全く記憶が無くなってしまったのだった
婚約のお誘いが来ているそうです、そうトレドが私に言う。
寝耳に水の出来事だった。
「ま、待って。私は、その王子様の事なんて覚えていないわ」
「あちらは一度会っただけだそうですが、忘れられなかったそうですよ」
「……え」
「リズ様は美人ですから忘れられないでしょうね」
そうトレドは頷くが、私としては、
「び、美人って、他にも美人はいくらでもいるでしょう? ヘレンやサナだって美人だし」
「確かにお二方も美人ですが、男性にも好みがありますしそれに」
「それに?」
「会話をした時に魅力を感じたそうで」
「そ、そうなの?」
「そうらしいですよ。ただ、リズ様の気持ちが一番重要だそうで……リズ様に愛してもらえるかどうかがその王子様には重要だそうです」
「それ、は……」
私はすぐに答えられなかった。
確かに私の気持ちも汲んでくれて、しかも貴族としての地位もあるわけで……理想的な相手ではある。
けれど、あの王子の身代わりとしてそちらを選択するのは、公爵令嬢として仕方がないとはいえ、相手が思っているのにこたえられるのかどうかというと、自信がない。
“今”その王子は私を、おそらくは“愛してくれている”のだろうけれど、私はその王子を愛せるのだろうか?
政略結婚は当たり前とまではいわないが、私なりに“好意”を持つかどうかはある。
……今は憎らしく感じているあのグド王子だって、私なりに“好き”で“愛している”部分だってあった。
だから私はあれほどまで、心を傷つけられたのだけれど。
でも“今”考えると私の心は……現金なもので、“今”一緒に居て“楽しい”人物に向けられている。
私はついこの間まで“友人”だと思っていた。
そして“今”もそうだと思いたい。
違う、そうではなくて、私は、私は……。
自分の感情に戸惑いと不安を覚えてしまう。
シルフとは、“友人”なのだ。
“異性”の。
それを不思議がられるけれど、そういった仲の良い関係だったのだ。
そうだと私は思っていた。
でも、本当に私はそう思っていたのだろうか?
混乱する頭で考える。
動悸が激しくなって、私は今、とても“怖い”感情に向き合おうとしている気がする。
公爵令嬢という立場上、そして、何らかの話し合いがあるのであれば、私はその王子の所に嫁ぐのだろうというのは、確実な話だった。
でも。私は。
ちらりと私はシルフの方を見る。
私は今どんな顔をしているのだろうと思う。
でも見ずにはいられなかった。
するとシルフはいつものように微笑み、
「おめでとう、リズ」
「……そう」
「あの王子とよりを戻さなくて済むじゃないか。あの男は気に入らないから、リズには丁度いいと思うよ」
シルフは楽しそうに私に告げた。
それに私は衝撃を受けているとそこでシルフが、
「でもリズが危険な目に遭うといけないから、以前拾った魔石はもっているといいよ。いざとなれば使ってもいいし」
「そう、ね……そう」
私はぼんやりと答え、それから別荘に帰るけれど……その間何処の道をどう歩いたのか、全く記憶が無くなってしまったのだった。
評価、ブックマークありがとうございます。評価、ブックマークは作者のやる気につながっております。気に入りましたら、よろしくお願いいたします。




