戦闘
闘技場ステージ。NPCとプレイヤーの歓声の中。俺とテオは同時に剣を抜いた。
今日、俺は初めてテオとデュエルする。理由は簡単。喧嘩したからだ。その決着をつけるべく俺達はこの仮想空間のステージに立っている。
視界中央に現れたテンカウントを追い越す勢いで、心臓が全身に仮想の血液を送る。
そして、そのカウントも遂に一桁に到達。ゼロの表示と同時にfightの文字が弾けた。
俺はそれを見た瞬間地面を蹴った。俺の装備は片手剣一つ。速さが売りの装備だ。最速で長い距離を詰める。対して両手剣のテオは中段に剣を構えた状態で動こうとはしない。
「くらえっ!」
俺の勢い余った初撃は重そうな剣に衝突。火花を散らした。それを確認する暇も無く二撃目を放つ。しかし、それさえも防がれる。そこからは俺の怒涛のラッシュ。しかし、重さを感じさせないほどの速度で俺の攻撃をテオは両手剣で受け止め続ける。
「ふんっ」
テオも黙って攻撃を受けているつもりはないらしい。俺の攻撃をパリイし、相手も攻撃を開始する。しかし、それこそが本当の俺の狙い。長く一緒にいた俺はテオのやり口は知っている。例えば、水平斬りからの右ストレート。
ぶんっ! と言う音と共に空を切った両手剣。その後に流れるように右拳が迫って来た。俺はそれを回避して脇腹に抜けるように斬撃を与える。血液にも似たエフェクトが流れ出す。テオのHPバーが一割削れる。
(どうだ!)
俺は自慢気に振り向いた。しかし、待っていたのは悔しそうな顔では無く凄まじい威力の拳だった。
デュエル開始から十分。両者のHPバーは残り一割となり、安全圏の緑から死を伝える赤へと変化している。
「うおぉぉぉ!」
「せあぁぁぁ!」
いつもクールなテオも今回ばかりは冷静じゃなかった。両者の剣はもう何度も衝突し、刃こぼれがいくつも見えた。体からはいくつも切り口が見え、もうボロボロである。
『うおぉぉぉぉ‼︎』
両者同時に雄叫びを上げ、全力の一撃が衝突した。それにもうついてこれなくなったのだろう。両者の剣が衝撃音と共に砕けた。
俺はそれを瞬時に見極め、両手を握った。
「うらぁぁぁ!」
右拳をテオの頬へ、左拳を顎へと放つ。
拳の衝撃。テオのHPバーが数ドット削れる。それを確認した刹那、腹に凄まじい衝撃を受ける。肺から空気が漏れ出し、その直後に頬に衝撃が走る。そのままノックバックした。
「うおぉぉぉ‼︎‼︎」
吹っ飛ばされそうな体を抑えて踏みとどまり、地面を蹴った。テオも同じく。
右拳を握り、二人は全力で拳を放った。その拳は二人とも頬を捉え、そのままばたりと倒れた。
二人のHPバーは残り数ドット。そんな中、テオが口を開いた。
「動けるか?」
「無理」
「決着つかねーじゃねーか。どうすんだよこの後」
俺とテオが喧嘩をした理由。それは一つの意見の食い違いだった。
「いや、解決法はとっくに見つかってたんだ」
「なんだ?」
「パンとご飯。一緒に食べればいい」
俺がそう言うと、二人は笑い出した。