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全ての結末

 突然現れたシルフ。

 なぜ彼がここにいるのか?

 そしてすぐそばにはサナとクロトが控えている。


 知り合いなのだからそうだろう、シルフ本人だと思う。

 混乱して動けなくなっているとすぐそばにいたヘレンが、


「……リズ様、あそこにいるのはリズ様がよく一緒にいらしたシルフ“様”です」

「ヘレンは知っていたの?」

「ええ……あそこにいるクロトとサナという方々の家に、何者かと思い潜入し、調べようとした際に返り討ちに遭いまして……その時、聞かせていただきました」

「ヘレン、何をやっているの?」

「リズ様の身の安全をお任せされておりましたから」


 そう答えるヘレンの言葉を聞きながら私は、では本当に私の目の前にいるのはシルフなのだろうか? と思う。

 これは夢なのだろうか?

 私が望んだ幸せな夢を、今私は見ているのだろうか?


 自問自答する。

 本当はそれどころではなくて、コミヤを倒した話も含めて色々としなければならないのに……。

 そこで、


「お前、か。やはり、お前だったのか!」


 グド王子の叫び声が聞こえた。

 怒りに満ちたその声に私は我に返る。

 けれどグド王子がその怒りを向けている相手は私ではなく、シルフだった。


 だが、シルフはそんなグド王子を見て、


「貴方がもっとしっかりしていれば俺が入り込む好きなどなかったのです」

「! 嘘だ!」

「それに貴方がリズを酷い言葉で貶め、田舎に追いやった。その経緯も全て僕は知っているのですよ」

「! だが、このコミヤの件も全部お前が……」

「初めから狙っていて、そのコミヤを選んだのは貴方だ。……まさかこんな怪物だとは僕も思いませんでしたが」


 そう言って、先ほどコミヤのいた何もない空間を見るシルフ。

 そこでようやく私はコミヤが私の目の前から消え去ったのだと思った。

 それに酷く安堵している自分がいると気付く。


 当然だろう、貶められた挙句、殺されかかったのだから。

 けれどすべてが上手くいき、そして、私は……そう思ってみるとシルフが私に微笑んだ。

 胸の鼓動が速くなり、私はつい下を見てしまう。


 頬が熱い。

 そう思っているとグド王子が、


「なん……だ……今の反応は! リズは俺には、あんな反応は……」

「好きな女性くらい、自分から惚れさせるくらいの事をできなくてどうするのですか?」

「おま! お前が! リズを……」

「本当に貴方は、リズが好きだったのですか?」


 そこでグド王子にシルフが問いかける。

 私は……彼にとって私はそこまでの相手ではなかったような気がする。

 彼はただ自分が“愛して”欲しかっただけなのでは、という気がするのだ。


 それにグド王子は、


「当然だ。俺はリズが好きだった!」

「では、もうその恋は終わりにしてもらいましょう。貴方にはコミヤ以外の新しい婚約者がいるのですから」

「……なんだと? そんな話知らないぞ?」

「貴方がコミヤに懸想している間に決まった事ですから。ルナローズ、そろそろ安全だろうから出てくるといい」


 そこでシルフは誰かを呼ぶ。

 すると一人の少女が現れる。

 長い金髪碧眼の美少女で、真珠をあしらったピンク色のドレスを着ている。


 どことなくシルフに似た雰囲気の少女だ。

 彼女は私達のすぐそばまでやってきて、


「初めまして。シルフお兄様の妹である、ルナローズと申します。このたびグド王子の新しい婚約者となりました。よろしくお願いいたします、リズお義姉様」


 そう自己紹介をする。

 そう言えば妹が寝取った男をさらに寝取ろうとして言うといった話をしていた気がする。

 でもこの子、どこかで昔見た記憶がある。


 ずっと昔、一度だけ遊んだことがあるような……そう思っていると、


「どこかでお会いしたような、と思っていますか?」

「え、ええ」

「実は昔、私、お兄様と瓜二つでしたので、リズ様、貴方に近づきたいけれど王子の格好だと警戒されてしまうからと、一度衣装を貸したことがあるのですよ」

「え?」

「ここに直接来れたのはただ一度ですが、お兄様は一度窓から貴方の姿を見て一目惚れして、お近づきになりたいと思ったようですわ」


 ……分かるわけがないし、思い出せるわけもないと私は悟った。と、


「でも幼いころのその出会いがシルフお兄様は忘れられないようでしたわ。そして私は、グド王子の事が忘れられなかった。だからこれはとても好都合なのです」

「そう、なの」

「ええ、というわけで元婚約者のグド王子は、私がもらっても構いませんわね? シルフお兄様は差し上げますから」


 にこにこと笑いながらルナローズは私に告げる。

 毒気を抜かれてしまうのは、妙な所でシルフに出会っていたことを教えてもらえたのと、昔からシルフは私を好きでいたという嬉しい事実だった。

 だって私はシルフが好きだから。


 そこでグド王子が青い顔で、


「な、何の話をしている!」

「私がグド王子の新しい婚約者であり、他の誰にもその場所はお渡しする気はない、という事ですわ」

「だ、だが……」

「あのコミヤとくっつか無くてよかったでしょう?」

「それは……だがリズは……」

「私の方が貴方を幸せにできますわ。昔からずっと調べさせておりましたもの。時に私はリズお義姉様に狂うほどの嫉妬を覚えたこともありましたが、今となっては些細な事ですわ」

