第十話「捕まっている人、何か握っていない?」
祐介「あの、これって亀山高校の新しい制服ですよね?」
亜美の父親「あ、はい。確かにそうですが......」
祐介「しかし、あの店主......さっきから不機嫌だね」
孤道「そういえば、あのヒステリック女がお前にこれを渡せって言ってたな」
黒加「おい、孤道......」
暗井「け......警部補!?」
大五郎「防犯カメラで見た! 見失ったのか!?」
気佐野「......まだ間に合うわ!」
こんにちは、オロボ46です。
今回は亜美の父親から始まります。
それでは、どうぞ。
「あのクソガキ......」
私は亀山高校の男子制服を手に取って確信した。
一番後ろにかけていた制服の袖に
赤い血痕が付着していた。
まるで返り血のように......
犯人は解っている。
数時間前に店を訪れた冷やかし青年だ。
あの青年......いや、クソガキは懐かしそうに高校名を訪ねていたが、
あれはただの演技なのだ。
それに、頭の中に悪魔を飼っていやがる。
世間ではBLUE-CPYとか言っているが、あれはただの悪魔だ。
口に出すと人権差別と非難されるが、
変な術を使う悪魔を野放して許せる奴らの方の気が知れている。
悪魔による事件のニュースを聞くたびに、
日本は何をやっているんだ、と本気で心配してしまう。
そんな野蛮な奴らとは違って、亜美は綺麗な子だ。
あの子は悪魔に寄生されていないし、
付き合っている子も真面目そうな子供だ。
亜美には指一本触れさせんぞ......悪魔め。
あのクソガキと悪魔の犯罪は後で警察に通報しよう。
今は待ち合わせ場所に向かわなければいけない。
私は店を早めに閉めて、待ち合わせ場所へと向かって歩いている。
道中、男が私の横を過ぎ去った。
なんだと思っているともう二人の男が次々と走って行った。
まったく、世の中は恐ろしいもんだな......
NEXT TO 黒加
ぜえ......ぜえ......
俺は長い前髪をかき上げ、
息を切らしながらグラウンドを走っていた。
今は五時間目......体育の授業だった。
まったく......スッキリしない時に限って
女子は持久走なんて......
"あの時は勝手に帰ってしまってごめんなさい。
その理由も明日話します"
孤道から受け取った、
亜美の手紙の内容が頭から離れない。
勝手に帰った......?
早退ということなんだろうか?
亜美のことはよく解らなかったが、
小雪の話によると早退したことはなかったらしい。
小雪のことだから、きっと心配するだろう。
"授業の方は特にありません"
あの時のメモ張にはそう書かれていた。
(小雪......俺に言えないことなのか?)
そんなことを考えると、余計に疲れが出てくる。
ふと気がつくと、
目の前にスタート地点を示す白い線が見えた。
(そうだった......今は最後の周回だ......!)
......もうすぐだ!
そう感じながら白い線を踏んだ。
......終わった。
その時、
「俺じゃない!!俺じゃないんだああ!!」
グラウンドに男の叫び声が響いた。
ふと顔を起こすと、一人の男がもう一人の男に拘束されている。
「なにあれ?」
「あ! 手錠を取り出したわ! 刑事よ! きっと!」
「捕まっている人、何か握っていない?」
周りの女子は二人の男を見守っていた。
俺も一緒に見ていたが、
そのうち大事なことに気がついた。
「......なあ、俺のタイムは?」
「......あ!!
ごめん!!黒加さん!!タイム見てなかった!!」
俺の目の前は真っ暗になった。
NEXT TO 大五郎
俺は手に汗を出しながら手錠を男の腕に着けた。
そのそばでは刃物のような物があった。
"俺じゃない!!俺じゃないんだああ!!"
そう言いながら男が取り出したポケットナイフを見た瞬間、
死の恐怖に襲われかけた。
なんとか男の腕を掴んで背負い投げしたから助かっていたが、
一瞬の油断で俺は生死を分けるところまで
追い詰められていたのかもしれなかった。
「け、警部補......」
暗井がこれから何をするのか聞くように話しかけてきた。
まったく......あの時は必死に追いかけたくせに......
「俺が連絡する。お前は......」
そう言った時だった。
プルルル
スマホの着信音が鳴り響いた。
(......上からよ)
気佐野に促され、俺は電話に出た。
「そういうことでしたか......
いや、ありがとうございます。
生徒に被害がなくて本当によかった......」
上からの命令を聞いた後、
体育の担任教師の方に事情を話すとすぐに解ってくれた。
校門の前にはパトカーが一台止まっている。
「ああ、それでは私はこれで......」
俺は立ち去ろうとしたが、突然体の意識がなくなった。
(ごめんなさい、ちょっと借りるわね)
そう俺に言って、気佐野は
グラウンドに座り込んでいる女子高生を指して体育教師に言った。
「あの子、様子がおかしいけど......大丈夫かしら?」
その女子高生には見覚えがあった。
(確か......水族館近くの喫茶店の子だな......)
担任教師は一瞬戸惑ったが、すぐに気づいて彼女の元へ向かった。
「あ、あの......警部補......」
暗井の声が聞こえて、俺は気佐野から体を取り返した。
「おい、暗井......
お前はどうして倉庫に入ったんだ?」
「あ......それはですね......」
話の内容はこうだった。
クレーンゲームで遊んでいると、
店員がソワソワしているのが見えた。
顔をよく見てみると、ケチャップが口元についていた。
それを注意しようと近づくと慌てて倉庫に逃げて行った。
その時に鍵を落としたので、届けようと倉庫まで追いかけたが
本人に突き飛ばされた......
「それで、どうしてあの人が逮捕されるんですか?」
俺は頭を抱えて唸った。
「......警部補?」
「もう車に戻っていろ......」
こいつは......
落とした鍵を届けようとしてあそこまで追いかけていたのか......!?
(それにしても......おかしいわね......)
ショッピングモールに置いて来た車を取りに戻る道で、
気佐野は頭の中で呟いていた。
(......)
俺は何も答えなかった。
(刃物で抵抗する必要なんて......あったのかしら?)
(......!! そういえば......!!)
俺はあの男の逮捕理由を思い出した。
あの男は少なくとも何かしらの犯行はしていなかった......
刃物を突き刺そうとするまでは......
(......上からの報告と関係あるのかしら?)
(......可能性は否定できん)
上からの報告......
それはつい先程、
ショッピングモールで首なし死体を発見した
店長からの通報だった......
To be continued
影島「それにしても......今日はあまりにも客が少ないな......」
いかがでしたか?
次回もお楽しみに!