて、
ここでアルバイトすることになったわけだ。
「影島さん......祐介さん......お待たせしました......」
小雪ちゃんが部屋から出てきた。
「今日は確か......兎三郎くんが弟くんと一緒に来るんだよね」
影島さんが小雪ちゃんに確認するように聞いた。
「はい......だから......美味しいコーヒーを入れてあげないと......」
「やっぱり、優しいな......」
僕はボソりと呟いた。
(なあ......祐介......)
「ん? 高次? どうしたんだい?」
(事件の後......小雪から話を聞いただろ?)
「ああ、そうだけど......」
(BLUE-CPYは悪魔......あの言葉がどうしても離れないんだ......
別に、怖いとかじゃないんだが......
これからも......こんな事件が起きているんだよな......早く腹をくくらないと......)
「なんだ、そんなことか」
僕は苦笑した。
BLUE-CPYは悪魔じゃない。
人格という名の悪魔の一種に過ぎないんだ。
宿主もBLUE-CPYも
ふとしたことで恐ろしい行動をする恐れがある。
もし自分の人格が持っている刃物が錆び始めたら、
その刃物が錆びる前に刺したくなるかもしれない。
だから、常に人格の刃物を見続けないといけない......
「君たちがその切れ味を確かめたいと思ったら、別だけどね」
THE END
孤道「......」
暑井「おーい! 孤道! 駄菓子屋でなにやっているんだー?」
孤道「別に......」
暑井「ん? 孤道がネックレスを買うなんて珍しいな......」
孤道「関係ねえだろ......それよりも、お前は何しているんだ?」
教師C「おい!! 暑井!! サボるんじゃない!!」
暑井「いけね!! ランニングの途中だった!! じゃあな!!」
孤道「......」
いかがでしたか?
次回作の予告を含めたあとがきもありますので、
そちらも見てくださいね!