良い考えがあるんだ
表面が美味しそうな色に焼けたケーキを切っていく。
ふわふわの感触。
今回も上手く行ったと私は思う。
それを切り分け、少しの粉砂糖を粉雪のように降らせてから、生クリームを添えて美味しいケーキの完成だ。
でも魔法で泡だて器を操れるのは楽でいいと思う。
「これを昔は手でやっていたなんて、信じられないわ。大変だもの。……でもどうして、卵白を泡立てることにしたのかしら、謎だわ」
などと、その昔料理人が一生懸命考えたかもしれない内容を、何でこんな大変な事をやろうと思ったのかなと首をかしげつつ、美味しいお菓子が出来ればいいかと私は思う。
また、メレンゲだけは少し多めに作っておいたので、それは後で形を整えて焼き菓子にすることにした。
ただこうなってくると卵黄だけは余ってしまうのだが、それはすでにプリンやカスタードクリームの一部になっている。
久しぶりに作ったお菓子で楽しくなり、いろいろとやってしまった。
鮮度を保存する魔法をかけておけば日持ちする。
こうしてお菓子を作り上げた私は、メイドのヘレンを含めてこれからお世話になるこの地方に住む人たちにも振舞う。
美味しいと笑顔になるその人達を見て、こんな日々もいいかなとか、お菓子作りも楽しいかもと思う。
悪役令嬢と笑われたあの世界の嘲笑がかき消されていくように感じる。
ここに来てよかったのかもしれないと私は思いながら、その日は幸せな気持ちで眠る。
そして次の日。
シルフが来たのでそのケーキを紙袋に入れたものを渡して、
「久しぶりに作ったら楽しかったわ」
「……なるほど」
「もっと色々な人に喜んでもらえたらいいなとは思ったかも」
「そうか。……だったら、俺に良い考えがあるんだ」
シルフがそういって、私の手を握ったのだった。
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