「ずっと昔から調べさせた?」

「グド王子の好きなものからスリーサイズ、これまでの恥ずかしい思い出まで全て私は知っていますわ」

「う、嘘だ!」

「……では、どうでしょう」


 そこで何かを囁いだルナローズ。

 だがそれにグド王子はさっと顔を青ざめさせて、


「どうしてお前がそれを……」

「だから、ずっと調べさせたといったでしょう? 貴方の全てを私は知りたくて、愛おしいと思っているのですわ」


 そう言ってうっとりと手を握るルナローズ。

 青い顔のグド王子。

 そして他の貴族達は、グド王子に助けを求められる前にというのもあるのだろうが、他国との話などをするためにここから次々と席を外す。


 そのグド王子はすぐにルナローズの手によって何処かへと連れていかれるのが見える。

 これは果たして、ザマァなのか? という気がしたが、


「……あんな人がいたなんて知らなかったわ」

「うん、妹はずっと調べていただけだからね」


 そこでようやく私に近づいてきたシルフに私は、


「……そうなの。でもシルフが王子様だと思わなかったわ」

「僕も隠していたしね。僕自身をリズに見て、愛して欲しかったから」

「ロマンチストね」

「本当は昔で会った時の事も思い出して欲しかったけれど、難しかったかな」

「子供とはいえ、あまり異性と仲良しになるのは好まれなかったからその格好だってわかるけれど、思い出せないよ」


 困ったように笑うとシルフは私をそこで抱きしめた。


「約束通り迎えに来たよ」

「うん。……優しい嘘かと思ってた」

「僕は幾つかリズに嘘をついたけれど、それに関しては“嘘”ではないよ」

「……うん」


 そう言って抱きしめられて私はようやくすべてが終わり、そして、シルフが約束を守ってくれたのだと知って幸せな気持ちになったのだった。







 こうして婚約破棄に関わる一連の騒動は終わりを告げた。

 あのコミヤ関係の手立てを円滑に進めるために、他の国と連絡が取れるよう手伝ってくれたのはシルフの采配らしい。

 またもしもの時に防御するための魔道具職人を寄越したのも、シルフが事前に手をまわしてくれたのだそうだ。


 なんでもシルフのいる国は魔道具作りも盛んであるらしく、あのコミヤを倒した剣もその一つだそうだ。

 そして私は数日事後処理を終えてから、シルフの国に旅立つことになる。

 ヘレンも一緒だ。


 トレドも近いうちにあちらで仕事を探すらしい。

 また、駆け落ちしていたサナとクロトは、シルフによって無理やり連れて帰られてしまったらしい。

 なんでもシルフは転移魔法や分身の魔法などといった固有の特別な魔法が使えるらしく、それで、私のいる都市などに瞬時に移動していたそうだ。


 その結果、何でも両親と、直属の部隊全員を相手に戦って勝利したならば仲を認めてやると言われて、激しい戦闘の末勝利を勝ち取ったらしい。

 それから戻って来たクロトとサナのいちゃつきっぷりに、周りが“何か悪い夢”を見ているのでは、と騒いでいる程度に良好だそうだ。

 ちなみにサナが宮廷騎士団長で、クロトが宮廷魔法使いの長であるらしい。


 あの二人のやり取りに部下たちはよく怯えていたのに、あんな風になるとはとシルフが笑っていたが、仲の良い二人しか知らない私にはよく分からなかった。

 また、療養のために訪れた元のあの辺境へはもう戻ることはないが、あの場所には私の加護が残っているらしく、あのレシピでお菓子を作ると美味しいものが出来ると評判になっているらしい。

 村おこしもなかなか上手くいっているそうだ。


 他には、グド王子がとてもいい具合にルナローズというシルフの妹に、尻に敷かれているとかなんとか。

 しかもグド王子もまんざらではないらしい。

 彼も本当の“愛”を見つけられれば、私にした仕打ちについて理解できる時が来るかもしれない……そう私は思った。


 そう言った話を聞いたり、お嫁入りの準備のために慌ただしい日々は過ぎていく。

 その間、シルフと一緒に居られる時間もあって、手を繋いだりして散歩をしたりこっそり町に出たりもする。

 幸せな時間だけれど、きっとこれはこれからも続いていくだろうと私は思う。


 またいつものように街に出て、とある人けのない公園にやって来た私達。

 私はほんの少しだけ勇気を出して、まっすぐにシルフを見ながら、


「私、シルフが好き」

「俺もだよ」


 そう言って手を繋いだ私は、ここでもう一度以前のようにお願いしてみる。


「キスしたい」


 その言葉にシルフは笑って、私を抱きしめ唇を重ねる。

 とても幸せな気持ちになる。

 その唇はすぐに離れてしまったけれどシルフは私に微笑み、


「これからずっと一緒だ」

「うん」


 それに私は嬉しくなりながら、頷いたのだった。





「おしまい」

ここまでお読みいただきありがとうございました。婚約破棄による事の顛末、最後はハッピーエンドです。今回は悪役キャラの書き方を変えてみたりと、色々と工夫をしてみました。楽しんでいただければ幸いです。他作品もこれから完結まで頑張ります。もしよろしければ読んで頂ければ嬉しいです。

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